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退職勧奨はパワハラにあたる?労働者が知っておくべき法的な知識と対処法

弁護士監修記事
労働問題
2023年08月04日
2024年10月28日
退職勧奨はパワハラにあたる?労働者が知っておくべき法的な知識と対処法
この記事を監修した弁護士
(アシロ 社内弁護士)
この記事は、株式会社アシロの『ベンナビ編集部』が執筆、社内弁護士が監修しました。

上司から「辞めたほうがいいんじゃないか」「この仕事に向いていないんじゃないか」などと言われ、憤りを感じている方もいるでしょう。

「これはパワーハラスメント(以下、パワハラ)なのではないか?」と、違法性を疑い、ご自身につらい思いをさせた会社に一矢報いてやろうと考える方もいるかもしれません。

会社や上司から退職をすすめられる退職勧奨は、パワハラに該当する場合としない場合があります

パワハラに該当する場合は適切に対処すれば、退職を免れたり、退職したとしても会社に賠償を請求できたりします。

一方、パワハラに該当しない場合でも、ほかの違法行為に該当する可能性もあるため、おとなしく会社のいいなりになることはありません。

本記事では、退職勧奨がパワハラに該当する場合としない場合について解説するほか、実際に退職勧奨の違法性が認められた裁判例、退職勧奨を受けた場合の対処法について紹介します。

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退職勧奨がパワハラになる場合とならない場合

会社や上司から退職勧奨をされたとしても、パワハラになる場合とならない場合があります。

まずは、どのような場合にパワハラとされるのかについて解説します。

原則として退職勧奨自体は違法ではなく、パワハラにならない

退職勧奨とは、使用者が従業員に対して辞職を促す行為をいいます。

退職を強要しているわけではなく、あくまで従業員の自由意思によって退職してもらうことを目指すため、退職勧奨そのものは違法な行為とはいえず、パワハラにもあたりません

しかし、会社は従業員の意思を尊重する必要があり、対象の労働者に対して何度も退職勧奨をおこなうなどして不当に心理的圧力を与えたり、虐げるような言動をしたりすれば、違法行為となる可能性があります。

ただし、何度も退職勧奨を受けて労働者が心理的圧力を感じていたとしても、退職するにあたっての条件変更があるなど、会社から労働者に対する配慮が認められる場合はパワハラには当たらず、違法行為とはみなされない可能性もあります。

一定の要件を満たした退職勧奨はパワハラになる

退職勧奨がパワハラに該当するといえるには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

「①優越的な関係を背景とした言動」とは、職務上の地位が上の人や、同僚や部下であっても業務上必要な知識や経験が豊富で、その人の協力がなければ業務を円滑に遂行できない優位な立場の人からされる言動のことを指します。

また、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること」が指すのは、一般的な社会的通念に照らして、業務とは関係ない、または業務の範囲を超えた言動であることです。

たとえば、「無能だ」「デブだ」「給料泥棒」など労働者の人格を否定するような言動が該当します。

さらに「③労働者の就業環境が害されるものであること」とは、そのような言動によって受ける精神的苦痛によって労働者が能力を発揮できず、業務に支障が生じることを指します。

労働者が受けた退職勧奨がこれら3つの要件に当てはまる行為を伴うものであれば、退職勧奨はパワハラであるといえます。

パワハラ以外にも違法な退職勧奨は存在する

錯誤や強迫によって労働者が退職勧奨に応じた場合は、違法行為です。

錯誤とは、相手に勘違いを起こさせて本来の意図とは違う判断をさせること、強迫とは、相手に畏怖を生じさせ、それによって意思表示をさせることを指します。

以下のようなケースでは、錯誤または強迫による違法な退職勧奨とみなされる可能性が高いでしょう。

違法性が認められれば、労働者の退職の意思表示は取り消されます。

  1. 錯誤による退職勧奨:退職勧奨時に会社から示された誤った情報を基に、労働者が退職の意思表示をした場合
    (具体例:実際には懲戒解雇事由がないにもかかわらず、「自主退職しないのであれば、懲戒解雇する」等と言われて、退職を余儀なくされた)
  2. 強迫による退職勧奨:退職に応じなければ、自身や家族に何らかの不利益が及ぶなどと脅されたために、労働者が退職の意思表示をした場合
    (具体例:「退職しなければ、家族に危害を加える」などと脅され、やむなく退職勧奨を受け容れるに至った)

パワハラになる可能性がある退職勧奨の具体例

パワハラとみなされる退職勧奨とはどのようなものかについての理解を深めるためには、具体例を知るとよいでしょう。

パワハラがあったと認められやすい事例としては、次のようなものがあります。

  1. 「この程度のこともできないなら辞めろ!」などと繰り返し同僚の前で怒鳴って、自信を喪失させることで退職に応じさせようとされた
  2. 退職の意思はないと伝えたら、殴る、蹴るなどの暴行を受けた
  3. 一人だけ毎日倉庫での作業を命じられるなど、ほかの従業員との交流を断たせて退職させようとされた
  4. 到底こなせない量の業務を命じられ、できないと叱責されるなどして退職に追い込まれた
  5. 毎日何も業務を与えられず、退職するように仕向けられた
  6. 「親の介護のためには、辞めたほうがいいんじゃないか」など、プライベートな事柄に言及して退職を迫られた

退職勧奨の違法性が認められた事件

実際の裁判で退職勧奨の違法性が認められた代表的な例としては、以下のような事件があります。

全日本空輸(退職強要)事件(大阪地判平成11年10月18日判決)

全日空が、事故によるけがの影響から休職後に復帰した客室乗務員に対して、能力不足を理由に解雇及び退職勧奨をおこなった事件です。

裁判の結果、解雇が無効と判断されるとともに、退職勧奨の違法性が認められ、全日空に55万円の慰謝料等の支払いと退職から復職までの間の賃金相当額の支払いが命じられました。

なお、退職勧奨に際し、会社から労働者に対しては次のような言動がされています。

  1. 「表情などを見ているとCAに向いていない」「別の道を考えるべき」などと発言した
  2. 「普通は辞表を出すもの」など、長時間にわたって上司から退職を求める旨の話をされた
  3. 上司が寮まで訪れ、退職を求めた
  4. 管理職が実家まで赴き、家族にも本人に退職させるよう頼んだ
  5. 上司が「寄生虫みたいだ」「アナウンスチェックがだめなら辞表を出すように」などと発言した

本裁判例ではパワーハラスメントの成否は争点にはなっていませんが、これらの上司や会社の言動は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである」といえ、パワーハラスメントに該当する可能性があります。

昭和電線電纜事件(横浜地裁川崎支判平16年5月28日判決)

錯誤による退職勧奨があったとして、退職の届け出を無効、退職から復職までの間の損害賠償金として約1,400万円の支払いが認められた事件です。

会社は、関連会社へ出向していた労働者に対して同僚に対する暴言、書類の誤廃棄などを理由に、別会社への面接を受けるよう指示しました。

しかし、労働者が面接日時に遅れるなどしたため、別会社から受け入れを拒否され、会社から退職勧奨をおこないました。

その際、会社は、退職勧奨をした時点で解雇事由はなかったにもかかわらず、「自己都合退職をしなければ解雇処分とする」と言い、労働者を誤信させたことについての違法性が認められました

違法な退職勧奨を受けた場合の解決策

違法な退職勧奨を受けた場合、会社に対しては以下の請求ができます。

損害賠償請求

退職勧奨がパワハラに該当する行為であるなど、退職勧奨の際の言動が違法である場合は、労働契約法第5条の「安全配慮義務違反」、民法第715条1項の「使用者責任」に基づき、会社に対して慰謝料請求(損害賠償請求)ができます。

また、会社の強迫や錯誤によって退職に応じさせられた場合は、民法第95条および第96条に基づき、退職の意思表示の取消しを主張できます。

取消しが認められれば、退職は無効となり、退職日以降の賃金相当額の支払いを求めることもできます

パワハラの慰謝料についてはパワハラの慰謝料はどれくらい?うつ病になったときの相場や必要な手続きを解説をご覧ください。

解雇無効請求|不当解雇された場合

退職勧奨を断ったことにより、会社から解雇されてしまった場合には、解雇が無効であることを理由として、地位確認請求を行うことができます

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パワハラを伴う退職勧奨をされた場合の対処法

パワハラによる退職勧奨を受けたら、次に紹介する方法で対処しましょう。

ご自身の力だけで無理に解決しようとせず、専門家の力を借りるのも大切です。

退職しない旨をはっきりと伝える

一般的に、退職勧奨の違法性を判断するにあたっては、会社が従業員の意思表示を認識する必要があります

退職勧奨に対して従業員が明確な意思を示さずあいまいにしたり、優柔不断な態度でいたりすれば、会社に退職拒否の意思が伝わらず、会社による退職勧奨は違法ではないと判断される可能性が高いでしょう。

そのため、応じるつもりがないなら、退職しない旨をはっきりと会社に伝えなければならないのです。

パワハラの事実を証明できる証拠を確保する

特に裁判を起こすつもりであれば、パワハラの事実を立証できる証拠を準備しておきましょう。

裁判において請求が認められるには、請求の理由となる事実を客観的に証明することが重要です。

有効な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. パワハラを受けている場面の録音データや録画データ
  2. パワハラの事実がわかるメールなどのメッセージ
  3. パワハラの内容を記した日記やメモ
  4. 受傷した場合は医師による診断書やけがの写真 など

弁護士や総合労働相談コーナーなどに相談する

自分一人ではどうにもならない場合は、弁護士や労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、会社の対応の違法性を的確に判断し、相談者の希望に合わせて取るべき対処法を教えてくれるはずです。

会社に対して訴えを起こしたいなら、証拠の集め方についてのアドバイスももらえるでしょう。

また、総合労働相談コーナーでは、相談員が対処法を教えてくれるほか、紛争解決援助制度を利用すれば、会社に対して助言・指導や和解のあっせんをしてくれます

労働局への相談はパワハラは労働局に相談できる?労働局の活用方法やその他の解決方法も紹介をご覧ください。

労働問題が得意な弁護士は「ベンナビ労働問題」で探せる!

弁護士に退職勧奨について相談するなら、労働問題が得意な弁護士を選ぶことをおすすめします。

弁護士にはそれぞれ注力している分野があり、労働問題の解決実績が豊富な弁護士のほうが、知識や経験を多く備えており、早期にご自身の望む結果を得られる可能性が高まります。

労働問題を得意とする弁護士を探すなら、「ベンナビ労働問題」を利用するのがおすすめです。

地域で絞り込めるほか、詳しい相談内容からも探せるため、自分にぴったりの弁護士を見つけやすいでしょう。

初回相談料無料としている法律事務所も多く掲載されているので、ぜひ気軽に利用してください。

退職勧奨に関するよくある質問

退職勧奨自体は違法行為ではないこともあり、自分が不利にならないためにはどうすればよいのかわからないことも多いでしょう。

ここでは、退職勧奨に関してよくある質問とその答えを紹介します。

退職したくない意思表示はどのようにおこなえばよいか?

退職しない意思表示をすれば足ります。

口頭でもかまいませんが、意思表示をしたという証拠を残すためにも書面で通知するのが望ましいでしょう。

退職勧奨拒否通知書」として、退職勧奨には応じない旨、会社から繰り返し退職勧奨を受けているのであれば、やめるよう求める旨などを記載します。

なお、送付の際は、内容証明郵便を利用するのがおすすめです。

内容証明郵便とは、郵便局が「いつ、誰が、誰あてにどのような内容の書面を送付したのか」を証明してくれるサービスです。

配達証明サービスを付加すれば、相手が受領したことの証明もできます。

今後、争いになった際に重要な証拠となり得ますので、確実に会社に対して通知するためにも利用しましょう。

会社が退職勧奨をおこなう目的・理由はどのようなものか?

退職勧奨には、できるだけ穏便に解決したいという会社の意図があります。

従業員側に問題がある場合でも、業績不振など会社側に問題が起こった場合でも、会社が従業員を解雇することは簡単ではありません。

解雇は会社が一方的におこなえるものであるため、従業員が受け容れない可能性も高く、解雇無効を求めて裁判を起こされる可能性もあるためです。

退職勧奨であれば、退職を受け容れるかどうかは従業員の自由意思で決められるため、争いになる可能性を低減させられます

穏便に解決できる可能性が高いため、会社は、解雇ではなく退職勧奨をおこなうことが多いのです。

退職勧奨に応じる場合はどのポイントに気をつけるべきか?

会社のいう条件にそのまま応じないことです。

少しでも退職の条件がよくなるよう交渉しましょう。

例えば十分な退職金の金額をもらうため、退職理由を「自己都合退職」でなく「会社都合退職」としてもらう、特別退職金の交渉をするなど、有利に退職できるよう安易に妥協しないことが大切です。

退職勧奨された場合は退職勧奨された時の対応法|拒否の方法や退職金の相場について解説をご覧ください。

まとめ|パワハラを伴う退職勧奨は弁護士に相談を!

パワハラを伴う退職勧奨は違法です。

退職したくないなら、受け容れる必要はありませんし、受け容れるにしてもパワハラ被害について、相応の賠償を求めることをおすすめします。

とはいえ、自分一人ではどうすればよいのかわからず、不安に思う点も多いでしょう。

そのようなときは、弁護士に相談することをおすすめします

弁護士であれば、ご自身が会社から受けている行為の違法性や今後の対処法について、法的観点から的確にアドバイスをしてくれます。

裁判を考えるなら、証拠の集め方や進め方も教えてくれるでしょう。

弁護士に依頼をすれば、誰より心強い味方となり、ご自身にとって納得できる結果に導いてくれるはずです。

ぜひベンナビ労働問題で、近くで活動する労働トラブルの解決実績が豊富な弁護士を見つけ、気軽に相談してください。

参考:20代でリストラされたらどうすべき!?リストラ後のスムーズな転職成功法 | リバティーワークス

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編集部
本記事はベンナビを運営する株式会社アシロが企画・編集をおこないました。
  • ※ベンナビに掲載されているコラムは、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。
  • ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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