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相続放棄が認められない事例とは?対処法と失敗を防ぐためのポイント

弁護士監修記事
遺産相続
2023年02月22日
2024年04月25日
相続放棄が認められない事例とは?対処法と失敗を防ぐためのポイント
この記事を監修した弁護士
野中 辰哲弁護士 (アリアンサ法律事務所)
相続問題を中心に対応し、現在では年間約20〜30件ほどの案件に取り組む。遺産分割を始め、生前対策や相続放棄などの実績も多数。大学での非常勤講師を務めるなど、活動の幅は多岐に渡る。
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相続放棄をしようと決めたものの、申述が認められないのではと不安を感じていませんか?相続放棄の申述自体は、要件がそろっていれば比較的簡単に家庭裁判所の審査を通過し、受理されます。

ただし、期限内に申し立てられない、相続放棄前に遺産に手を付けてしまったなどの事情があると、相続放棄は受理されないこともあります。

この記事では、相続放棄が認められないのではと不安を感じている方に向け、失敗を防ぐポイントを具体的な事例をあげて解説します。

よくある失敗を避けるための注意点や、万が一申述が却下されてしまったときの対処法を理解し、正しく相続放棄をおこないましょう。

「相続放棄に失敗したくない!」という方はぜひ参考にしてみてください。

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相続放棄は認められやすい?相続放棄が却下される確率

「相続放棄が認めてもらえるかな…」と不安に感じている方に向けて、まずは相続放棄についてや、相続放棄が却下される確率を解説します。

相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人の財産や負債を一切引き継がないと決めた相続人が、家庭裁判所に対してその意思表示を申述する法律行為です。

家庭裁判所に受理されることで、最初から相続人ではなかったとみなされます。(民法第939条

相続放棄が利用される目的として多いのは、以下のような場合です。

  • 被相続人が負債を残して他界した場合
  • 相続人同士のトラブルに巻き込まれたくない場合

相続放棄は、基本的な要件さえおさえておけば、家庭裁判所から却下されることはほぼありません。

あなたが相続人であり、それを知ってから3ヵ月以内の申し立てであれば、かなりの確率で受理されます。

申述書や添付書類に多少漏れや不足があっても、家庭裁判所から追加指示を受け提出すれば問題ないでしょう。

相続放棄について詳しくは相続放棄とは?手続きの流れや期限、必要な書類を解説をご覧ください。

相続放棄が却下される確率

相続放棄が家庭裁判所から却下される確率は非常に低く、0.2%程度です。

最高裁判所が公表している司法統計によると、令和2年度に相続放棄の申し立てがあった248,374件のうち、却下されたのはわずかに426件でした。

【参考】司法統計|家事令和2年度 

家庭裁判所は相続放棄の要件の存否について実質的に審査をします。

しかし、要件を欠く特別な事情がない限りは一応の審査で足りるとされています。

実は、家庭裁判所の申述受理の決定には確定判決ほどの効力はありません。

「不備がなければ受理しますが、争いがあるなら民事訴訟によって覆すことも可能です」というのが家庭裁判所の立場なのです。

それでもやはり不安な方へ、以下で相続放棄が認められない事例を紹介します。

相続放棄が認められない典型的なケース 

相続放棄が認められない主な理由は、以下のように明らかに相続放棄の要件を欠いている場合に限られます。

  • 熟慮期間の期限が切れてしまった
  • 被相続人の遺産または負債に手を付けてしまった
  • 手続きに不備があった

正当な理由なく熟慮期間を過ぎてしまった

相続放棄は、自分のために相続が開始したことを知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に対して申述をしなければなりません。

この3ヵ月の期間を「熟慮期間」といいます。

放置しているうちに期間が過ぎてしまったり、単純な調査を怠ったりすると、「正当な理由なく熟慮期間が過ぎた」とみなされ、相続放棄ができなくなります。

ただし、被相続人と疎遠である、財産状況が全くわからないなどの事情があれば、熟慮期間内に期間の伸長を申し立てることもできます。

また、家庭裁判所は特別な事情がある場合には熟慮期間後の相続放棄を認めることがあります。

【熟慮期間の起点を後ろへずらすことを認め、相続放棄を認めた例】(東京地方裁判所平成21年1月29日の判決)

  1. H1.10.19 被相続人Aの銀行借り入れを保証会社Xが保証
  2. H19.4.20 被相続人Aが死亡
  3. H20.1.17 Xが銀行に対して代位弁済
  4. H20.6. 6  XがAの相続人にあたる義姉および甥姪に支払いの催告書
  5. H20.10.17  XはAの相続人らに相続分に応じて支払うよう訴訟提起
  6. H20.11.14  相続人らが相続放棄申述

【保証会社Xの主張】

④催告書の通知を熟慮期間の起点とし、相続放棄申述受理までに3ヵ月以上経過していることから相続放棄は無効

【Aの相続人らの主張】

相続人らは被相続人Aの存在さえ知らず、催告書には自分たちが相続人であることの資料などの添付も一切なかった。⑤訴訟提起を熟慮期間の起点とし、相続放棄は有効

【裁判所の判断】

  • Aの相続人らが被相続人Aの存在すら知らなかったこと
  • 催告書の内容から、Aの相続人であることを示す資料や事情の説明がなかったこと

上記の理由から④通知催告書の送達日を熟慮期間の起点とすべきではなく、相続放棄は有効とする。

事件番号 平成20(ワ) 28931号

法定単純承認が成立した

法定単純承認が成立すると相続を承認したとみなされ、熟慮期間が経過していなくても相続放棄ができなくなります。

法定単純承認とは、被相続人の遺産もしくは負債に手を付ける行為です。

相続人が被相続人の権利を行使して請求をしてきたり、被相続人の財産から借金を返済したりすると、第三者からは相続を承認したようにみえます。

その第三者を保護するため、法定単純承認に該当する場合は、相続したとみなされるのです。

ただし、被相続人の権利義務を行使しても、「処分行為」は法定単純承認が成立し、「保存行為」ならば法定単純承認は成立しません。

<処分行為の例>

  • 被相続人の預貯金を解約して使った
  • 被相続人の自宅を取り壊した
  • 被相続人の預金から被相続人の債務を返済した

<保存行為の例>

  • 被相続人の老朽化した自宅の塀を被相続人の遺産で補修した
  • 被相続人の自宅の草刈りを遺産から業者を雇っておこなう

提出書類に不備があった

相続放棄申述に不備があり、家庭裁判所の追完指示に応じないことも、相続放棄が認められない理由となります。

相続放棄をするためには、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申述する必要があります。

家庭裁判所はそこで一応の審査をし、不足書類があったり申立書に不備があったりした場合には、追加書類の提出や、事情説明の上申書提出を指示します。

裁判所から指示された書類を追加で提出しなかった場合には、相続放棄は受理されません。

相続放棄をすることが不本意であった

相続放棄を望んでいないにもかかわらず、勝手に手続きをされてしまった場合には、相続放棄は後から取り消しを争うことができます。

よくある例として、親が未成年の子の相続放棄を勝手に申述してしまうケースがあります。

たとえば、父親が死亡し、母親と未成年の子が残された場合、母親に財産を集中させるために、子が相続放棄の手続きをとることがあります。

しかし、この場合には母親と子は利害関係のある相続人同士であるため、母親自身が未成年の子の代理人となって子の相続放棄を申述することはできません。

これが家庭裁判所に受理されてしまった場合、子は後から相続放棄の取り消しを争うことができます。

また、負債があると騙されて相続放棄をさせられたケースも同様です。

家庭裁判所へ申請をしていなかった

相続放棄は、権利義務を引き継がないという意思表示だけでは成立しません。

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述し、受理されることにより成立します。

家庭裁判所には、以下の書類を提出して申述します。

  1. 相続放棄申述書(書式-相続放棄申述書 )
  2. 被相続人の住民票除票等
  3. 相続放棄申述人の戸籍謄本
  4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍または除籍

上記4点のほかに、申述人が相続人であることがわかる戸籍等をそろえて提出する必要があります。

【参考】相続の放棄の申述 | 裁判所

相続放棄が認められない場合に対処できること 

家庭裁判所の相続放棄却下決定に対して、2週間以内であれば即時抗告により再審理を求めることができます。

即時抗告をすると、上級審である高等裁判所で争われます。

ただし、相続放棄の却下自体が0.2%程度と非常に低く、明らかに不備がある場合にのみ却下されるという実情があるため、即時抗告はそれほど頻繁に認められているものではありません。

あくまでも相続放棄申述を確実にすることが重要です。

相続放棄を成功させるためのポイント 

相続放棄の申述で重要なのは、3つの基本を見落とさないことです。

  • 正確な遺産を調査し把握する
  • 相続財産には手を付けない
  • 期限内に申述する

ここでは、相続放棄を成功させるためのポイント詳しく解説します。

遺産の財産調査をしっかりおこなう

相続財産の調査は、相続放棄するかの判断において非常に重要な基準です。

できるだけ漏れのないよう、しっかりと調査しましょう。

以下は、考えられる相続財産と、その調査方法の一例ですので、参考にしてみてください。

相続財産/負債

調査方法の一例

預貯金

生前に取引があったと見込まれる銀行の支店に照会をかけ、預金残高や負債状況を提供してもらう

不動産

●役所で被相続人名義の「名寄帳」を取り寄せ

●法務局で名寄帳に記載のある不動産登記簿を取得する

→同時に不動産担保の有無も確認

有価証券(株式、債権)

証券会社から少なくとも年に1度送られてくる「取引報告書」にて確認可能

資産収入(家賃収入など)

確定申告書に記載あり

負債(借入金や未払い費用など)

●ある借入金は、信用情報機関に照会をかけることで判明

●未払い費用は請求書や預金通帳の引き落とし記録から確認

相続人と疎遠だったなどの理由で財産調査が難しければ、熟慮期間内に家庭裁判所へ申し立てることで、1ヵ月から3ヵ月程度熟慮期間を延ばせます。

また、期限の伸長は特別な事情があれば、再度申し立てることもできます。

【参考】相続の承認又は放棄の期間の伸長 | 裁判所

相続財産には極力手を付けない

単純承認と認められないためには、相続財産・相続債務どちらにも手をつけないことが賢明です。

被相続人のために出費が必要なときは、被相続人の財産からではなく自分の財産から立て替えた方がよいでしょう。

立替金は相続放棄後に、相続放棄をしていない他の相続人に対して請求できます。

熟慮期間を把握しておく

相続放棄の期間は、相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内です。

その間に財産調査をし、相続放棄をするかを判断しなければなりません。

被相続人との関係が疎遠だったり、第二順位以降の相続人であったりすると、熟慮期間の起算点がいつになるかの判断が難しいでしょう。

まずは熟慮期間の起点日を正確に把握してから、相続放棄する場合は期限から逆算して申し立て手続きを進めるようにしましょう。

<相続が開始したことを知った日の例>

  • 被相続人の死亡日(死亡の事実を知った日)
  • 先順位の相続人から相続放棄をしたことを告げられた日
  • 相続債権者から相続人になったことを告げられて請求を受けた日

隠れた債務は要注意

相続放棄をせずに熟慮期間が経過した後に、相続債務の請求を受けることがあります。

債務の調査は信用情報機関に照会すればある程度把握できますが、全く予想外の債務が判明するかもしれません。

債務の調査は特に慎重におこないましょう。

迷ったら弁護士に相談する

  • 相続財産や負債がはっきりしない
  • 申し立てのための戸籍収集が難しい
  • 申立書の作成に不安がある

このような場合は弁護士に相続調査や相続放棄の手続きを依頼しましょう。

弁護士であれば、弁護士会照会で遺産調査をしたり、職務上請求で戸籍を収集したりできます。

また、相続放棄の期限を過ぎてしまった場合にも、家庭裁判所への事情説明の上申書を作成するなど、申述が受理されるよう取り計らってもらうことができるでしょう。

弁護士へ相談する場合は相続を弁護士に無料電話相談する方法|弁護士の選び方や費用の相場も解説をご覧ください。

まとめ

相続放棄に失敗しないコツは、熟慮期間を守り、手続きに則り過不足なく必要書類を提出することです。

そのためには、以下の点に注意しましょう。

  • 自分の熟慮期間を把握する
  • 見落としのないよう、相続財産を調査する
  • 相続財産には手を付けず、単純承認行為を避ける

相続放棄の申述自体は受理されやすくても、申述する前の工程に間違いが生じ、失敗に繋がることもあります。

特に単純承認行為や相続財産の調査は、相続人だけでおこなうのは難しいかもしれません。

相続手続きに精通した弁護士に依頼すれば、失敗の不安なくあなたの相続放棄手続きを完了させることができるでしょう。

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