労働基準監督署にパワハラ相談したらどうなる?どこに相談すべきかや解決の流れを解説
厚生労働省が委託事業で実施した「職場のハラスメントに関する実態調査・令和2年度報告書」によると、過去3年間のパワハラについては以下のような調査結果でした。
- パワハラの件数が増加している:11.4%
- パワハラの件数が変わっていない:22.4%
- パワハラの件数が減少している:18.4%
- パワハラ件数の増減がわからない:17.8%
- パワハラの該当事例がない:30.0%
パワハラの増加または件数に変更なしの回答が全体の33.8%を占めており、上司から部下へのパワハラがもっとも多く、いまだに多くの人が悩みを抱えています。
本記事では、パワハラを労働基準監督署に相談するとどう対応してくれるのか、わかりやすく解説していきます。
【参考元】令和2年度厚生労働省委託事業・職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
労働基準監督署にパワハラを相談したときの対応
労働基準監督署にパワハラを相談した場合、対応は以下のようになります。
実効性のある対応はしてもらえませんが、パワハラの被害状況によってはすぐに動いてくれる可能性もあるでしょう。
パワハラは労働局を案内されるケースが多い
労働基準監督署は労働環境の改善や労災事故などに対応していますが、パワハラの相談は基本的に受け付けていません。
労働基準監督署は刑罰規定がある労働関係法のみ対応しているため、窓口に相談しても「担当ではない」といわれるでしょう。
パワハラ行為は「パワハラ防止法」によって規制されますが、現行法には刑罰の規定がなく、労働基準監督署が対応するという法律もありません。
つまり、労働基準監督署はパワハラに対応しないのではなく、対応できないということです。
パワハラの慰謝料請求には対応していない
労働基準監督署は民事トラブルに介入できないため、加害者への慰謝料請求は自分で対応することになります。
パワハラの被害を労働基準監督署に相談しても、慰謝料請求には対応してもらえないので注意しましょう。
労働災害の場合は労働基準監督署が対応する
パワハラによって被害者が精神疾患となり、以下の要件をすべて満たすときは、労働基準監督署が労災認定する可能性があります。
- 発症前おおむね6ヵ月以内に業務上で強い心理的負荷を受けたこと
- 労災認定の対象となる精神疾患と診断されたこと
- 業務外の心理的負荷によって発症したものではないこと
労災認定の対象となる精神疾患には急性ストレス反応やうつ病などがあり、離婚や家族の死亡など、業務以外の強いストレスに起因していないことが要件です。
労働基準監督署の総合労働相談コーナーはパワハラを相談できる
労働基準監督署の窓口ではパワハラの相談を受け付けていませんが、総合労働相談コーナーに相談すると、あっせんなどの手続きを利用できます。
総合労働相談コーナーの役割については、以下を参考にしてください。
総合労働相談コーナーの役割
総合労働相談コーナーは労働基準監督署、または労働局内に設置されており、パワハラの悩みを相談できます。
基本的には会社に対する助言・指導の対応ですが、解決できなかったときは「あっせん」を利用できるので、加害者側と和解できる可能性があります。
あっせんとは、弁護士や社会保険労務士などの専門家が当事者の間に入り、話し合いで和解を目指す解決方法です。
ただし、専門家が提示した解決策には強制力がないため、あっせんの直後はパワハラが収まっても、すぐに再発するリスクがあるので注意してください。
【参考元】総合労働相談コーナーのご案内
労働基準監督署以外のパワハラ相談先
労働基準監督署はパワハラの相談先になっていないので、被害に悩んでいる方は以下の相談窓口を利用してください。
弁護士
労働問題に詳しい弁護士であれば、パワハラの悩みを相談できます。
弁護士はパワハラの証拠収集や慰謝料請求の交渉、訴訟手続きなどをサポートしてくれます。基本的には金銭支払いによる解決を目指すので、加害者へ慰謝料を請求したいときには相談してみましょう。
弁護士への相談は基本的に有料ですが、初回は無料相談にしている弁護士が一般的です。
ひとまず弁護士の無料相談を活用し、パワハラを立証できるかどうか、慰謝料がいくらになりそうか、判定してもらうとよいでしょう。
法テラス
法テラスは法律問題の相談窓口になっており、弁護士がパワハラの解決に対応してくれます。
収入や資産が一定額以下の方は民事法律扶助制度を利用できるので、30分×3回までの無料相談や、弁護士費用の立替払いに応じてもらえます。
ただし、法テラスは弁護士を選べません。
パワハラなどの労働問題を扱ったことがない弁護士が担当すると、十分な慰謝料を獲得できない可能性があることは覚えておきましょう。
【参考】法テラス
労働組合相談センター
労働組合作ろう!入ろう!相談センターは東京都葛飾区に本部があり、労働者の味方として活動しているNPO法人です。
略称が労働組合相談センターになっており、以下の方法でパワハラなどの労働問題を無料相談できます。
- ●相談方法:メールや電話、予約制の直接面談
- ●受付時間:電話と面談は平日の9時00分~17時00分まで
- ●電話番号:03-3604-1294
- ●メールアドレス:consult@rodosodan.org
なお、パワハラの解決方法は話し合いになるため、和解案に会社が従わない可能性も考えられます。
こころの耳
こころの耳は厚生労働省の委託事業になっており、電話やメール、SNSを使ったパワハラなどの相談に応じています。
会社を指導する権限はなく、慰謝料請求にも対応してもらえませんが、パワハラでメンタルを病みそうなときは相談してみましょう。
パワハラの被害で精神疾患になると、現職の継続だけではなく転職も難しくなります。
身近に相談相手がいない方は、こころの耳のスタッフに相談してください。
【参考】こころの耳
法務省みんなの人権110番
みんなの人権110番は人権問題に関する相談窓口です。
相談方法は以下の電話相談と直接面談になっており、法務局の職員や人権擁護委員が対応してくれます。
- ●電話番号:0570-003-110
- ●受付時間:8時30分~17時15分
パワハラの悩みを相談すると、必要に応じて被害状況などの調査をおこない、会社に対して改善要求してくれるので、ハラスメントが起きにくい職場環境になるでしょう。
【参考】みんなの人権110番
パワハラを解決する流れ
パワハラを解決したいときは、まず社内の相談窓口を利用してください。
社内で解決できなければ公的機関に相談するなど、以下の流れで解決を目指してみましょう。
パワハラの証拠を集める
パワハラは自分で立証しなければならないため、まず以下のような証拠を集めてください。
- ●加害者から送信されたメールやLINE
- ●加害者のSNS
- ●暴言などが書かれたメモや付せん
- ●病院の診断書
- ●同僚の証言
加害者が書いたメモや付せんに日付がなければ、自分で日付を記載したノートや日記などに挟んでおきましょう。
パワハラ被害を社内相談窓口に通報する
パワハラの被害を受けているときは、まず社内のハラスメント相談窓口に相談してみましょう。
2020年6月1日にパワハラ防止法が制定され、大企業にはハラスメント相談窓口の設置が義務付けられており、中小企業も2022年4月1日から義務化されています。
相談員は社内のハラスメントに厳正対処しなくてはならないため、パワハラが起きにくいように職場体質を改善してもらえる可能性があります。
ただし、相談員には本来の業務があり、ハラスメントだけを扱っているわけではないため、繁忙期などに相談すると、すぐには対処してもらえないかもしれません。
相談窓口の形骸化により、ほとんど機能していないときは、次のステップに進みましょう。
パワハラの差止要求を内容証明郵便で送付する
加害者がパワハラをやめないときは、会社に対して内容証明郵便で差止要求を送付してください。
内容証明郵便を送付すると、いつ・誰から誰に・どのような文書が送付されたか郵便局が証明してくれるため、「相談は受けていない」などの言い逃れを防止できます。
被害者の本気度も伝わりやすいので、会社側もすぐに対処してくれる可能性があるでしょう。
総合労働相談コーナーに相談する
社内でパワハラを解決できなかったときは、総合労働相談コーナーに相談してください。
公的機関の介入は会社側も無視できないので、あっせんにより早期解決を実現できる可能性があります。
なお、会社があっせんを拒否したときや、専門家が提示した解決策に従わないときは、調停や訴訟を検討してください。
裁判所に調停を申し立てる
調停は裁判所を介した手続きになっており、話し合いで和解を目指す解決手段です。
話し合いの相手は調停委員になるので、会社側と直接対峙する必要はありません。
調停委員は双方の主張を聴き取り、現実的な解決策を提示してくれるので、会社と和解できる可能性があります。
ただし、判決文が出るわけではないため、調停が成立しても、結果的にパワハラが野放しになる恐れもあるでしょう。
労働裁判を起こす
調停でパワハラを解決できなかったときは、労働裁判も検討してください。
裁判官の判決には法的拘束力があるため、パワハラの根本的な解決が可能になり、慰謝料も支払ってもらえます。
ただし、裁判は証拠主義になっており、パワハラを立証できなければ敗訴する確率が高くなります。
審理中は裁判所が指定した期日に口頭弁論もおこなわれるので、自分で対応できないときは、弁護士に訴訟手続きを代行してもらいましょう。
パワハラに対処するときのポイント
パワハラは自分で証明しなければならないため、証拠集めが重要なポイントです。
解決の見込みがないときは、以下のように退職も視野に入れておきましょう。
録画や録音でパワハラの証拠を残す
動画や音声データは証拠能力が高いので、可能であればパワハラの状況を録画・録音してください。
朝礼時や上司の席に呼ばれたとき、または別室に呼ばれたときなど、パワハラが起きやすい状況では、あらかじめスマートフォンの録画や録音をオンにしておきましょう。
スマートフォンやボイスレコーダーを持ち込めない職場では、防犯カメラの映像が有力な証拠になる場合もあります。
慰謝料請求には期限がある
パワハラの慰謝料については、「損害および加害者を知ったときから3年以内」が請求期限になっています。
期限を過ぎると請求権が消滅するので、慰謝料を請求するときは消滅時効の起算点に注意してください。
なお、内容証明郵便を加害者に送付しておけば、6ヵ月間は時効のカウントが止まります。
退職も視野に入れておく
パワハラによって大きな精神的ダメージを受けたときは、退職も視野に入れてください。
モチベーションが下がった状態では仕事が苦痛になり、やりがいも見失ってしまいます。
有利な条件の転職先を探したいときは、「キャリアアップステージ」で転職エージェントを探してみましょう。
さいごに|パワハラを解決したいときは必ず証拠を押さえておきましょう
パワハラを解決したい場合、社内の相談窓口や総合労働相談コーナーなどを利用できますが、証拠がなければ動いてもらえません。
調停や訴訟も証拠が重要視されるので、パワハラを証明できるメールやメモがあれば、削除や廃棄しないように注意してください。
自分以外にもパワハラの被害者がいるときは、録音や録画の協力者になってもらうとよいでしょう。
現在はパワハラ防止法も制定されていますが、あくまでも「禁止」ではなく「防止」なので、自分で自分の身を守れるようにしてください。