相続放棄をするとお墓はどうなる?引き継ぎたくない場合の墓じまいや費用について解説
相続放棄とは相続発生時に相続財産となる資産や負債などの権利、義務の一切を引き継がずに放棄することです。
一般的な相続の場合、相続財産は不動産・有価証券・現金などプラスの財産だけでなく、借金や保証債務などマイナスの財産も全て引き継ぐことになります。
そのため、亡くなった方が多額の借金を残していた、あるいはプラス財産よりマイナス財産のほうが多い場合は相続放棄をしたいと考えるでしょう。
その場合、お墓や仏壇も手放すことになるのでしょうか。
本記事では、相続放棄をするとお墓はどうなるのか、そして引き継ぎたくない場合の墓じまいや費用などについて解説します。
相続放棄をしてもお墓は引き継ぐことができる
結論からいうと、お墓は相続財産ではなく祭祀財産に該当するため、相続放棄をしてもお墓を継承できます。
祭祀財産は祖先を祀るために必要な財産であり、具体的には家系図や位牌、仏壇、墓牌、墓地などが当てはまります。
そして、仮にご自身が祭祀主宰者である場合、相続放棄をしても必ずお墓の相続をしなければなりません。
ここからは、祭祀承継者とその役割について解説します。
相続放棄後もお墓は祭祀承継者が引き継ぐ
お墓は相続財産ではなく祭祀財産に該当するため、相続放棄をしても祭祀承継者が引き継ぎます。
祭祀継承者とはお墓や仏壇、系譜などの祭祀財産を受け継ぎ祖先の祭祀を主宰する人をいいます。
お墓は祭祀財産であるため、預金や不動産などの相続財産とは異なり、相続放棄をしてもお墓を承継することはできます。
ただし、もし相続放棄をしてもお墓の承継を回避できるとは限らない点には注意が必要です。
もっとも、祭祀財産は「家」を承継するという古来の習俗によるものであることから、ほかの相続財産からは引き離して扱います。
これにより、お墓は祭祀承継者が継ぐこととされ、相続人のうち誰か一人が単独で承継するのが通常です。
祭祀承継者の役割とは
祭祀承継者は一族の祭祀を執りおこなう権利を得るため、一定の義務が発生し役割を課せられます。
祭祀承継者の役割は次のとおりです。
- 祭祀財産(お墓や仏壇など)の維持・管理
- 法要などを実施する
- 遺骨や墓地の管理処分の方法を検討・決定する
- 檀家としての務めを果たす
祭祀承継者は祭祀を執りおこなう義務があるわけではないものの、お墓の維持管理や霊園や墓地に対して年間管理費用を支払ったり、定期的におこなう法要の主宰も務めたりします。
また、お墓の移転や分骨などの祭祀財産の処分についても、祭祀承継者の同意がなければおこなうことができません。
ほかにも、お墓があるお寺に場合は檀家としての地位や務めも同時に受け継ぐ必要があります。
お墓を引き継ぐ「祭祀承継者」の決め方
お墓を引き継ぐ祭祀承継者は、次に挙げる方法で決まります(民法第897条1項、2項)。
ここでは、優先順位に応じて説明していきます。
遺言による祭祀承継者の指定
被相続人は生前に祭祀財産の承継者を指定できるため、遺言によって指定されている場合はそれに基づいて決定します。
このとき、遺言書などの書面に限らず、口頭で祭祀継承者を指定することも可能です。
そして、原則として祭祀継承者として指定された方は辞退することはできません。
もっとも、ほかの親族へ祭祀を任せることも想定されますが、あくまでも法律上は被相続人に指定された人が祀承継者となります。
慣習によって祭祀承継者が決まる場合もある
被相続人が文面や口頭で祭祀主催者を指定しなかった場合、その家や地域の慣習に従って決めることがあります。
ここでいう慣習とは旧民法に示されている内容ではなく、新民法施工後に育成されてきた慣習を指すとされています。
日本でよく見られる慣習に配偶者や長男が祭祀主宰者となることが挙げられますが、その内容はそれぞれの地域や家によって異なるため、祭祀主宰者を誰にするかは個別に判断しなければなりません。
しかし、現代では先祖代々の土地や家を相続する長男が祭祀承継者となる慣習は薄れており、家の考え方が薄い地域もあります。
その場合は、親族での話し合いによって決めることが一般的です。
遺言・慣習による決定ができない場合は、裁判所が決定する
被相続人の遺言の指定や慣習においても祭祀承継者が定まらない場合、被相続人の指名がない、慣習も明らかでないような場合は家庭裁判所によって決定されます。
まずは調停をおこない、それでも祭祀承継者が決定できないのであれば審判へと進み、家庭裁判所が祭祀承継者を決定します。
その際、以下に挙げた次の要素が考慮されます。
- 被相続人との続柄
- 生前の被相続人との交流
- 祭祀に関する意思や能力
- 祭祀財産からの場所的距離
- 祭祀財産の取得目的
- 従前の祭祀財産の管理状態
被相続人とどの程度親しい間柄だったのか、墓地の管理をきちんとおこなえるかなどの要素を、家庭裁判所が総合的に評価したうえで判断します。
相続放棄後にお墓を承継する際の手続き
相続放棄後に祭祀継承者に指名された場合、お墓を継承する手続きをおこなわなければならず、お墓のある霊園やお寺に連絡して名義変更の手続きをおこないます。
なお、名義変更に必要な書類は次を参考にしてください。
- 墓地使用権の取得時に発行された書類(墓地使用許可証や永代使用承諾証 など)
- 承継の理由がわかる書類(先代の祭祀承継者の死亡が記載された戸籍謄本 など)
- 祭祀承継者本人の戸籍謄本や住民票
- 祭祀承継者本人の実印と印鑑証明書
- 遺言書や親族の同意書、家庭裁判所の審判書など祭祀承継者であることを証明する書類
なお、お墓の管理場所によって必要書類は異なります。
特に墓地使用許可書がない場合は霊園側とのトラブルに発展する可能性があるため事前に確認しておきましょう。
トラブルが想定される場合は、回避するためにも弁護士や専門家に継承手続きについて相談してみてください。
お墓を引き継げない場合は墓じまいを検討する
祭祀継承者になったとしても祭祀財産を次の世代に後継させるまで保存し続けるとは定められていないため、さまざまな理由で管理が難しく、お墓を引き継げない場合は墓じまいを検討することも選択肢のひとつです。
墓じまいはお墓を解体・撤去し更地にし、土地の使用権を管理者に返還することです。
これにより、お墓の管理の必要がなくなるため祭祀主宰者の負担は軽減します。
しかし、墓じまいの手続きは複雑で、改葬許可申請という行政手続きや寺院や霊園との墓地使用契約の解約、墓石の撤去や受入証明書の提出が必要です。
相続放棄をした場合、祭祀承継者が墓じまいの費用を負担しなければならないため、祭祀承継者になる可能性がある場合はそれを見込んで遺産を相続してください。
なお、祭祀財産は祭祀主宰者の所有物になることから単独で処分できるものの、ほかの親族から強い反発を受けることが想定されるため十分な話し合いが望ましいところです。
祖先を適切な形で祀り親族間のトラブルを防ぐためにも、墓じまいについてはほかの親族と話し合いながら、慎重に検討してください。
墓じまいにかかる費用はどれくらい?
墓じまいに必要な費用の総額は30万円から300万円で、主な内訳としてお墓の撤去に関する費用、行政手続きに関する費用、新しい納骨先に関する費用が含まれます。
墓石を撤去するだけであれば20万円ほどですが、取り出した遺骨を放置したり廃棄したりすることは法律上で禁止されています。
そのため、行政手続きをおこない新しい納骨先に遺骨を納める必要があるのです。
費用相場の幅が広い理由は、地域による相場の違いや閉眼供養のために必要なお布施、新しい納骨先の価格など状況や選択肢によって大きな違いが生じるためです。
お墓の撤去費用以外の目安としては、お寺へのお布施代が3万円から10万円ほど、離檀料が無料から20万円ほどとなります。
ほかにも、墓地や霊園までの通路が狭く墓石がある場所まで重機の侵入が難しい、墓石が山奥にあり工事に手間がかかる、一区画に多くの石碑が並んでおり複数の墓石を撤去しなければならないなどの場合は、墓石の撤去工事費用が高額になる可能性があります。
石材店によって価格が異なるため、複数の石材店から見積もりをとって比較・検討してください。
行政手続きに関する費用については、自治体や霊園に発行依頼の際に書類の手配料として数百円から1,500円が必要です。
そして、新しい納骨先に必要な費用は5万円から250万円ほどで、お布施が3万円から10万円ほど含まれている場合があります。
相続放棄後の墓じまいに関するよくある質問
ここでは、相続放棄後の墓じまいについて、よくある質問を紹介します。
墓じまいを検討している方は参考にしてください。
墓じまいをしたあとの遺骨はどうする?
一般的に、墓じまいで取り出した遺骨は継承者を必要としない永代供養を依頼します。
永代供養とは、霊園などの墓地管理者が遺族に代わって永代に渡り遺骨の供養をおこなうものです。
なお、遺骨は勝手に処分したり、公共の場に放置したりすると死体遺棄罪として扱われます(刑法第190条)。
また、火葬場で焼骨した遺骨でも人間の遺骨は家の庭などには埋葬できず、必ず墓地で埋葬しなければなりません(墓地、埋葬等に関する法律第4条 )。
永代供養を依頼することで遺骨の維持管理や供養継承の義務がなくなり、供養を果たせます。
なお、墓じまいによる遺骨の永代供養は遺骨を永代に渡り供養してくれますが、遺骨が永遠に現存するわけではありません。
この場合の永代供養は、お墓を持たないほかの遺骨と一緒に合祀される合祀墓や、一定期間遺骨を残す納骨堂が選ばれています。
特に、選ばれることが多い合祀墓は一度埋葬すると再び個別に取り出せません。
また、墓じまい後の遺骨の納骨先は、遺骨を残さない樹木葬をはじめとする自然葬を選択する方が少なくありません。
もし墓じまいで取り出した遺骨を残したい場合は、永代供養ではなく自宅に遺骨を保管する手元供養も選択できます。
手元供養は最も費用を抑えられるものの、賛否が分かれやすい選択肢であるため、親族間で十分に話し合って決める必要があります。
墓じまいは一人でやってもよい?
墓じまいを一人でおこなうことはおすすめしません。
先祖やお墓への供養に対する考え方や想いはそれぞれにあり、特に先祖代々受け継がれてきたお墓は身近な家族以外だけでなく、遠縁の先祖が眠っている場合があります。
そのため、自分がお墓の代表管理者でも墓じまいを一人でおこなうとトラブルに繋がる可能性が高いです。
墓じまいを考えた場合は独断で決めずに事前に親族全員に対して相談すべきで、検討している理由に対する賛成意見だけでなく反対意見も丁寧に聞き話し合わなければなりません。
今まで長い期間大切に守ってきたお墓であるからこそ、少しでも関わりのある親族全てに墓じまいの意向を伝えてください。
この手間を惜しむと、後々にトラブルを引き起こしかねません。
墓じまいは親族にとって大きな決断であるからこそ、事前に十分な話し合いをおこない全員が納得できるように進めることが大切です。
墓じまいではなく、お墓の移転も選択肢に
墓じまいではなくお墓の移転も選択肢のひとつに挙げられるでしょう。
たとえば、Aさんが祭祀承継者となったとしても故郷のお墓の場所が遠く管理できない場合、Aさんの家の近くなど管理しやすい場所にお墓を移転できます。
このように、お墓の場所が遠いため墓参りができない、維持が困難、お墓を継ぐ方がいないなどの理由から移転するケースは珍しくなく、問題が深刻化する前に管理しやく墓参りにも行きやすい場所に移転させることで状況の改善が期待できます。
移転の際は寺院や霊園に連絡して移転先を決めるため、まずは現状の墓地を確認して新しいお墓を探しましょう。
新しいお墓が決まれば行政手続きをおこない、遺骨を取り出して法要します。
その後、お墓を解体して墓じまいをおこない、移転先のお墓に納骨すれば終了です。
なお、お墓の移転に必要な費用の目安は20万円から80万円程度となります。
お墓の解体や撤去、運搬にかかる費用はさまざまな要素によって変動するため、移転前にしっかり確認してください。
さいごに|相続放棄後のお墓の管理でお悩みなら弁護士に相談を
本記事では、相続放棄をするとお墓はどうなるのかを解説しました。
お墓は相続財産ではなく祭祀財産にあたるため、原則として相続放棄をしても承継できますが、相続放棄をしてもお墓を承継する祭祀主宰者の役割がなくなるわけではありません。
基本的にお墓を含む祭祀財産の取り扱いは通常の相続財産と区別する必要があり、自身で判断することが難しいため、相続放棄後のお墓の管理などに関しては弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に相談することで遺産分割協議や調停、審判、祭祀財産の承継など、相続にともなう対応について法的な観点からアドバイスを受けられます。
仮に墓じまいをする場合は正しい方法でおこない慎重に進めなければならないため、トラブルなく相続手続きを進めたい方は早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。