自己破産は自分でできる?流れや注意点、弁護士への依頼が無難な理由を解説


自己破産は、裁判所に申し立ててほぼ全ての借金を帳消しにしてもらう手続きで、弁護士などの専門家に依頼せずに自分で手続きを進めることも可能です。
ただし、自分で自己破産を進める場合は書類の準備や裁判所とのやり取りなどを全て自分でおこなう必要があるため、正しい手順を理解しておく必要があります。
本記事では、自己破産手続きを自分でおこなう場合の手順や必要書類、デメリットなどについて詳しく解説します。
記事後半では、弁護士などの専門家に依頼するメリットや、弁護士費用を用意できない際の対処法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
自己破産手続きは自分でもできる
自己破産手続きは、弁護士などの専門家に依頼せずに自分でおこなうことが可能です。
自己破産を自分でおこなう際は、破産手続きを進める際に必要な書類を用意し、申立者自身が住んでいる地域の地方裁判所に対して提出します。
その上で、裁判所の担当者と面接をしたり、債権者とのやり取りを重ねたりして、借金の返済義務の免除を認めてもらう流れとなります。
自分で自己破産を進める場合のメリットとして、弁護士に依頼する費用を節約できるという点が挙げられます。
その一方で、多大な手間と時間が必要になるほか、書類に不備があると破産手続きが認められないなど大きなリスクも伴います。
自己破産の手続きを自分でおこなう際は、注意深く手続きを進める必要があるといえるでしょう。
自己破産手続きを自分でおこなう場合の手順
自己破産手続きを自分でおこなう場合の手順は、おおまかに以下のとおりです。
- 裁判所に申し立てをする
- 破産事件受理証明書をコピーして債権者へ送付
- 裁判官による面接
- 同時廃止事件となった場合は免責手続きへ
- 管財事件となった場合は管財人に引き継ぎ
それぞれの手順について、以下で詳しくみていきましょう。
1. 裁判所に申し立てをする
自己破産手続きの第一歩は、管轄の地方裁判所に申し立てをおこなうことです。
自己破産を申し立てる際は、借金が支払不能であることを証明する必要があるため、収入や資産、借金の明細などが記載された書類を準備します。
手続きの際には、正確な情報を記載し、裁判所の指示に従うことが重要なので、管轄の裁判所に問い合わせて必要書類を漏れなく準備しましょう。
2. 破産事件受理証明書をコピーして債権者へ送付
裁判所が自己破産の申し立てを正式に受理すると、「受理票」が発行されます。
この「受理票」は、債権者に対して破産手続きが受理されたことを通知するための重要な書類です。
裁判所に対して申請をして手数料を支払えば、「破産事件受理証明書」を発行してもらうこともできます。
受理票または破産事件受理証明書をコピーし、自分がお金を借りている全ての債権者に送付する必要があります。
この手続きにより、債権者は借金の返済請求や取り立てを一時的に停止してくれます。
なお、債権者への連絡の際は内容証明郵便を利用すると連絡の内容が証明できます。
受理票などの送付は、配達証明付き郵便などを利用すると配達の事実を記録として残せます。
通知後も債権者からの連絡が続く場合は、裁判所に相談するのがおすすめです。
3. 裁判官による面接
破産手続きが進むと、裁判官による面接がおこなわれます。
面接では、提出した書類の内容について具体的な質問がされ、借金ができた経緯や現在の収支状況について詳しく聞かれることになります。
裁判官との面接は、申立人が本当に返済不能な状況にあるか、不正行為がないかを判断するための重要なステップです。
裁判官との面接は10分程度の短時間で済むケースが多いですが、正直に回答することが求められるため、事前に提出した書類と矛盾しないように準備をしておきましょう。
面接の結果によって、裁判官は自己破産を「同時廃止事件」または「管財事件」のどちらとして処理するかを決定します。
名称 | 概要 |
---|---|
同時廃止事件 | ・破産手続きの開始決定と同時に破産手続きの廃止決定が出る ・申立人の財産がほとんどなく、自己破産による免責を認める上で問題となる事由が特にない場合は同時廃止事件として進められる |
管財事件 | ・裁判所によって選任された破産管財人によって、財産や借金の経緯に関して詳細な調査がおこなわれ、財産を換価処分した上で債権者たちに分配される ・申立人の財産が多かったり、免責不許可事由にあたる事情があったりする場合は管財事件として進められる |
4. 同時廃止事件となった場合は免責手続きへ
裁判所が申立人に処分すべき財産がないと判断した場合、手続きは「同時廃止事件」として進みます。
同時廃止事件では、破産手続き開始決定と同時に破産手続きが終了し、免責手続きに移行します。
申し立てから1ヵ月〜2ヵ月後に管轄の裁判所で免責審尋がおこなわれ、特に問題がなければそのまま免責が決定され、借金の返済義務が帳消しとなります。
5. 管財事件となった場合は管財人に引き継ぎ
申立人に一定以上の財産がある場合、または免責不許可事由が疑われる場合は、手続きが「管財事件」として扱われます。
管財事件となった場合、申立人は裁判所が選任した破産管財人との面接をおこない、その後破産管財人によって財産の管理や処分が進められます。
破産管財人は、申立人の財産を売却して債権者に分配する役割を担い、不正な取引や隠し財産の有無を調査します。
また、申立人は管財人に対して資産状況や取引履歴に関する情報を提供するなど、必要に応じて協力しなくてはいけません。
管財事件では費用負担が増え、時間も長引く傾向がありますが、正当な理由があれば免責決定が下される可能性は十分にあります。
自己破産手続きを自分でおこなう場合の必要書類
自己破産手続きを自分でおこなう場合は、以下の書類を用意する必要があります。
- 申立書(破産手続開始及び免責申立書)
- 陳述書
- 債権者一覧表
- 滞納租税公課(税金)一覧表
- 財産目録
- 給与明細や源泉徴収票など職業や収入に関する書類
- 不動産登記謄本など資産に関する書類 など
自己破産を弁護士に依頼した場合は、これらの書類の大半は弁護士が用意してくれるうえ、漏れがないように確実に処理してくれます。
一方で、自分で手続きをする場合は全ての書類を自分で用意する必要があります。
手続きに必要な書類は裁判所によって異なるので、管轄の裁判所の窓口やホームページから確認して、漏れなく用意して必要事項を記載しましょう。
自己破産手続きを自分でおこなう際にかかる費用一覧
自己破産手続きを自分でおこなう際にかかる費用は、基本的に以下のとおりです。
費用項目 | 金額 |
---|---|
収入印紙 | 1,500円 |
予納郵券 | 【同時廃止事件の場合】 約5,000円(債権者数によって増減) 【管財事件の場合】 約6,000円(債権者数又が20人を越える場合には追加が必要) |
予納金 | 【同時廃止事件の場合】 約12,000円 【管財事件の場合】 40万円以上(借金の内容によって増減) |
【参考】裁判所
自分で自己破産手続きを進める場合は、同時廃止事件であれば2万円~3万円、管財事件となったら40万円程度の費用を裁判所に納める必要があります。
実際にかかる費用は、借金の内容や裁判所によって異なるため、管轄の裁判所に問い合わせるのがおすすめです。
自己破産手続きを自分でする6つのデメリット
自己破産手続きを自分でする場合のデメリットは、主に以下の6つです。
- 自己破産がベストなのか適切に判断できない可能性がある
- 債権者からの督促を止めるまでに時間がかかる
- 手続きに手間と時間がかかる
- 管財事件という扱いになり費用や時間がかかる可能性が高まる
- 免責許可を受けられず失敗する可能性が高まる
- 手続き後にトラブルになるリスクがある
それぞれのデメリットについて、以下で詳しくみていきましょう。
1.自己破産がベストなのか適切に判断できない可能性がある
自己破産手続きは、全ての借金問題を解決する万能の方法ではありません。
借金額や生活状況によっては、任意整理や個人再生など、自己破産以外の手続きが適している場合もあります。
自己破産がベストな解決策ではない状況なのに、十分な下調べをせずに自己破産を進めてしまうと、想定外の財産が失われたり、生活の制限が予想以上に厳しくなったりする可能性があるでしょう。
また、借金の原因によっては自己破産による免責が認められない場合もあり、書類の準備や裁判所とのやり取りが無駄になってしまう可能性もあります。
自分で自己破産手続きを進めると、自己破産がベストな選択肢であるのか適切に判断できないリスクがあるため、弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
2.債権者からの督促を止めるまでに時間がかかる
弁護士に自己破産を依頼した場合は、債権者からの督促はすぐに止まります。
なぜなら、弁護士は自己破産を依頼された当日〜数日後に、債権者に対して「受任通知」という文書を送付するからです。
貸金業法では、受任通知を受け取った債権者は、それ以降債務者に対して督促の連絡をしてはいけないと決められています。
しかし、自分で手続きをおこなう場合、そもそも書類の準備や手続きの進行に時間がかかるうえ、破産申し立て時に受け取れる「受理票」や「破産事件受理証明書」を債権者に対して送付することによってやっと督促を止められます。
以上のような事情から、自分で自己破産を進めると債権者からの取り立てが続く期間が長くなる可能性が高いといえるでしょう。
3.手続きに手間と時間がかかる
自己破産手続きは非常に複雑で、多くの書類を正確に準備する必要があります。
必要な書類には、財産状況や収入、借金の詳細を示すものが含まれますが、これらを揃えるだけでも大きな労力がかかるでしょう。
また、裁判所の指示に従って資料を提出したり、面接を受けたりする必要があり、これらのステップを全て一人で管理するのは難しいでしょう。
さらに、書類不備や情報の誤りがあれば、手続きが遅れる可能性が高まります。
自己破産の申し立て作業を全て自分でおこなう場合、専門的な知識がないと進行が遅くなるばかりか、手続きそのものが認められないリスクもあるのです。
4.管財事件という扱いになり費用や時間がかかる可能性が高まる
自己破産には「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類がありますが、自己破産を自分でおこなう場合は、管財事件に分類される可能性が高まります。
法律に関する知識が不十分な状態で申し立て書類を作成すると、たとえ財産が少ない状況であっても、借金の経緯や財産に関する説明が不足しているとみなされ、破産管財人による調査が必要とされるケースがあるためです。
管財事件では、破産管財人が選任され、申立人の財産調査や処分をおこなうため、手続きが複雑化し、費用や時間が大幅に増加します。
さらに、管財事件では40万円程度の予納金が必要となるため、金銭的負担も大きくなってしまうでしょう。
5.免責許可を受けられず失敗する可能性が高まる
自己破産の目的は借金の免責を受けることですが、自力で手続きを進めたことで説明不足や書類の不備があると、免責が認められないリスクが高まります。
例えば、借金の原因にギャンブルや浪費が含まれている場合は免責不許可事由にあたり、説明が不十分だと免責が認められない可能性があります。
また、財産を隠していたり、重要な情報を裁判所に提出しなかったりした場合も、免責許可が受けられません。
このように、弁護士に依頼せずに手続きをおこなう場合、自分の状況に応じた適切な対応策がわからず、免責手続きに失敗する可能性が高まるといえるでしょう。
6.手続き後にトラブルになるリスクがある
自己破産手続きを自分でおこなうと、手続き後にトラブルが発生する可能性があります。
例えば、裁判所に申し出た債権者一覧に漏れがあり、免責が認められたあとも特定の債務が残っていることが発覚するといったケースもありえます。
また、手続き内容や提出書類に不備があった場合じゃあとから修正や追加手続きを求められることがあり、これが新たなストレスとなることもあるでしょう。
自己破産手続きを弁護士に依頼する6つのメリット
自己破産手続きを自力でおこなわずに弁護士に依頼すると以下の6つのメリットがあります。
- 依頼から数日で債権者からの督促が止まる
- 自己破産がベストかアドバイスをもらえる
- 書類の作成や手続きを任せられる
- 債権者とのやりとりも任せられる
- 同時廃止事件や少額管財事件とされる可能性が高まる
- 免責許可を受けやすくなる
それぞれについて、以下で詳しくみていきましょう。
1. 依頼から数日で債権者からの督促が止まる
弁護士に自己破産手続きを依頼すると、弁護士はすぐに債権者に対して「受任通知」を送ってくれます。
弁護士からの受任通知を受け取った債権者は、貸金業法に基づき取り立て行為を停止する義務があります。
そのため、依頼から数日以内に督促の電話や郵便が止まり、借金問題に対する精神的な負担が大幅に軽減されるでしょう。
2. 自己破産がベストかアドバイスをもらえる
自己破産は、借金問題を解決するための選択肢の一つに過ぎません。
場合によっては、任意整理や個人再生など、他の方法が適していることもあります。
借金について弁護士に相談すれば、専門的な知識と経験をもとに、相談者の収入状況や借金の総額、資産の有無などから総合的に判断し、最適な解決策を提案してくれるでしょう。
また、自己破産に伴うリスクや、他の手続きと比較したメリット・デメリットについても具体的な説明が受けられるため、後悔のない選択がしやすくなります。
3. 書類の作成や手続きを任せられる
自己破産手続きでは、借金の詳細や収入、財産状況などを示すための書類が多数必要です。
弁護士に依頼すると、これらの書類の準備や作成を任せることができます。
専門的な知識を持つ弁護士が準備してくれることにより、必要な情報が漏れることなく、正確な書類が作成されるため、手続きがスムーズに進むでしょう。
また、裁判所への申し立てや、裁判所の担当者とのやり取りなどの手間のかかる作業も代行してもらえるため、相談者自身の負担が大幅に軽減されます。
4. 債権者とのやりとりも任せられる
弁護士に自己破産を依頼すると、債権者とのやりとりを全て弁護士が引き受けてくれます。
これにより、直接債権者とやりとりする必要がなくなり、精神的な負担を軽減できるでしょう。
5. 同時廃止事件や少額管財事件とされる可能性が高まる
自己破産の手続きが「同時廃止事件」と「管財事件」のどちらとして処理されるかは、裁判所の判断によります。
弁護士に依頼して自己破産手続きを進めると、債務や資産状況の申告が正確におこなわれ、裁判所から見ても適切な手続きがおこなわれていると判断されやすくなります。
その結果、管財人が選任されない「同時廃止事件」として処理される確率が高まるでしょう。
また、万が一管財事件となった場合でも、弁護士が代理人となっていれば、費用負担の軽い「少額管財事件」として処理してもらえる可能性が高いです。
6. 免責許可を受けやすくなる
自己破産の最終目標である免責許可を受けるためには、裁判所への正確な情報提供と、適切な手続きが不可欠です。
弁護士に依頼すると、借金の原因や生活状況が正確に整理され、免責が認められるための準備を綿密におこないます。
また、免責不許可事由に該当する場合でも、弁護士が裁判所に対して適切な説明や証拠を提出することで、免責を受けられる可能性があるでしょう。
法律の専門家である弁護士が関与することで「自己破産に向けて誠実に取り組んでいる」とみなされやすく、裁判所からの信頼性も向上し、手続きが円滑に進む傾向があるのです。
自己破産手続きを弁護士に依頼した場合にかかる費用相場
自己破産手続きを弁護士に依頼した場合にかかる費用の相場は以下のとおりです。
同時廃止事件 | 管財事件 | 少額管財事件 | |
---|---|---|---|
裁判所へ支払う費用 | 約20,000円~ | 約500,000円~ | 約200,000円~ |
弁護士費用 | 約200,000〜300,000円 | 約500,000~800,000円 | 約300,000~500,000円 |
合計 | 約220,000〜320,000円 | 約1,000,000~1,300,000円 | 約500,000~700,000円 |
自己破産が同時廃止事件として進められた場合は、裁判所へ支払う費用は数万円で済むうえ、弁護士費用も抑えられるため、トータル30万円程度で自己破産ができることもあります。
管財事件となった場合はより高額な費用が必要になりますが、弁護士に依頼していれば「少額管財事件」として扱ってもらえる可能性が高くなるため、自分で裁判所に申し立てるよりも費用を抑えられるケースもあるでしょう。
自己破産の弁護士費用が用意できない場合の対処法
自己破産を弁護士に依頼する場合、少なくとも数十万円の費用がかかります。
しかし、まとまった費用が用意できないからといって自己破産を諦める必要はありません。
ここでは、自己破産の弁護士費用が用意できない場合の対処法を簡単に紹介します。
法テラスを利用できないか確認する
自己破産の弁護士費用が用意できない場合は、法テラスの利用を検討しましょう。
法テラスとは、経済的に困窮している人でも弁護士など法律の専門家のサポートを受けられるように国によって運営されている公的機関です。
法テラスを利用するには、収入や財産が一定の基準以下である必要がありますが、法テラスの「民事法律扶助制度」を利用すれば弁護士との無料相談や弁護士費用の立て替えなどのサポートを受けられます。
法テラスに弁護士費用を立て替えてもらった場合は、月々5,000円からの分割払いでの返済となるため、まとまった費用が用意できない方でも自己破産が可能です。
弁護士費用が用意できない場合は、まずは法テラスに一度相談してみるのがおすすめです。
【参考】法テラス
分割払いに対応している事務所に依頼する
法律事務所の中には、分割払いや後払いに対応している事務所も存在します。
特に、債務整理の解決実績が豊富な法律事務所であれば、借金問題に悩む方の多くがまとまった費用が用意できないことは理解してくれるはずです。
そのため、少しでも多くの方の借金問題を解決するために、分割払いや後払いに対応してくれるケースもあるのです。
分割払いや後払いに対応している事務所は、支払い方法をはじめとして、相談者一人ひとりの事情に寄り添ってくれる可能性も高いといえるでしょう。
弁護士費用を用意できるか不安な方は、法律事務所のホームページや口コミなどから、分割払いに対応している事務所を探すのがおすすめです。
さいごに|自己破産手続きは自分でやるより弁護士に相談を
本記事では、自己破産手続きを自分でおこなう手順や、自分で進めるデメリットを紹介しました。
自分で自己破産手続きを進めようとすると、書類の準備や裁判所とのやり取りを全て自分でおこなわないといけないうえ、免責が認められない可能性が高まるという大きなリスクがあります。
「弁護士費用を用意できないから自分で手続きするしかない」と考える方も多いですが、実際には法テラスの立て替え制度や法律事務所での分割払いなどを利用すれば、まとまった費用が用意できなくても弁護士に依頼することは可能です。
費用面が心配だからといって無理に自分で手続きをしようとせずに、弁護士に依頼することも検討しましょう。
また、多くの法律事務所が初回の相談は無料で引き受けてくれるため、まずは話だけでも聞いてみるのがおすすめです。