労働基準監督署は給料未払いを解決してくれる?相談・申告する際の注意点を解説


厚生労働省が公表する「令和3年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント」によると、残業代の不払い是正は以下のような内容でした。
- 是正企業数:1,069企業(前年度比7企業の増)
- 対象労働者数:6万4,968人(同427人の減)
- 支払われた割増賃金合計額:65億781万円(同4億7,833万円の減)
- 支払われた割増賃金の平均額:1企業当たり609万円、労働者1人当たり10万円
割増賃金も給料未払いになるので、会社側から労働への対価が支払われないときは、労働基準監督署に相談してみましょう。
本記事では、給料未払いについて労働基準監督署がどう対応してくれるか、わかりやすく解説していきます。
【参考元】監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度):厚生労働省
労働基準監督署が給料未払いに対応できる範囲
労働基準監督署は申告された労働基準法違反などを調査し、必要に応じて会社へ是正勧告などをおこないますが、給料未払いには以下のように対応してくれます。
会社への立ち入り調査
給料未払いを労働基準監督署に申告した場合、必要と認められるときは会社への立ち入り調査がおこなわれます。
立ち入り調査は事前通知の有無がケースバイケースになっており、証拠隠滅の恐れがある場合は抜き打ち調査になることもあります。
主な調査内容は勤怠管理のデータや賃金台帳のチェックなど、給料や残業代の未払いに関するものですが、社員へのヒアリングも必要に応じておこなわれます。
ほかにも、時間外労働に関する協定書や有給休暇の取得状況なども調査されるので、給料未払いの実態は確実に判明するでしょう。
文書による指導
労働基準監督署の立ち入り調査で給料未払いの実態が判明した場合、指導票や是正勧告書による文書指導がおこなわれます。
給料や残業代の未払いが確認できないが状況の改善が望ましい場合には指導票が交付され、未払いが確実な場合は是正勧告書によって指導されるので、未払いの給料を支払ってもらえる可能性があるでしょう。
ただし、是正勧告書に強制力はないため、給料の支払いが確約されるわけではありません。
会社が文書指導に従わなかったときは、以下のように逮捕権が行使される場合もあります。
逮捕や検察官への送致
労働基準監督官には逮捕権があるため、給料や残業代の未払いが是正されない場合や悪質な場合には、捜索・差押えや逮捕が実行され、検察官への送致や会社名が公表される可能性があります。
労働基準監督署の円滑な対応を求めるために
労働基準監督署は給料未払い以外の労働問題にも対応しており、申告件数も多いため、優先的に動いてもらえる状況を把握しておくほうがよいでしょう。
給料未払いの証拠を集めること
労働基準監督署に動いてもらう場合、給料未払いの証拠を押さえておく必要があります。
「未払いの給料があるかもしれない」では対応してもらえないので、以下の証拠を一つでも多く集め、給料未払いの実態を証明できるようにしてください。
- 雇用契約書または労働契約書
- 就業規則や賃金規定
- 給与や賞与の明細書
- 源泉徴収票
- 超過勤務命令簿
- シフト表
- 給与振込口座の取引履歴
- タイムカードの打刻データや出退勤記録、または出勤簿
- パソコンのログイン・ログオフの記録
- 車両のタコグラフ
- 業務日報
自分1人で準備できる証拠は限られるため、総務や人事担当などの協力も必要となる場合があります。
優先度が高い事情を説明すること
労働基準監督署も重大な事案を優先対応しており、過労死や労災事故などの申告はすぐに動いてくれます。
一方、給料未払いは過労死などの事案にくらべて優先度が低いため、迅速な対応が期待できない場合があります。
給料未払いとともに労災隠しもあるなど、かなり悪質な状況があれば優先的に動いてもらえる可能性が高くなるでしょう。
労働基準監督署が対応しても給料未払いが続くときの対処法
労働基準監督署の立ち入り調査や指導があったにも関わらず、給料未払いが続くときは、法的措置の検討が必要です。
支払督促を申し立てる
簡易裁判所に支払督促を申し立てると、裁判所から会社に対して給料支払いを命じる督促文書が送付されます。
支払督促は書面審査のみで申し立てできるので、簡易裁判所に出向く必要はありません。
また仮執行宣言がふされても会社から異議申し立てがなく、給料の支払いにも応じないときは、強制執行が可能になります。
ただし、会社から異議申し立てがあれば通常訴訟に移行します。
給料を支払う気がない会社は異議申し立てする確率が高いので、支払督促と通常訴訟はセットで考えておく必要があるでしょう。
少額訴訟を起こす
未払いの給料が60万円以下の場合、少額訴訟で回収できる可能性があります。
少額訴訟は原則として1回の期日で判決が出るため、給料未払いを短期間で解決したい方は検討してみましょう。
なお、少額訴訟の場合、通常訴訟へ移行させる権限が裁判所と被告だけに与えられており、原告にはありません。
つまり、少額訴訟で未払いの給料を回収したくても、裁判所の判断や被告の異議申し立てにより、通常訴訟になってしまうケースがあります。
原告が敗訴した場合、異議申し立ては認められますが、控訴はできません。
「確実な証拠があるので審理は1回で十分」といったような状況がある場合は少額訴訟での解決を検討してもよいでしょう。
民事調停での合意を目指す
民事調停は当事者の合意の形成を目的としており、話し合いで給料未払いなどの問題を解決する手段です。
話し合いの際には裁判所の調停委員会が間にはいるため、会社側と直接対峙する必要はありません。
調停委員会は会社と労働者の主張を聴き取り、現実的な解決策を提示してくれるので、双方が納得すれば調停が成立します。
民亊調停で会社側と合意が形成できず給料未払いを解決できなかったときは、訴訟の提起を検討する必要があります。
民事訴訟を起こす
民事訴訟の判決には強制力があるため、勝訴すれば未払いの給料を支払ってもらえます。
請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所へ訴訟を提起してください。
訴訟を提起する際には訴状に原告と被告の名前・住所や、「○年○月から△年△月までの給料を支払え」など、訴える内容を記載する必要があります。
なお、裁判では給料未払いの裏付けとなる客観的な証拠が重要となるのでしっかり準備をしなければなりません。
訴訟の期日は平日となるので平日に休暇を取りにくい方は対応が難しいでしょう。
訴訟の途中で追加資料の提示を求められると審理期間が長くなるので、訴訟を起こすときは入念な準備が必要です。
労働基準監督署に給料未払いを相談する際に注意すべきこと
労働基準監督署に給料未払いを相談する場合、以下の点に注意が必要です。
また、労働基準監督署に動いてもらいたいときは、電話やメールの相談ではなく、窓口に直接申告するほうがよいでしょう。
給料未払いの証拠は自分だけで集めなければならない
労働基準監督署に動いてもらう場合、基本的に給料未払いの証拠は自分で集めなくてはなりません。
経営者が勤怠管理のデータや賃金台帳などを管理している場合、開示請求に応じると自分が不利になるため、まず見せてもらえない場合もあるでしょう。
また、労働基準監督署への申告準備に気付かれると、データを改ざんされたり、証拠を消されたりする恐れもあります。
給料未払いの証拠は人事や総務系の部署に存在することが多いですが、経営者から開示しないようにクギを刺されていると、入手が困難となる場合があります。
入手できない証拠があるときは、ひとまず給与明細や源泉徴収票、シフト表や雇用契約書など、自分で準備できる書類だけでも労働基準監督署の窓口に提出してみましょう。
未払い給料の回収には対応してくれない
労働基準監督署は会社を相手に指導や是正勧告をおこないますが、未払い給料の回収には対応してくれません。
指導や是正勧告により、会社の労働環境はよくなるかもしれませんが、給料は自分で回収しなくてはならないため、法的措置を視野に入れておく必要があるでしょう。
しかし、労働基準監督署に申告すると、経営者が「次は裁判になるかも」と警戒して給料を支払ってくれる可能性もあります。
そのため、労働基準監督署への相談は、未払い給与回収のちいさな一歩として役立つでしょう。
会社に報復される可能性がある
労働基準監督署への申告が発覚すると、会社に報復される可能性があります。
申告を理由とした減給や不当人事、解雇などは労働基準法に違反するため、本来は無効になりますが、会社側も「申告したから減給する」とはいいません。
能力不足や適材適所など、都合のよい理由で減給や降格、遠方への異動命令などが出される恐れもあります。
報復人事も労働基準監督署に申告できますが、給料未払いの申告と報復人事の因果関係についても、証拠を準備しておいたほうがよいでしょう。
労働基準監督署の監督官には守秘義務があるため、申告者が発覚することはありませんが、「自分だけ給料が支払われていない」という状況であれば、申告者が容易に特定されかねません。
給料未払いを労働基準監督署に申告するときは、報復人事などのリスクも想定しておかなければならないでしょう。
さいごに|労働基準監督署で給料未払いを解決できないときは訴訟を検討しましょう
労働基準監督署に給料未払いを申告するときは、少しでも多く証拠を集めてください。
自分で収集できる証拠には限界があるので、総務や人事系の担当者にも協力してもらいましょう。
ただし、労働基準監督署は回収業務などをおこなってくれないため、労働環境が改善されても、給料未払いは解決しない可能性があります。
未払いの給料を確実に回収したいときは、調停や訴訟などの法的措置を検討してみましょう。