相続放棄をするなら家の片付けは慎重に!NG行為とOKな範囲、注意点を解説


相続放棄を予定している方やすでにおこなった方の中には、「亡くなった親の家を片付けたいけれど、どこまでやっていいのかわからない」「そもそも、家の片付けは相続放棄に影響するの?」といった疑問を感じている方もいるのではないでしょうか。
相続放棄をするなら、家の片付けは慎重におこないましょう。
片付け中の行動が処分行為に該当すると単純承認したと判断され、相続放棄できなくなる場合があるためです。
すでに申述書が受理されたあとでも、相続財産を処分すれば相続放棄が認められないおそれがあります。
本記事では、相続放棄者の家の片付けにおけるNG行為やOKな範囲について解説します。
被相続人と同居していたケースやすぐに退去できないときの注意点も解説しているため、最後まで記事を読み、「単純承認をしたくないのにしてしまった」という事態を回避しましょう。
相続放棄をするなら家の片付けは慎重に!
親や配偶者の財産を相続放棄するつもりなら、家の片付けには慎重になりましょう。
もしかしたら、相続放棄に影響するかもしれません。
ここでは、相続放棄を検討している場合やすでに相続放棄の手続きを済ませている場合に、家の片付けを慎重にすべき理由や注意点について解説します。
相続放棄が認められなくなる可能性がある
家を片付けることで、相続放棄が認められなくなる場合があります。
片付けの際の行動が、単純承認をしたと判断されるときがあるためです。
【単純承認とは】 |
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プラスの財産・マイナスの財産にかかわらず、全てを受け継ぐ相続方法。 被相続人に借金がある場合に単純承認を選択すると、借金も全て受け継いでしまう。 |
例えば、相続放棄前後に以下のことをおこなうと、単純承認に該当する可能性があります。
- 被相続人の不動産を売却や解体、リフォームする
- 賃貸借契約を解除する
- 経済的価値のある家財道具を処分する
- 高価な遺品の形見分けや処分をおこなう
- 被相続人の現金や預貯金で家賃や公共料金を支払う
- 被相続人の現金や預貯金で入院費用や介護費用を支払う
相続放棄ははじめから相続人でなかったことにする手続きであるため、遺産を一切受け継ぎません。
しかし、単純承認にあたる行為をすると、逆に全て受け継いでしまいます。
単純承認とみなされる行為について、民法は以下のように定めています。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法|e-Gov法令検索
相続放棄を検討している場合やすでに手続きを済ませている場合は、安易に家を片付けないほうが安全でしょう。
単純承認に該当するかもしれない行為については、相続放棄ができなくなる可能性がある家の片付け行為6選で詳しく解説します。
相続放棄をした場合、原則として片づけ義務はほかの相続人(家を相続する人)が担う
相続放棄をすると、家の片付け義務は原則家を相続するほかの相続人が負います。
一般的に、片付け義務を担うのは家を引き継ぐ相続人です。
相続放棄すれば相続人ではなくなるので、実際に家を引き継ぐほかの相続人が片付け義務を担うことになります。
ただし、相続放棄を選択しても、家の管理責任を負わなければならないケースがある点に注意が必要です。
相続放棄者が被相続人と同居していた場合、相続人や相続財産清算人に家を引き渡すまでは家を適切に管理しなければなりません。
相続人全員が相続放棄したときや、自分が相続放棄したことで相続人がいなくなったときは相続財産清算人が片付けます。
【相続財産清算人とは】 |
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相続人がいない・いなくなったときに、相続財産の管理や債務の清算をおこなう人のこと。 |
被相続人と同居していた場合の管理責任や相続財産清算人については、本記事内の被相続人と同居していた場合の注意点で詳しく解説します。
相続放棄者が遺品整理や預金の引き出しをしたらバレるの?
遺品整理や預金の引き出しは、バレる可能性が高いです。
しかし、家庭裁判所は、相続放棄の申述人が遺品を処分したか・預金を引き出したかといったことをいちいちチェックするわけではありません。
審査はあくまでも書面上でのみおこなわれるためです。
ではどこからバレるかというと、ほかの相続人や被相続人の債権者などです。
例えば、以下のような状況でバレる可能性があります。
- ほかの相続人が被相続人の預貯金口座の入出金履歴を開示請求する
- 宝石や絵画などの高価なものを他人に譲った事実にほかの相続人が気づく
- 被相続人の債権者が「弁護士会照会」を利用し、預貯金口座の履歴を確認する
【弁護士会照会とは】 |
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弁護士が受注した案件に関して、業務の遂行に必要な情報を調査・照会できる制度。 預金口座やその入出金履歴などを調べられる。 |
相続財産の使いこみや処分の事実を家庭裁判所に報告されると、結果的に相続放棄に影響するおそれがあります。
相続放棄をするのであれば、家の片付けはおこなわないのが無難でしょう。
相続放棄ができなくなる可能性がある家の片付け行為6選
以下の行為をおこなうと、相続放棄できなくなる可能性があります。
- 家の売却・解体・リフォーム
- 賃貸借契約の解除
- 家財道具の処分
- 高価な遺品の形見分けや処分
- 被相続人の預金などで家賃や公共料金の支払い
- 被相続人の預金などで入院費用、介護費用など債務の支払い
それぞれ解説します。
1.家の売却・解体・リフォーム
被相続人の家を売却・解体・リフォームした場合は、相続放棄できなくなる可能性が高いといえます。
家を売却・解体・リフォームは、いずれも処分行為に該当するためです。
例えば、家を売り払ったあとに相続放棄を希望しても、すでに処分行為をおこなっている以上、相続放棄は認められません。
例外は、倒壊寸前の建物を取り壊したり崩れる危険性のあるブロック塀を修繕したりといった、保存行為をおこなうケースです。
保存行為は単に現状を維持するための行為であり処分にはあたらないため、実行しても構いません。
ただし、保存行為をおこなわなければならないような事情がなければ、下手に触らないほうがよいでしょう。
保存行為については、本記事内の1.保存行為とみなされる家の修繕で後述します。
2.賃貸借契約の解除
被相続人が借りていた家の賃貸借契約を解除する行為も、相続放棄の妨げになる場合があります。
なぜなら、賃貸借契約の解除は賃借権を処分する行為としてとらえられるためです。
賃貸借契約の解除手続きは、ほかの相続人に任せるか、ほかの相続人も相続放棄を予定しているときは相続財産清算人におこなってもらう必要があります。
相続人全員が相続放棄したあとで家庭裁判所に選任を申し立て、相続財産清算人が選任されるまで待ちましょう。
そのほか、相続放棄によって相続人がいない状態である旨を貸主に話し、貸主側から契約解除してもらう方法もあります。
注意が必要なのは、敷金が返還されたケースです。
返還された敷金は相続財産にあたるため、言われるまま受け取ると単純承認に該当する場合があります。
なお、連帯保証人になっていたときは、未払いの家賃を支払う義務が発生します。
相続権を失っても、連帯保証人としての債務は残るからです。
契約内容がわからなければ、賃貸借契約書を確認するとよいでしょう。
3.家財道具の処分
家財道具の処分も、単純承認をしたと判断されるリスクがあります。
テレビ・洗濯機などの家電やソファ・テーブルなどの家具といった、経済的価値のあるものを処分することが処分行為に該当する可能性があるためです。
相続放棄をするのであれば、遺品は下手に触らないほうがよいでしょう。
なお、価値がないものについては、処分しても単純承認事由にあたらないとされています。
4.高価な遺品の形見分けや処分
高価な遺品の形見分けや処分も、相続放棄に影響する可能性があります。
ポイントは、高価な遺品という点です。
例えば、経済的価値のないものであれば形見分けをしたり誰かに譲ったりしても、基本的には単純承認にあたりません。
しかし、価値が高ければ処分や隠匿などの行為に該当し、単純承認と判断されることがあります。
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法|e-Gov法令検索
なお、高価な遺品とは以下のようなものを指します。
- 貴金属
- 宝石
- ブランド品
- 腕時計
- カメラ
- 着物
- 骨董品
- 絵画
- 車・バイク
- レアなコレクション
そもそも形見分けとは、亡くなった人が生前愛用していたものを家族や親しかった人で分け合い、形見を通して故人に思いを寄せることであり、通常はそれほど高価なものでおこなわれません。
そのため形見分けをしても相続放棄の妨げにならないケースが多いですが、常識の範囲を超えて形見分けをおこなった場合は、相続財産の処分や隠匿と判断される可能性があります。
例えば、多くの相続財産の中からスーツや冬物の上着、スプリングコート、位牌を持ち帰り、送付された時計と椅子を受け取ったケースでは、「信義則上処分行為に該当しない」という判決が出ています(山口地方裁判所徳山支部・昭和40年5月13日判決)。
その一方で、被相続人のスーツや毛皮、絨毯など、遺品のほとんどを持ち出したケースを「法定単純承認にあたる」とした判例も存在するため、ケースによっては相続放棄に影響することを念頭に置いておきましょう。
5.被相続人の預金などで家賃や公共料金の支払い
被相続人が遺した預貯金などで被相続人の家賃や公共料金を支払うと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
たとえ被相続人自身の支払いに関することであっても、相続財産を処分したとみなされるためです。
とくに被相続人と同居していた場合は、家に届く請求書が気になってつい被相続人の財産から支払ってしまいがちですが、やめておいたほうがよいでしょう。
なお、自分の財産から支払うのであれば、単に保存行為をおこなっただけであり単純承認にはあたりません。
しかし、相続放棄をするなら被相続人の債務を返済する義務はなく、本来は被相続人の財産から支払うべきであると考えられるため、まずはほかの相続人に相談することをおすすめします。
注意点は、以下のいずれかに該当する場合に支払い義務が生じる点です。
- 賃貸借契約の連帯保証人になっている
- 被相続人の配偶者
家賃に関しては、本記事内の2.賃貸借契約の解除でも解説したとおり、連帯保証人になっているなら支払い義務が生じます。
一方、被相続人の配偶者は、家賃だけでなく公共料金も支払わなければなりません。
夫婦は日常家事に関する債務について連帯責任を負っており、家賃や公共料金の支払いは日常家事に関する債務といえるためです。
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
引用元:民法|e-Gov法令検索
相続放棄をしても、連帯保証人や配偶者としての責任からは逃れられない点に注意しましょう。
なお、このときも被相続人の財産から支払うと相続放棄に影響するため、自分の財産から支払う必要があります。
6.被相続人の預金などで入院費用、介護費用など債務の支払い
被相続人が入院中の病院や入居中の施設で亡くなった場合、死亡後に病院や施設から入院・介護費用を請求されることがありますが、被相続人の預金や現金で支払うのはやめておきましょう。
入院・介護費用を相続財産から支払う行為も家賃や公共料金と同じように、処分行為になるためです。
自分の財産から支払うのであれば問題ありませんが、相続放棄をするなら自分が負担するよりもほかの相続人と相談したほうがよいでしょう。
ただし、以下に該当する場合は支払い義務が生じるため注意が必要です。
- 入院や入居の際に被相続人の身元保証人になった人
- 被相続人の配偶者
被相続人の身元保証人になっている場合は相続放棄をしたかどうかに関係なく、身元保証人として被相続人の入院費用や介護費用を支払わなければなりません。
被相続人の配偶者も同様です。
入院費用や介護費用は夫婦が連帯責任を負う日常家事に関する債務といえるため、相続放棄をしても支払い義務が残ります。
もちろん、このようなケースでも被相続人の財産から支払うと単純承認になってしまうため、自分の財産から支払いましょう。
なお、日常家事の範囲内であるかは内容にもよるため、判断が難しければ弁護士への相談をおすすめします。
相続放棄に影響しない家の片付け行為6選
家の片づけに関しては、以下のように相続放棄に影響しないものもあります。
- 保存行為とみなされる家の修繕
- 仏壇など祭祀財産の引き上げ
- 明らかなごみの処分
- 資産価値のない遺品の持ち帰り
- ゴミ屋敷化しているなど周辺地域に迷惑をかける場合
- 賃貸契約の連帯保証人で、原状回復を求められた場合
それぞれ解説します。
1.保存行為とみなされる家の修繕
家の解体やリフォームをすると処分行為に該当してしまいますが、以下のような保存行為であれば相続放棄に影響しません。
- 老朽化による倒壊のおそれがある建物を解体した
- 崩壊寸前のブロック塀を撤去・修繕した
- 雨漏りしている屋根を修繕した
- 窓ガラスが割れたため交換した
【保存行為とは】 |
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財産の現状維持が目的でおこなう手入れや修繕などのこと。 相続財産の処分にはあたらない。 |
ただし、保存行為・処分行為のどちらにあたるのか判断が難しいケースもあるため、周囲に害を及ぼすような差し迫った状況でなければ、家を相続する人や相続財産清算人に任せたほうが無難でしょう。
2.仏壇など祭祀財産の引き上げ
仏壇や神棚などの引き上げは相続放棄に影響しません。
仏壇や神棚、家系図、お墓といった祭祀財産は、相続財産にならないためです。
そのため祭祀承継者として仏壇やお墓を承継したり処分したりしても、相続放棄は可能です。
【祭祀承継者とは】 |
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祭祀財産を引き継ぐ人のこと。 祭祀財産の管理をしたり法事を主宰したりといった役目を担う。 |
3.明らかなごみの処分
誰が見ても明らかにごみとわかるものについては、処分しても持ち帰っても相続放棄に影響しません。
ごみに経済的価値があるとはいえないためです。
むしろ、ごみを放置することで家の資産価値が下がったり、以下の理由から周囲に迷惑がかかったりするおそれがあるため、ごみの処分は家や周辺の環境を維持するために必要な保存行為にあたるといえます。
- 景観が悪くなる
- 悪臭が発生する
- 害虫がわく
- 火災の原因になる
近隣とのトラブルを避けるためにも、冷蔵庫の生鮮食品や紙くず、中身のないペットボトルなど明らかにごみとわかるものは処分すべきでしょう。
4.資産価値のない遺品の持ち帰り
資産価値のない遺品を持ち帰った場合も、相続放棄には影響ありません。
資産価値のないものを持ち帰ったところで、相続財産全体の価値に変化を与える可能性は低いためです。
資産価値のない遺品とは、以下のようなものです。
- 手紙
- 写真
- 位牌
- ノーブランドの古着・靴
客観的に見て、現金化できるほどの価値がないものなら問題ないでしょう。
ただ、自分にとって価値のないものが、実は希少価値のあるものだったというケースも考えられます。
判断が難しいときは、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
5.ゴミ屋敷化しているなど周辺地域に迷惑をかける場合
ゴミ屋敷化している家の片付けは、相続放棄に影響しない行為のひとつです。
放置すれば家の資産価値が下がるだけでなく、景観を損ねたり悪臭・害虫が発生したりと周辺地域に迷惑がかかるおそれがあり、ごみの撤去は周辺の環境を維持するための保存行為とみなされるためです。
また、被相続人と同居していた場合、相続放棄をしても家を相続する人や相続財産清算人に引き渡すまでは家の管理責任を負います。
片付けを放置したことが原因で損害賠償を請求されるおそれもあるため、適切に対処する必要があるでしょう。
ただし、程度によっては業者に特殊清掃を依頼したほうがよいケースもあります。
とくに、すでに周辺地域に迷惑がかかっている場合、周囲が納得できるところまで片付けるのは至難の業です。
保存行為と処分行為の境界がわからず、思いがけず処分行為をおこなってしまうリスクもあるため、自力では難しいと感じたら弁護士や遺品整理・特殊清掃の両方に秀でた業者を頼ることをおすすめします。
6.賃貸契約の連帯保証人で、原状回復を求められた場合
賃貸契約の連帯保証人になっており、貸主から原状回復を求められた場合、家を片付けても相続放棄に影響しません。
賃貸物件の原状回復は、連帯保証人として果たすべき義務であるためです。
【原状回復とは】 |
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入居後に生じた汚れや破損のうち、故意や不注意、通常の使用を超えて使用したことが原因となったものを復旧してから貸主に物件を返還すること。 |
ただし、被相続人の財産で退去費用を支払うと単純承認に該当してしまいます。
そのため、自分の財産から支払う必要があることを覚えておきましょう。
【参考元】「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について|国土交通省
被相続人と同居していた場合の注意点
被相続人と同居していた場合、以下の点に注意する必要があります。
- 相続放棄をしても管理義務がある
- ほかに相続人がいる場合は、その相続人に任せられる
- 全員が相続放棄をするなら、相続財産清算人を選任する
それぞれ解説します。
相続放棄をしても管理義務がある
相続放棄をしたときでも、被相続人と同居していた場合は管理義務を負わなければならない点に注意が必要です。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
引用元:民法|e-Gov法令検索
管理義務とは、家を滅失・損傷させないようにする責任のことです。
管理義務を負う人は、周囲に迷惑がかからないよう最低限の手入れをしておく必要があります。
かといって安易に単純承認にあたる行為をしてしまうと相続放棄できなくなり、相続せざるを得なくなってしまうため、判断が難しいところです。
どこまでが管理義務の範囲内か迷ったときは、実際に手をつけてしまう前に弁護士に相談するようにしましょう。
ほかに相続人がいる場合は、その相続人に任せられる
ほかにも相続人がいるときは、その相続人に家を引き渡しましょう。
そうすれば、管理義務はその相続人に移ります。
これまで解説したように、相続放棄をするとさまざまな行為が処分行為に該当し、単純承認とみなされてしまいます。
保存行為であればできるとされていますが、意図せず処分行為をおこなってしまっていたというリスクもあるため、相続財産は極力触らないのが賢明です。
そもそも相続放棄をした身であるため、家の片づけは実際に相続する人に任せるのが自然でしょう。
相続放棄をしたらほかの相続人に相続放棄をしたことを告げ、できるだけ早く引き渡すことをおすすめします。
全員が相続放棄をするなら、相続財産清算人を選任する
相続人全員が相続放棄をするなら、相続財産清算人を選任しましょう。
【相続財産清算人とは】 |
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相続人がいない・いなくなったときに、相続人の代わりに相続財産の管理や債務の清算をおこなう人のこと。 清算後に残った財産は国庫に帰属される。 清算人を選任する際は、被相続人の利害関係者や検察官が家庭裁判所に申し立て、弁護士や司法書士といった、家庭裁判所がもっとも適任と判断した人が選ばれる。 ※利害関係人:被相続人の債権者や相続放棄をしたものの家の管理をしている人、特別縁故者など |
注意点は、相続人が誰もいなくなった状態でも、被相続人と同居していた相続放棄者が家の管理義務を負う点です。
管理義務は相続財産清算人に家を引き渡すまで続くため、できるだけ早く選任の申立てをおこなうことをおすすめします。
なお、相続財産清算人を選任する際は、家庭裁判所に対して1万円程度を支払わなければなりません。
また、弁護士や司法書士などの専門家が相続財産清算人として選任された場合は、月数万円程度の報酬が発生します。
選任費用や報酬は基本的に相続財産から支払われますが、相続財産で報酬がまかなえないときは申立人が相応額を納付するケースが一般的です。
相続放棄をしてもすぐに退去できない場合の注意点
被相続人と同居していた人が相続放棄した場合、そのまま被相続人の家には住み続けられません。
相続権が次順位以降の相続人に移るためです。
相続放棄後すぐに退去できないときは、以下の点に注意しましょう。
- 数ヵ月間は住み続けられる
- 公共料金は名義変更して支払う
それぞれ解説します。
数ヵ月間は住み続けられる
被相続人と同居していた人が相続放棄をした場合でも、数ヵ月間は住み続けられます。
目安としては、被相続人が亡くなってから3ヵ月程度を考えておくとよいでしょう。
相続放棄の熟慮期間が、自分のために相続が開始したことを知ったときから3ヵ月と定められているためです。
【熟慮期間とは】 |
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以下のうち、どのような相続方法を選択するか考える期間のこと。 ・全て相続する「単純承認」 ・プラスの範囲内でマイナスを受け継ぐ「限定承認」 ・全て放棄する「相続放棄」 熟慮期間を過ぎると、自動的に単純承認を選択したことになる。 |
なお、以下の要件を満たす場合、ほかの相続人によって「配偶者短期居住権の消滅の申入れ」がおこなわれた日から最低でも6ヵ月は、無条件に住み続けられる配偶者短期居住権が利用できます。
- 被相続人の法律上の配偶者である
- 被相続人が亡くなる前から被相続人所有の家に無償で居住していた
詳細は、法務省のホームページなどを確認してください。
【参考元】残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。|法務省
公共料金は名義変更して支払う
被相続人の家から退去するまでの間に発生する公共料金は、名義変更して自分で支払うようにしてください。
電気・ガス・水道の各事業者に連絡し、被相続人が亡くなったことと相続放棄をしたことを伝えましょう。
相続放棄によって相続人でなくなった人が被相続人の契約を解約することはできませんが、事情を伝えれば請求を止められます。
なお、滞納している公共料金がある場合、相続放棄者に支払い義務はありませんが、配偶者であれば自分の財産から支払う必要があります。
賃貸住宅の場合の注意点
賃貸住宅の場合、貸主の存在がある分持ち家とは勝手が異なります。
ここでは、賃貸住宅の注意点について解説します。
大家に片付けるよう言われても応じない
被相続人が賃貸住宅に住んでいた場合、大家から片付けを要求されることがありますが、応じないようにしましょう。
相続放棄者に部屋を片付ける義務はないためです。
また、片付けの際に家財道具や被相続人の私物を捨ててしまうと、処分行為にあたってしまう可能性があります。
相続放棄したことを大家に伝え、ほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまで待ってもらいましょう。
時間がかかるなら、経済的価値がないとわかるものは捨て、価値があるものをいったん別の場所に移すのもひとつの手段です。
さいごに|相続放棄予定の家の片付けでよくわからないことは弁護士へ
記事の中でも解説したとおり、家の片付け行為には相続放棄ができなくなるリスクが潜んでいます。
例えば、保存行為のつもりでおこなったことが処分行為に該当したり、よかれと思って被相続人の財産から支払いをしたら単純承認とみなされてしまったりといったケースが考えられます。
自分では判断が難しい場合もあるため、判断に迷うことやわからないことがあるときは、弁護士に相談するようにしましょう。
早い段階から相続問題を得意とする弁護士に相談してすれば、意図せず単純承認してしまうことを回避できます。