生前贈与で住宅ローンの援助を受けるとどうなる?贈与税の取り扱いと節税対策を解説


住宅ローンを組む際、親や祖父母から生前贈与で援助を受けるケースは珍しくありません。
しかし、親族からの生前贈与による資金援助は贈与税の課税対象となる可能性があり、正しい知識がなければ思わぬ負担を招くリスクがあります。
そこで本記事では、住宅ローン援助における贈与税の取り扱いや、適用できる特例・控除、さらに活用したい節税対策を詳しく解説します。
生前贈与を賢く利用し、税負担を抑えるためのポイントをチェックしてみましょう。
生前贈与で住宅ローンの資金援助を受けた際の基礎知識
まずは、生前贈与で住宅ローンの資金援助を受けた方、またはこれから受けようとしている方が最低限押さえておくべき基礎知識を解説します。
援助された金銭は贈与税の課税対象になる
親や祖父母から生前贈与によって住宅ローンの資金援助を受けた場合、原則として贈与税の課税対象となります。
通常、親子や兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために受け取った金銭は、必要と認められる場合に限り贈与税の対象とならないものもあります。
しかし、住宅の購入における費用は最低限の暮らしに必要とはいえないため、基本的に贈与税がかかってしまうのです。
日本の税法では、金銭や財産の贈与には年間110万円の基礎控除が適用されますが、それを超える金額については贈与税が課されます。
たとえば、親から500万円の援助を受けた場合、基礎控除額を除いた390万円が課税対象です。
生前贈与として資金援助を受けたにもかかわらず税務署に申告されていない場合、ペナルティとして追徴課税が発生する恐れもあります。
そのため、住宅ローンの援助を受ける際には、税金が発生する可能性があることを念頭に置き、正確な申告をおこなうことが重要です。
また、贈与税には特例制度や控除があるため、適用条件を確認し、可能な限り税負担を抑える工夫を検討しましょう。
住宅取得等資金の贈与の特例は適用できない
住宅取得等資金の贈与の特例とは、父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得や建設・増改築のために使われる資金を受け取った際に、一定の要件を満たせば一部を贈与税の課税対象外とできる制度です。
住宅取得等資金の贈与の特例が適用される場合、一定の耐震性能やバリアフリー性能などの基準を満たしている物件であれば1,000万円まで、それ以外の物件であっても500万円までが控除の対象となり、大幅な節税が可能です。
しかし、この特例は住宅を新たに建設・増改築する際の資金援助にのみ適用されるため、すでに取得している物件の住宅ローンの返済や、それに関連する費用には適用できません。
そのため、父母などからの資金援助であっても、住宅ローンの援助として生前贈与を受けた場合には、一般的な贈与として贈与税の課税対象となります。
生前贈与を受ける場合は暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶべき?
生前贈与を受ける場合に発生する相続税については「暦年課税」か「相続時精算課税」のいずれかの課税制度を選択できます。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の状況に合わせて判断が必要です。
暦年課税は、1年間の贈与額から110万円の基礎控除を差し引いた額にのみ贈与税が課されます。
そのため、贈与を複数年に分けておこなうことで、非課税枠を活用しながら税負担を抑えられる点が大きなメリットです。
また、仕組みがシンプルで柔軟性が高く、毎年の贈与額を調整できるため、贈与計画に自由度を持たせられます。
しかし、暦年課税は最大55%の累進課税方式を採用しているため、一年間の間に大きな金額を一度に贈与する場合には、課税負担が大きくなる可能性があります。
一方で、相続時精算課税は生前に一度に多額の資金を贈与する必要がある場合に適した制度で、累計2,500万円までが非課税となります。
贈与額が非課税枠を超えた場合でも、一律20%の税率で贈与税が課されるため、累進課税を回避できるのもメリットです。
ただし、一人の贈与者に対して一度でも相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税に戻すことができず、将来的に全ての贈与が相続財産に加算されることになります。
そのため、結果として相続税の負担が大きくなるリスクがあるでしょう。
また、適用手続きがやや複雑である点もデメリットです。
以上を踏まえると、少額の財産を長期間にわたって計画的に贈与する場合は暦年課税、大きな金額を一度に贈与したい場合は相続時精算課税が適しているといえます。
ただし、どちらの課税制度を選択するべきかは個々のケースによって異なるため、専門家に相談したうえで判断するのがおすすめです。
生前贈与で住宅ローンの資金援助を受けた場合の贈与税の計算ポイント
生前贈与で住宅ローンの資金援助を受けた場合は、暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらを選択するかによって、贈与税の計算方法が異なります。
ここでは、それぞれの課税制度を選択した場合について、贈与税の計算ポイントを紹介します。
暦年課税制度を選択した場合
暦年課税制度は、生前贈与における標準的な課税方式で、1年間に受け取った贈与額から基礎控除額の110万円を差し引いた残額に対して贈与税が課されます。
基礎控除額を超えた分については、累進課税方式で税額が計算されるため、課税額が増えるほど税率も高くなります。
たとえば、親から一度に3,000万円の現金を住宅ローン援助として贈与された場合、110万円の基礎控除後の2,890万円が課税対象です。
また、18歳以上の方が父母や祖父母から贈与を受けた場合は特例控除として扱われ、2,890万円の場合の税率は45%で控除額は265万円なので、税額は以下のように計算されます。
2,890万円 × 45% - 265万円 = 1,035万 |
暦年課税制度を選択する場合、複数年に分けて少額ずつ贈与を受けることで贈与税の負担を軽減する方法もあります。
毎年110万円以下で贈与を受ければ非課税となるため、長期的に資金援助を受ければ節税につながります。
相続時精算課税制度を選択した場合
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母が18歳以上の子または孫に贈与する場合に適用できる特例の課税方式で、累計で2,500万円までの贈与が非課税となる仕組みです。
たとえば、親から3,000万円の住宅ローン援助を受けた場合、非課税枠を超えた500万円に20%の贈与税が課され、税額は100万円です。
ただし、非課税となるのは一時的であり、贈与者が亡くなり相続が発生した際、生前贈与分も相続財産に加算されて相続税の課税対象となります。
そのため、場合によっては税負担が大きくなるケースもあるでしょう。
相続時精算課税制度は、多額の資金を一度に贈与する必要がある場合や、相続税のほうが贈与税より低く抑えられる場合に有効です。
しかし、一度選択すると暦年課税制度に戻すことができないため、将来の相続や財産分与を含めた長期的な視点で慎重に判断する必要があります。
生前贈与で住宅ローンの資金援助を受ける際に贈与税を節税する2つのコツ
生前贈与によって住宅ローンの資金援助を受ける際は、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。
- 基礎控除額の110万円以内にする
- できる限り早い段階から贈与を受ける
それぞれについて、詳しく解説します。
1.基礎控除額の110万円以内にする
贈与税を節税するための最も基本的な方法は、年間の贈与額を基礎控除額である110万円以内に抑えることです。
日本の贈与税法では、個人間の贈与において、1年間に受け取った金額が110万円以下であれば、基本的に贈与税は発生しません。
住宅ローンの頭金や支払いに必要な金額を複数年に分けて計画的に受け取れば、大幅な節税効果が得られます。
ただし、毎年同じ金額で贈与を受け続けると「定期贈与」とみなされ、毎年の援助額が110万円以下であっても贈与税が発生する可能性があります。
想定外の税負担が発生しないためにも、生前贈与を検討している場合は税理士などの専門家のアドバイスを受けることが重要です。
2.できる限り早い段階から贈与を受ける
住宅ローンの資金援助において節税効果を最大化するためには、できる限り早い段階から贈与を受けることが有効です。
早めに贈与を開始することで「相続税の持ち戻し」を回避できる可能性が高まるためです。
相続税の持ち戻しとは、生前贈与をおこなったあと一定期間以内に贈与者が死亡した場合は、すでに贈与した財産も相続財産に含める仕組みを指します。
つまり、相続前の一定期間に贈与した財産については、贈与税の対象にならなくても相続税の課税対象になってしまう可能性があるのです。
以前は、持ち戻しの対象期間は贈与者の死亡から遡って3年間でしたが、令和5年の税制改正により持ち戻しの期間が7年へと延長されています。
そのため、相続税の持ち戻しを回避するには、より早い段階から贈与を開始する必要があるのです。
また、早い段階から贈与を開始すれば、複数年にわたって基礎控除額である110万円を活用できるため、一度に高額な贈与を受ける場合と比べて大幅に税負担を軽減できる可能性もあります。
病気などで死期が近づいてから焦って贈与を開始しても、節税の効果は期待できない可能性が高いため、少しでも早い時期から贈与を受けるのがおすすめです。
【参考】令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし - 国税庁
生前贈与では税務調査に気を付けよう!定期贈与と扱われないための注意点
生前贈与は、110万円の基礎控除内であれば贈与税が非課税となります。
そのため、節税対策として毎年110万円以下の金額で長期的な生前贈与を受ける方も多いです。
しかし、基礎控除内の金額であっても、毎年決まった金額の贈与を受けていると「定期贈与」として扱われ、贈与税の課税対象となるリスクがあります。
生前贈与が定期贈与として扱われないためには、以下の2点に注意しましょう。
- 贈与契約書を作成しておく
- 銀行振込で金銭を受け取る
それぞれの点について、詳しく解説します。
1.贈与契約書を作成しておく
生前贈与をおこなう際、税務署から「定期贈与」と判断されないためには、贈与が発生する度に贈与契約書を作成することが重要です。
毎年の贈与のタイミングで贈与契約書を作成し、「その年の贈与が一回限りの意思によるものである」ことを明確にすれば、税務調査においても定期贈与とみなされない可能性が高まります。
贈与契約書を作成せずに毎年基礎控除内の資金援助を受けていると、税務調査の際に「元から定期的に贈与をする約束があった」と判断されやすく、結果として基礎控除内であっても贈与税が発生してしまいます。
贈与契約書には、贈与者と受贈者の情報、贈与する金額、贈与の目的、贈与日などを詳細に記載します。
また、贈与契約書は双方が署名押印したうえで保管し、後日税務署から問い合わせがあっても対応できるようにしておきましょう。
2.銀行振込で金銭を受け取る
基礎控除内の贈与がおこなわれていることを証明するためには、銀行振込で金銭を受け取ることがおすすめです。
現金手渡しの場合、贈与がおこなわれた事実を証明するのが難しく、税務署からの指摘を受けるリスクが高まります。
一方で、銀行振込を利用すれば振込履歴が贈与の証拠となり、税務調査の際にもスムーズに対応できます。
また、複数年にわたる贈与においても、毎回異なるタイミングで振込をおこなうことで、定期贈与とみなされるリスクを回避しやすくなるでしょう。
生前贈与と住宅ローンに関してよくある質問
最後に、生前贈与と住宅ローンに関してよくある質問をまとめました。
似たような疑問をお持ちの方は、ぜひここで解消しておきましょう。
Q.返済資金を生前贈与された場合は贈与税がかからなくても申告が必要になる?
住宅ローンの返済資金を生前贈与された際、以下のいずれかに当てはまる場合は申告が必要となります。
- 暦年課税を適用し、贈与額が基礎控除額の110万円を超える場合
- 相続時精算課税を適用する場合
Q.親からお金を借りて住宅ローンを返済する場合も贈与税が課税される?
親から贈与ではなくお金を借りる場合は、贈与税は課税されません。
ただし、親の貸付金は親が亡くなった際は相続財産となるため、相続が発生した段階で相続税の課税対象となります。
相続開始時の貸付残高が高い場合は、相続税負担が大きくなるため注意が必要です。
Q.住宅ローンが残っている家の生前贈与はできるの?
住宅ローン返済中の不動産でも生前贈与は可能です。
不動産の生前贈与と住宅ローンには、制度上直接的な関係はありません。
ただし、住宅ローンが残っている家を生前贈与する場合は、以下の3点に注意する必要があります。
- ローンの返済義務も贈与された相手が引き継ぐ場合は特別な手続きが必要
- 不動産の名義変更には事前にローンを支払っている金融機関の承諾が必要
- 贈与税や不動産取得税が発生する可能性が高い
とくに、住宅ローン返済中の不動産の生前贈与を受け、受贈者がローンの支払いも引き継ぐ場合は「負担付贈与」となり、贈与税の計算が複雑になります。
住宅ローン返済中の持ち家を生前贈与する場合は、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。
さいごに|生前贈与に関する悩みは税理士に相談を!
本記事では、生前贈与と住宅ローンの関係について詳しく解説しました。
父母や祖父母から生前贈与として住宅ローンの返済援助を受けた場合は、贈与額によって課税対象となる可能性があるので注意が必要です。
贈与の方法には暦年贈与と相続時精算課税制度の2つがありますが、どちらを選択すべきかは今後の贈与額などによっても異なるので、慎重に判断しましょう。
また、贈与税や相続税の計算方法は複雑になるケースも多いため、生前贈与に関して不安がある場合は税理士に相談するのがおすすめです。