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相続放棄で家はどうなる?空き家を放置するリスクと管理義務について解説

弁護士監修記事
遺産相続
2025年03月27日
2025年03月27日
 相続放棄で家はどうなる?空き家を放置するリスクと管理義務について解説
この記事を監修した弁護士
佐藤 光太弁護士 (ステラ綜合法律事務所(相続分野))
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相続する財産に家が含まれている場合、「相続放棄をしたのに家が空き家のまま残っている」「誰も管理しない家をどうすればいいの?」などの悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。

相続放棄をしても、家を完全に放置してもよいわけではなく、場合によっては管理責任が問われることもあります。

また、空き家を放置するとさまざまなリスクが生じる可能性があるため、適切な対応が必要です。

本記事では、相続放棄をした場合の家の扱いや空き家を放置するリスク、家の管理義務について詳しく解説します。

本記事を読むことで、空き家問題への具体的な対処法や注意点を理解して、相続放棄をする場合の不安を解消できるでしょう。

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相続放棄後に家の管理義務が残る・残らない場合

相続放棄をすると、相続財産についての権利や義務が失われるのが一般的です。

しかし、相続財産に家が含まれている場合、場合によっては管理義務が残ることがあります。

ここからは、相続放棄後に家の管理義務が残る場合と残らない場合について詳しく解説します。

「現に占有」していれば管理義務がある

相続放棄をしたあとでも、家を「現に占有」しているときは、管理義務が生じます。

「現に占有」とは、単に家の所有者であるだけでなく、実際に家に住んでいる状態や、管理している状態も含まれます

「現に占有」していなければ管理義務はない

相続放棄後に家を「現に占有」していなければ、管理義務は生じません。

たとえば、家に住んでいない、または所有者としての実質的な関与がない場合です。

管理義務がないのであれば、法的な管理責任を問われることは基本的にありません。

2023年の民法改正による変更点

相続放棄後の家の管理義務については、実は2023年の民法改正以前は明文化されていませんでした。

しかし、2023年の民法改正により、相続人が相続放棄時に「相続財産を現に占有しているとき」に限り相続財産の管理義務を負うことが明記されたのです。

【民法改正前(2023年3月31日以前)】

(相続の放棄をした者による管理) 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

引用元:e-Gov法令検索|民法

【民法改正後(2023年4月1日以降)】

(相続の放棄をした者による管理) 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

引用元:e-Gov法令検索|民法

以前は占有しているか否かに関わらず相続放棄後も管理義務が残った

民法改正前は、次のような場合にはたとえ実際に家を使用していなくても、相続放棄をした人に管理義務が課されることがありました。

  • 相続人が1人であり、後順位の相続人がいない場合
  • 相続人が複数いても全員が相続放棄した場合

さらに、相続放棄した人が管理義務を免れるためには、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申立てる必要がありました。

選任手続きには時間と労力がかかるため、相続人には大きな負担になっていたといえるでしょう。

このように、相続放棄をしても管理義務が残り、義務から解放されるためには追加の手続きが必要だったことが、相続放棄を難しく感じさせる要因となっていたのです。

こういった背景を受け、2023年に民法が改正され、「現に占有」している場合のみ相続人が管理義務を負う旨を新たにルール化しました。

「管理義務」と「相続財産管理人」の呼称の変更

2023年の民法改正では、条文の一部の呼称が変更されています。

具体的な変更点は以下のとおりです。

  • 管理義務 → 保存義務
  • 相続財産管理人 → 相続財産清算人

「保存義務」という呼称に変更された理由は、相続放棄者が相続財産について管理や処分の権限を持たないことをより明確にするためです。

また、「相続財産清算人」という呼称に変更された理由は、相続財産全般を管理する相続財産管理人と、相続放棄した財産を管理・清算する相続財産清算人を明確に区別するためです。

いずれも、文言の意味を明確にすることを目的とした呼称変更なので、基本的な制度や手続きに変わりはありません

相続放棄後に空き家として放置するリスク

管理義務が発生する場合には、相続放棄後に空き家になった放置しておくことで、さまざまなリスクが生じます。

以下では、主なリスクを紹介します。

犯罪の温床になる可能性がある

空き家を放置すると、不法侵入や違法行為の温床になるおそれがあります。

とくに、過疎地域にある家やセキュリティが不十分な家は、犯罪集団のアジトになってしまうおそれがあります。

空き家が知らないうちに犯罪に利用されていた場合、管理責任を問われる可能性もあるでしょう。

近隣住民へ迷惑をかける

たとえば、庭や敷地内に雑草が生い茂ったり、建物が老朽化して倒壊の危険が生じたりすると、近隣住民から苦情を受けることがあります。

また、害虫や害獣が発生する原因となり、地域全体の生活環境に悪影響を及ぼすケースもあるので注意が必要です。

しっかり管理しないと損害賠償請求をされる可能性がある

空き家を放置した結果、空き家が倒壊して隣家に損害を与えたり、屋根瓦が落下して通行人にけがをさせたりするなど、近隣住民や第三者に被害を与えてしまった場合には、損害賠償請求を受けるリスクがあります

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相続放棄をした空き家を処分するには

空き家から生じるリスクを回避するためには、空き家の処分を検討すべきでしょう。

ただし、相続放棄をした方が空き家を処分する場合にはいくつか注意点があります。

以下で詳しく見ていきましょう。

相続放棄をした人は処分できない

相続放棄をした人は、「現に占有している」財産に対しては保存義務を負います。

しかし、保存義務があるからといって、相続財産を勝手に処分することは許されません。

もし無断で財産を処分してしまうと、「法定単純承認」が成立してしまい、相続放棄をしていたはずの人が遺産を相続しなければならない状況に陥ってしまいます

相続放棄をしたときでも、相続財産の扱いには十分に注意するようにしましょう。

ほかに相続をした人がいれば、代わりに処分してもらう

相続放棄をおこなった場合、次順位の相続人がいる場合には相続権が引き継がれます。

その相続人が相続を承認すれば、保存義務は次順位の相続人に移ることになります。

そのため、空き家の処分は保存義務を引き継いだ相続人に委ねてもよいでしょう。

相続財産清算人の選任を申立てる

相続人全員が相続を放棄した場合には、家を占有している方に保存義務が残ります。

占有者が保存義務を免れるためには、家庭裁判所に対して「相続財産清算人」の選任を申立てる必要があることを覚えておきましょう

相続財産清算人とは、被相続人が残した債務を整理し、債権者への支払いなどの清算手続きをおこなったうえで、最終的に残った財産を国庫に帰属させる役割を担う人物です。

たとえば、空き家の売却を検討したり、土地を国庫帰属させるための手続きを進めたりします。

そのため、選任された相続財産清算人に財産の管理を引き継ぐことで、家の占有者は保存義務を負わなくなるのです。

相続財産清算人の選任に必要な書類

相続財産清算人を選任する場合、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に選任の申立てをおこなう必要があります。

申立てに必要な書類は、以下のとおりです。

(1) 申立書

(2) 標準的な申立添付書類

・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

・被相続人の住民票除票又は戸籍附票

・財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)

・利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、金銭消費貸借契約書写し等)

・相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票

引用元:相続財産清算人の選任|裁判所

相続放棄をしても家に住み続けたい場合の対処法

相続放棄をするのであれば、基本的に家に住み続けることはできません。

ただし、次の2つのいずれかの対処をすれば、相続放棄後も家に住み続けることができる場合があります。

  • 相続放棄後に家を買い戻す
  • 限定承認する

それぞれについて、以下で詳しく解説します。

相続財産清算人から買い戻す

法定相続人全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合、利害関係者の申立てにより家庭裁判所から相続財産清算人が選任されます。

相続人は、この清算人から家を買い戻すことで、家に住み続けることが可能です。

ただし、この方法には以下のような注意点があるので、確認しておきましょう。

  • 相続財産清算人と自宅の買い取り交渉をおこなう必要があるが、交渉がうまくいかない可能性がある
  • 自宅を買い戻すための資金を、相続財産とは別に準備しなければならない

相続放棄をせず、限定承認を選択する

相続放棄をせず限定承認を選ぶことで、家に住み続けられる可能性があります。

限定承認とは、相続した財産のうちプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続方法です。

限定承認を選んだ場合、相続財産は競売を通じて現金化される手続きがおこなわれます。

そのため、家に住み続けたい場合には、相続人が持つ「先買権」を行使することが必要です。

先買権とは、相続財産の評価額を支払うことで、その財産を優先的に買い取ることができる権利をいいます。

ただし、この方法にも以下のような注意点があるので、確認しておきましょう。

  • 先買権を行使するためには、家を買い取る費用だけでなく、相続財産の価値を評価するための鑑定人にかかる費用も負担しなければならない
  • 限定承認の手続きは法律的に複雑なので、簡単に利用できる選択肢ではない

遺産に家が含まれる場合の相続放棄の注意点

遺産に家が含まれる場合、相続放棄をするにあたって注意点があります。

しっかりと確認したうえで、適切に相続放棄をおこないましょう。

家だけの相続放棄はできない

相続放棄は遺産全体を対象におこなうものです。

家などの特定の財産の相続だけを放棄することはできません

処分に費用がかかる可能性がある

相続人全員が相続放棄をした場合、選任された相続財産清算人、または行政が家を処分することになります。

費用は相続放棄をした人が負担する可能性があることを覚えておきましょう。

また、相続財産清算人を選任するケースでは、まず家庭裁判所へ申立てる必要があります。

申立てにあたり、相続財産が少額で、清算人が財産を保存・管理・処分するための経費や報酬が相続財産だけでは十分にまかなえない場合は、予納金を納付しなければなりません。

予納金の相場は10万円〜100万円程度と、高額になる場合が多いです。

行政が家の取り壊しをおこなうケースでも、処分費用を負担する必要があります。

とくに、行政代執行(行政が強制的に家を処分する措置)が実施されると、その費用が相場よりも高額になることがあるので注意しましょう。

相続放棄をするなら勝手に家の片付けをするのはNG

相続放棄を検討しているのであれば、家の片付けや家財道具の処分には細心の注意が必要です。

なぜなら、相続財産の価値を変更するような処分行為をおこなってしまうと、「単純承認」をしたとみなされる可能性があるためです。

一度単純承認とみなされると、相続放棄が認められなくなりますので、慎重に対応しましょう。

2023年3月31日以前に発生した相続には改正前の法律が適用される

家の相続放棄をする場合、2023年4月の民法改正の影響を踏まえる必要があります。

2023年3月31日以前に発生した相続には、改正前の民法が適用されます。

よって、家を占有してない場合でも相続財産の管理義務が発生する可能性があるので、注意が必要です。

家を含む遺産の相続放棄をするときのよくある質問

家を含む遺産を相続放棄するときのよくある質問をまとめました。

似たような疑問をお持ちの方は、ぜひここで疑問を解消してみてください。

相続放棄をした家の解体費用は、誰に支払い義務がありますか?

誰が支払い義務を負うかどうかは、具体的なケースにより異なります。

ケース 対応
相続放棄をした人が被相続人の家に住んでいない ほかに相続人がいる ・ほかの相続人が家の解体費用を負担する。
ほかに相続人がおらず相続財産清算人が選任された ・相続財産清算人が家や土地を売却して解体費用を捻出する。
相続放棄をした人が被相続人の家に住んでいる ほかにも相続人がいる (・相続放棄をした人は速やかに退去する。)
・ほかの相続人が解体費用を負担する。
ほかに相続人がおらず相続財産清算人が選任された (・相続放棄をした人は速やかに退去する。)
・相続財産清算人が家や土地を売却して解体費用を捻出する。

ケースごとの取り扱いをしっかりと確認しておきましょう。

相続放棄をした家の管理義務はいつまで続きますか?

相続財産を実際に管理している相続人が相続放棄をした場合、管理義務が続く期間は、ほかの相続人がいるかどうかで異なります。

  • ほかに相続人がいる場合:ほかの相続人に財産を引き渡すまで管理義務が続きます
  • ほかに相続人がいない場合:裁判所が相続財産清算人を選任し、その清算人に財産を引き渡すまで管理義務が続きます

いずれにせよ一定期間は保存義務を負うことになるので、注意が必要です。

さいごに|家の相続放棄について不安がある場合は弁護士へ相談を

家を含む遺産を相続放棄する際には、ポイントや注意点があります。

とくに空き家の場合、保存義務や法的リスクなどの問題が発生するので、適切に対応することが重要になります。

家の相続放棄について少しでも不安が残るようであれば、弁護士に相談して、安心して相続放棄の手続きを進めましょう

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編集部
本記事はベンナビを運営する株式会社アシロが企画・編集をおこないました。
  • ※ベンナビに掲載されているコラムは、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。
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