高次脳機能障害の慰謝料相場は?後遺障害等級認定の流れや請求時のポイントを解説


交通事故による高次脳機能障害は、被害者の日常生活や仕事に大きな影響を及ぼすため、多額の慰謝料を請求できるケースが多いです。
高次脳機能障害により受ける精神的苦痛に対して支払われる慰謝料は、後遺障害等級や事故の悪質性などによって異なります。
本記事では、高次脳機能障害における慰謝料の相場や、後遺障害等級認定までの流れなどを詳しく解説します。
また、請求時に注意すべきポイントや適正な金額を受け取るための手続きについてもわかりやすく紹介します。
適切な補償を受けるために、ぜひ参考にしてください。
高次脳機能障害の慰謝料相場|入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を請求できる
高次脳機能とは、知覚・記憶・感情・思考といった脳がつかさどる機能の総称です。
交通事故により頭部に損傷を受けて高次脳機能障害と診断された場合は、十分な補償を受ける権利があるといえます。
高次脳機能障害によって加害者側に請求できる慰謝料は「入通院慰謝料」および「後遺障害慰謝料」の2つに分類できます。
それぞれの慰謝料ついて、相場や算定基準を紹介します。
入通院慰謝料|入通院した日数や期間によって変動する
交通事故により受けたけがで入院や通院を余儀なくされたことに対する慰謝料として、「入通院慰謝料」を請求できます。
入通院慰謝料として請求できる金額は、基本的に入院期間や通院日数に応じて決まります。
慰謝料の金額を決めるための算定基準には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3種類があります。
- 自賠責基準:最低限度の補償を目的とした自賠責保険会社の基準。最も低額になりやすい
- 任意保険基準:各保険会社が独自に定める基準。自賠責基準と同額かやや高い程度
- 弁護士基準:過去の裁判例などをもとにした基準。最も高額になりやすい
たとえば、1ヵ月に10日間通院した場合、自賠責基準と弁護士基準による慰謝料相場は以下のとおりです。
通院期間 | 自賠責基準 | 弁護士基準(軽症/重症) |
---|---|---|
1ヵ月 | 8万6,000円 | 19万円/28万円 |
2ヵ月 | 17万2,000円 | 36万円/52万円 |
3ヵ月 | 25万8,000円 | 53万円/73万円 |
4ヵ月 | 34万4,000円 | 67万円/90万円 |
5ヵ月 | 43万円 | 79万円/105万円 |
6ヵ月 | 51万6,000円 | 89万円/116万円 |
任意保険基準の算定方法は公開されていませんが、弁護士基準ほど高額にはなりません。
少しでも多くの慰謝料を獲得したいのであれば、弁護士に依頼し、弁護士基準で慰謝料を算定・請求してもらうことが重要です。
後遺障害慰謝料|認定された後遺障害等級によって変動する
交通事故によって高次脳機能障害と診断された場合は、入通院慰謝料以外に「後遺障害慰謝料」を請求できます。
高次脳機能障害を負った際の後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級によって以下のように変動します。
等級 | 症状 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
第1級 (要介護) | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,150万円 (1,650万円) |
2,800万円 |
第2級 (要介護) | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 998万円 (1,203万円) |
2,370万円 |
第3級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 861万円 | 1,990万円 |
第5級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 618万円 | 1,400万円 |
第7級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 419万円 | 1,000万円 |
第9級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 249万円 | 690万円 |
自賠責基準は、交通事故の加害者が加入している自賠責保険会社から支払われる最低限の補償であるため、弁護士基準の慰謝料と比較すると額面が大きく下がります。
障害に対して少しでも妥当といえる慰謝料を受け取るためには、保険会社から提示された金額をそのまま了承するのではなく、弁護士に相談のうえ弁護士基準による金額の請求を検討するべきといえるでしょう。
高次脳機能障害の慰謝料を受け取るまでの流れ|4ステップ
高次脳機能障害の慰謝料を受け取るまでの流れは、おおまかに以下の4ステップに分けられます。
- 医師から症状固定の診断を受ける
- 医師に後遺障害診断書を作成してもらう
- 必要書類を準備し後遺障害等級認定の手続きをする
- 加害者や加害者側任意保険会社と示談交渉を進める
それぞれについて、具体的な手順や手続きを進めるうえでの注意点などを詳しく解説します。
1.医師から症状固定の診断を受ける
高次脳機能障害の慰謝料を請求する第一歩は、医師から「症状固定」の診断を受けることです。
症状固定とは、治療を続けてもこれ以上大きな改善が見込めない状態を指します。
症状固定の診断を受けることにより、現在の症状を基に後遺障害等級の認定手続きに進めます。
交通事故によって脳が損傷を受けた場合、事故直後は大きな異常は見られなくとも、時間の経過とともに症状が顕在化するケースもあり、半年〜1年の経過観察期間を要するのが一般的です。
そのため、適切な慰謝料請求のためにも、治療を早期に打ち切るのではなく、医師と相談しながら最適なタイミングで症状固定とすることが重要です。
特に高次脳機能障害は、外見上わかりにくい症状が多いため、医師に詳細な症状を正確に伝え、十分な検査を受けましょう。
また、各種診断書や検査結果は後遺障害等級認定において重要な証拠となるため、丁寧に記録を残しておいてもらうように医師の協力を仰ぐのも重要です。
2.医師に後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定の診断を受けたあとは、医師に「後遺障害診断書」の作成を依頼します。
高次脳機能障害における慰謝料請求をおこなうには、後遺障害等級の認定を受けなければなりません。
そして、等級認定において最も重要な提出資料となるのが、後遺障害診断書です。
後遺障害診断書には、脳の損傷状況、認知機能の障害、記憶力や注意力の低下、日常生活での支障などが詳細に記載されます。
診断書の作成を依頼する際には、具体的な症状を医師に伝えることが大切です。
診断書に記載される内容が不十分だと、等級が低く認定されたり、認定が見送られたりする可能性もあります。
特に、高次脳機能障害は症状が見過ごされやすいため、検査データやリハビリ記録などの補足資料も一緒に用意してもらうとよいでしょう。
3.必要書類を準備し、後遺障害等級認定の手続きをする
後遺障害診断書を入手したら、後遺障害等級認定の手続きに進みます。
等級認定の手続きは「事前認定」または「被害者請求」のいずれかを選択することとなります。
事前認定とは、加害者側が任意保険会社に加入している場合にとれる選択肢で、保険会社に後遺障害診断書を提出すれば、あとの手続きを全て任せることができます。
ただし、事前認定により任意保険会社主導で手続きを進められると、提出書類の取捨選択ができないため、被害者にとって不利な条件で認定を受けるリスクがあります。
そのため、少しでも有利な条件で慰謝料請求をしたい場合は、被害者自らが加害者側の自賠責保険に等級認定を申し込む「被害者請求」がおすすめです。
被害者請求では、用意する書類が多く手続きに手間がかかりますが、その分後遺障害について詳細に報告ができるため、自分の症状に即した等級認定を受けられる可能性が高まります。
被害者請求においては、基本的に以下のような書類が必要となります。
- 後遺障害診断書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診療記録
- レントゲン写真
- 検査結果
- リハビリ記録 など
被害者請求の際は書類準備の負担が大きくなるため、弁護士などの専門家のサポートを受けて進めるのが推奨されます。
専門家のサポートがあれば、等級認定に納得できない場合の不服申立てもスムーズに進められるはずです。
4.加害者や加害者側任意保険会社と示談交渉を進める
後遺障害等級が認定されたあとは、加害者や加害者側任意保険会社と示談交渉を進めます。
示談交渉では、慰謝料、治療費、逸失利益などの金額や支払方法などについて合意を目指します。
基本的に、保険会社は自社の負担を軽減するために低い金額を提示してくるケースが多いといえます。
そのため、交渉の際には示談金の相場を把握しておくことが重要です。
また、提示金額が不当に低い場合は、弁護士に相談し、代理交渉を依頼することで適切な賠償を受けられる可能性が高まります。
交渉に納得がいかない場合は、弁護士に依頼して訴訟を起こすことも検討しましょう。
高次脳機能障害の慰謝料を適切に受け取るための5つのポイント
高次脳機能障害と一口にいっても、症状の重さは人それぞれで大きく異なります。
本来就労するのが難しいほど重い症状があったとしても、きちんと症状に即した後遺障害等級が認定されないと、十分な慰謝料が受け取れないおそれがあります。
適切に慰謝料を受け取るためには、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。
- 高次脳機能障害が得意な病院を受診する
- 被害者は1年以上治療を受けるようにする
- MRIやCTなどの画像検査を受けるようにする
- 家族の方は日頃から被害者の様子を記録しておく
- 交通事故トラブルが得意な弁護士に相談・依頼する
1.高次脳機能障害が得意な病院を受診する
交通事故による高次脳機能障害は、診断が難しいことが多い障害です。
そのため、まず重要なのは高次脳機能障害の診断や治療が得意な医療機関を受診することです。
高次脳機能障害を得意とする病院は、障害の特性を理解しており、正確な診断をおこなうための検査や評価方法のノウハウを備えています。
完治が難しく症状固定とする場合には、適切な後遺障害等級を獲得できるように正確かつ詳細に後遺障害診断書を作成してくれるはずです。
また、専門的なリハビリテーションプログラムを提供している場合もあり、症状の回復に向けても最適な支援が受けられます。
適切な診断を得ることは、慰謝料請求の根拠となる診断書や証拠を整えるためにも欠かせません。
インターネットや医療機関の紹介サービスを活用して、専門性の高い病院を探しましょう。
2.被害者は1年以上治療を受けるようにする
高次脳機能障害は、事故直後の症状が軽度に見える場合でも、時間の経過とともに顕在化することがあります。
そのため、被害者は少なくとも1年以上治療を継続することが重要です。
長期間の継続した治療記録は、被害者の苦痛や損害を証明する重要な証拠となるため、慰謝料請求にも有利に働くでしょう。
また、長期間治療やリハビリを続けたという記録がないと、保険会社から「十分な治療を受けなかったことが原因で症状が悪化したのでは」と詰められるおそれがあります。
以上のような事情から、治療を途中で中断すると示談交渉や裁判で不利になる可能性があるため、医師の指示をしっかりと守り、継続的に通院しましょう。
3.MRIやCTなどの画像検査を受けるようにする
高次脳機能障害の証明には、MRIやCTなどの画像検査が不可欠です。
これらの検査は、脳の損傷箇所を可視化するための最も信頼性の高い手段です。
たとえ交通事故後に高次脳機能障害に当てはまる症状に苦しんでいたとしても、脳の損傷や異常を示す証拠が存在しないと、慰謝料請求は難しいといえます。
特にMRI検査は、脳の微細な変化や損傷を明らかにできるため、診断の精度を高める助けとなります。
医師に依頼して適切なタイミングで検査を受け、結果を記録として保管しておくことが重要です。
4.家族の方は日頃から被害者の様子を記録しておく
高次脳機能障害の症状は外見からでは判断しにくいため、日常生活での影響を詳細に記録することも重要です。
後遺障害等級認定においては、実態に即した等級認定を受けるため、日常生活状況報告書を提出することが必要となります。
日常生活状況報告書は、交通事故によるけがが日常生活に及ぼしている影響を伝えるための資料です。
例えば、以前は問題なくできていた家事や仕事が難しくなった、感情のコントロールが困難になったといった具体的なエピソードを詳細に記録しておけば、日常生活状況報告書の作成に役立ちます。
また、日頃の様子を医師や弁護士にも伝えておけば、診断や交渉をより的確に進める助けとなるはずです。
5.交通事故トラブルが得意な弁護士に相談・依頼する
高次脳機能障害に関する慰謝料請求は専門知識が必要であり、被害者が自力で進めるのは難しい場合があります。
そのため、適切な慰謝料を受け取るためには交通事故トラブルを得意とする弁護士に相談・依頼することが非常に重要です。
経験豊富な弁護士であれば、診断書や画像検査結果、日常生活の記録などを活用して、適切な後遺障害を獲得することができます。
そのうえで、適切な慰謝料額を算出し、加害者側との交渉も円滑に進めてくれます。
また、保険会社との交渉が難航した場合は訴訟に移行する可能性もありますが、裁判手続きも代行してくれるため、被害者や家族の負担を大きく軽減できます。
弁護士選びの際は、交通事故トラブルの対応実績や評判を確認し、実際に相談してみて信頼できるかどうかを確かめるようにしましょう。
高次脳機能障害の慰謝料請求をする際に知っておくべき注意点
ここでは、高次脳機能障害の慰謝料請求をする際に知っておくべき注意点を2つ紹介します。
1.加害者や保険会社と争いになる可能性が高い
高次脳機能障害の慰謝料請求をする際は、加害者や保険会社と争いになる可能性が高いといえます。
高次脳機能障害の慰謝料は、数百万円以上にのぼることも少なくありません。
そのため、加害者や加害者側の保険会社は、請求された慰謝料について何かと理由をつけて出し渋ることがあるのです。
しかし、交通事故の被害を受けたことによる本人や家族の心労は非常に大きいため、十分に交渉する気力を持てずに、保険会社側の提案を受け入れてしまうといったケースもあるでしょう。
また、示談交渉で話がまとまらない場合は裁判に移行することになりますが、訴訟の手続きは時間もかかるうえに大変な手間がかかります。
そのため、適切な慰謝料をスムーズに受け取るためには、法律トラブル解決の専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。
2.時効が成立する前に請求をおこなうようにする
高次脳機能障害による損害賠償請求権には、以下のように時効が存在します。
請求相手 | 時効までの期間 |
---|---|
加害者本人・加害者側の任意保険会社 | 症状固定から5年間 |
加害者側の自賠責保険会社 | 症状固定から3年間 |
時効期間がすぎると、どんなに症状が重くとも慰謝料請求ができなくなってしまいます。
ただし、加害者への催告や裁判上の請求などによって、時効の完成を止めたり、リセットしたりすることは可能です。
時効の完成が迫っている場合には、少しでも早く弁護士に相談するようにしてください。
さいごに|高次脳機能障害の慰謝料の増額を目指すなら弁護士に相談を!
本記事では、高次脳機能障害の慰謝料請求について詳しく解説しました。
高次脳機能障害は、日常生活や仕事への影響が大きく、被害者は十分な慰謝料を受け取る権利を持っています。
しかし、専門家の助力を受けないと、適切な後遺障害等級に認定されなかったり、示談交渉が難航したりして、慰謝料が減額してしまうおそれがあります。
少しでも多くの慰謝料を受け取るためには、交通事故トラブルの解決実績が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。
また、交通事故による慰謝料請求には症状固定から3年〜5年の時効も存在するため、少しでも早く相談するようにしてください。