相続で遺留分がもらえないのはなぜ? | 原因と対策を徹底解説


- 「相続人なのに、遺留分がもらえないことがあるの?」
- 「遺留分がもらえないときは、どうすればいい?」
本来であれば、一定の相続人は遺留分によって最低限の遺産を取得することが保障されています。
そのため遺留分がもらえない場合、それがなぜか疑問に感じるのは当然です。
本記事ではそもそも遺留分とは何かや仕組み、遺留分が保障されている理由といった基本から、遺留分がもらえない場合の原因7つ、相続で遺留分をもらえないときの対処法について解説しています。
本記事を読むことで遺留分がもらえない原因を把握し、遺留分を請求するために必要な対応についても理解することが可能です。
相続で遺留分をもらえない原因を調べる前に知っておくべきこと
まずは、遺留分をもらえない状況になった際、いきなり原因を調べるのではなく最低限抑えておくべき知識を簡単に紹介します。
そもそも遺留分とは | 一定の相続人に対して保障されている最低限の遺産取得分
遺留分とは、一定の相続人に対して保障されている最低限の遺産取得分です。
遺留分が認められている相続人は、被相続人の配偶者と子どもなどの直系卑属、親などの直系尊属です。
被相続人の兄弟姉妹が相続人であったとしても、遺留分は認められていません。
【遺留分が認められる相続人と条件】
- 配偶者:常に遺留分が認められる
- 子ども(直系卑属):常に遺留分が認められる
- 父母(直系尊属):子ども(直系卑属)がいない場合に認められる
※子どもが亡くなっている場合に限り、子どもに代わり孫に遺留分が認められる
※父母が亡くなっている場合に限り、父母に代わり祖父母に遺留分が認められる
日本の民法では、被相続人の遺言や生前贈与によって遺産が特定の相続人や第三者に集中する場合でも、遺留分によって一定の相続人に最低限度の遺産を取得することが保障されています。
たとえば、被相続人が遺言で全財産を特定の相続人に遺贈した場合でも、遺留分を有する相続人は権利を主張し、遺産の一部を請求することができます。
なお、遺留分を取得するためには相続開始後に遺留分侵害額請求をおこなう必要があります。
遺留分の計算方法や遺留分侵害額請求の具体的な方法について詳しくは、以下記事を参照ください。
【関連記事】遺留分侵害額(減殺)請求とは?侵害された財産を取り戻す制度を徹底解説|ベンナビ相続
遺留分が保障されている理由 | 近親者の生活保障や相続人間の公平性を保つため
遺留分が民法により保障されている理由は、大きく分けて2つあります。
それは、近親者の生活を守ることと、相続人間の公平性を保つことです。
まず、近親者の生活保障という観点からは、遺留分によって最低限の財産取得を保証することで、生計を被相続人に頼っていた法定相続人が、被相続人の死後も生活基盤を失わずに済むよう配慮されています。
たとえば、被相続人が遺言で財産を全て第三者に譲渡する内容を記載した場合でも、遺留分があれば、子どもや親などの法定相続人は一定の財産を請求できます。
この仕組みは、特に高齢者や経済的に弱い立場の相続人にとって重要といえます。
次に、公平性の観点では、相続人間での極端な格差を防ぐ役割を果たします。
たとえば、ある子どもにだけ大部分の財産を相続させる内容の遺言があった場合、ほかの子どもたちが不満を抱え、家族間の争いに発展する可能性があります。
遺留分はこうした争いを抑制し、相続手続きを円滑に進めるための重要な仕組みといえるでしょう。
遺留分が認められている相続人の範囲とそれぞれの遺留分割合
遺留分権利者の範囲とそれぞれの遺留分割合は、民法で以下のとおり定められています。
法定相続人の組み合わせ | 総体的遺留分 | 個別的遺留分の割合 |
---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | 配偶者:1/2 |
配偶者と直系卑属(子や孫) | 1/2 | 配偶者:1/4 直系卑属全体:1/4 |
配偶者と直系尊属(父母や祖父母) | 1/2 | 配偶者:1/3 直系尊属全体:1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者:1/2 兄弟姉妹:なし |
直系卑属(子や孫)のみ | 1/2 | 直系卑属全体:1/2 |
直系尊属(父母や祖父母)のみ | 1/3 | 直系尊属全体:1/3 |
兄弟姉妹は民法上第3順位の法定相続人にあたりますが、遺留分の権利を有しません。
これは、兄弟姉妹が直系の血縁者に比べて生活保障や公平性の観点から直接的な関係が薄いとみなされるためです。
また、遺留分を受け取る権利を持つ相続人が複数人いる場合は、民法第900条及び第901条の規定にしたがい、それぞれの割合が決定されます。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
遺留分は金銭にて支払われる
遺留分を請求された場合、遺産そのものではなく、金銭で支払われることが原則です。
これは、2018年の民法改正により、2019年7月以降の相続について適用される原則であり、遺留分侵害が生じた場合に円滑な解決を図るための仕組みとして施行されました。
たとえば、遺産が不動産や株式などの分割しにくい資産で構成されているケースにおいて遺留分が侵害された場合、従前の制度(遺留分減殺請求)では共有状態を生じさせたうえで共有持分を解消させる必要があるなど、問題の解決までに困難を生じていました。
そのため、民法改正により、遺留分を侵害された人は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができるとされたのです。
相続で遺留分がもらえない主な原因7つ
遺留分がもらえる仕組みや理由をみてきました。
それではなぜ、相続で遺留分がもらえないことがあるのでしょうか。
ここでは、その主な7つの原因を紹介します。
1.遺留分の権利がない場合
遺留分は、法律で定められた特定の相続人にのみ認められる権利です。
具体的には、被相続人の配偶者、子ども(直系卑属)、および親(直系尊属)のうち、当該被相続人との関係で相続人となる人のみが遺留分を請求できます。
他方、被相続人の兄弟姉妹は相続人となる場合であっても遺留分の権利は認められず、配偶者、直系尊属、直系卑属にあたらない親族や第三者には、遺留分の権利は認められません。
2.相続欠格や相続廃除となり相続権を失った場合
相続欠格や相続廃除となった場合は相続権をはく奪され、遺留分の権利も失います。
相続欠格とされる事由は、相続に関して以下のようなきわめて悪質な行為をした場合です。
- 被相続人や先順位・同順位の相続人を、故意に殺害するか殺害しようとして刑罰を受けた
- 被相続人が殺害されたことを知っていたのに、告発や告訴をしなかった※是非の弁別がない者や、殺害者が自分の配偶者・直系血族である者を除く
- 詐欺や脅迫によって、被相続人の遺言を妨害した
- 詐欺や脅迫によって、被相続人に遺言をさせた
- 被相続人の遺言書を、偽造・変造・破棄・隠匿した
一方、被相続人に対し虐待や重大な侮辱などをした相続人は、被相続人の請求により相続廃除され相続権をはく奪される可能性があります。
3.相続放棄をしていた場合
相続放棄をおこなった場合、遺留分を請求する権利も失います。
相続放棄とは、家庭裁判所に申請することで、相続そのものを辞退する手続きで、自らの意思で相続権を放棄したと見なされるため、遺留分を請求することは認められません。
4.遺留分を放棄していた場合
当然のことですが、遺留分を放棄していた場合、遺留分を請求することはできません。
なお、遺留分の放棄は相続開始前・開始後のいずれも可能ですが、相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要です。
相続開始前の遺留分の放棄を推定相続人の自由な意思に委ねることとすると、被相続人などの利害関係人が不当な圧力を加えて遺留分の放棄を求めるなどのおそれがあるため、家庭裁判所は相続開始前の遺留分放棄を厳しく審査する傾向があります。
家庭裁判所が遺留分放棄を認める条件は以下のとおりといわれています。
- 相続人の真意によって遺留分放棄がおこなわれること
- 遺留分を放棄することに、十分な必要性や合理性が認められること
- 遺留分の放棄がその推定相続人の権利を不当に害するものでないこと
反対に、相続開始後の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可は必要なく、遺留分権利者が自由に放棄をすることができます。
5.遺留分を超える相続遺産を取得していた場合
こちらも当然のことですが、すでに遺留分を超える相続遺産を取得していた場合、遺留分を請求することはできません。
6.遺留分が考慮されていない遺産分割に同意していた場合
遺産分割協議において合意した場合、遺留分侵害額請求によって覆すことはできませんので、遺留分が侵害されるようなら合意をするか慎重に検討するべきです。
7.遺留分算定の基礎となる財産が残っていない場合
遺留分算定の基礎となる財産が残っていない場合も、原則として遺留分はもらえません。
遺留分を算定するための基礎となる財産は、相続財産の価額+贈与の価額-相続債務全額により計算されます(民法1043条1項)。
基礎となる財産がゼロまたはマイナスの状況では、遺留分も存在しないものとされるのです。
なお、生前贈与がおこなわれていた場合は、以下条件に該当するものに限り、遺留分算定の基礎となる財産に含めることができます。
- 被相続人が亡くなる前の1年間におこなわれた贈与
- 被相続人が亡くなる前の10年間に、相続人に対しおこなわれた特別受益にあたる生前贈与
- 贈与する側・される側双方が、遺留分の権利を持つ相続人の損害になることを知りつつおこなわれた贈与
【ケース別】相続で遺留分をもらえないときの対処法
相続で遺留分をもらえないとき、どのように対処すればよいでしょうか。
以下、ケース別でみていきましょう
遺言書によって遺留分が侵害されていた場合
遺言書の内容が不当に遺留分を侵害している場合、遺言で遺産を多く相続したほかの相続人に対し遺留分侵害額請求が可能です。
遺言書に遺留分を放棄するよう書かれていても法的な拘束力はない
特定の相続人に対し遺留分を放棄するよう遺言書に書かれていたとしても、法的な拘束力はありません。
遺言書に従い被相続人の望むとおり遺留分を請求しないか、遺言書に反して遺留分を行使するかは相続人次第です。
被相続人の意思に背くのは気が引けるかもしれませんが、家庭の状況などを考慮して遺留分を請求するか検討しましょう。
ほかの相続人が遺産を独り占めしてしまっている場合
ほかの相続人が遺産を独り占めしている場合、法的な手続きを通じて遺留分を確保することが可能です。
たとえば、相続人のうち身勝手なひとりが理不尽に自分の権利を主張したり、遺産分割協議に応じようとしなかったりするケースが考えられます。
そのような場合は、相続人間で協議をおこない、独り占めの状況を改善することが求められます。
それでも解決しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停は、裁判所の仲裁のもとでおこなわれ、相続人間の公平な遺産分配を目指す手続きです。
調停でも合意ができなかった場合には、遺産分割審判に進むこととなります。
さらに、遺産の使い込みなどがある場合には訴訟を検討しなくてはならない可能性もあります。
ほかの相続人が遺産を隠している疑いがある場合
ほかの相続人が遺産を隠している疑いがある場合、まずは任意の開示を求めるようにしましょう。
直接問い詰めれば、真実を話してもらえる可能性もあります。
また、相続人の遺産は自分自身で調査することも可能です。
例えば、口座の預金残高は相続人の立場で金融機関に照会できます。
市区町村役場に行って固定資産台帳を閲覧すれば、被相続人が所有している不動産の情報も確認できるでしょう。
具体的な調べ方がわからない場合や、上記のような方法でも調査しきれない場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
ほかの相続人が使い込んだことで遺産が残っていない場合
ほかの相続人がすでに遺産を使い込んでいた場合、不当利得返還請求によって使い込まれた遺産を取り戻せます。
遺産分割協議がおこなわれる前であれば、使い込んだ分を清算するような内容で遺産分割割合を決めるのもひとつの手です。
いずれにせよ、遺産が使い込まれた場合は早急な対応が求められます。
どう対処すればよいかわからない場合は、速やかに弁護士へ相談してアドバイスを求めましょう。
ほかの相続人が遺産を使い込んでしまった場合の対処法については、以下記事で詳しく解説しています。
興味があればあわせて参照ください。
【関連記事】遺産の使い込みは即対応が鉄則!返還請求や疑われたときの対処法 | ベンナビ相続
生前贈与によって財産が残っていない場合
被相続人の生前贈与によってすでに十分な遺産が残っておらず遺留分を受け取れない場合でも、遺留分侵害額を請求できるケースは多いです。
たとえば、「亡くなる直前に愛人に対して全財産を贈与した」「亡くなる数年前に一部の子どもにのみ特別に贈与をおこなった」など、本来遺留分を請求できるはずの相続人の権利を侵害するような場合は、正当な権利として遺留分侵害額の請求が認められます。
具体的には前項(7.遺留分算定の基礎となる財産が残っていない場合)で紹介した3つのケースでは、遺留分侵害額の請求が可能です。
遺留分侵害額請求をするときに覚えておくべきポイント2点
時効が経過してしまう前に遺留分を請求する
遺留分の請求には時効が存在します。
被相続人が亡くなったこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与があると知った日から1年以内に請求をおこなわないと、権利が消滅します。
ただし、「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った」日がいつなのか客観的に証明するのが困難な場合も少なくありません。
そのため、遺留分侵害額請求は被相続人が亡くなってから1年以内におこなうべきでしょう。
遺留分請求額の計算など時間がかかる場合もあるため、弁護士など専門家のサポートを受けながら、迅速に対応しましょう。
内容証明郵便で遺留分侵害額請求をおこなう
遺留分侵害額請求をおこなう際は、証拠を残すために内容証明郵便を利用するべきです。
内容証明郵便とは、送付した書面の内容や送付日時などを郵便局が公的に証明する方法であり、後日、「送った・送られていない」の水掛け論によるトラブルを回避するのに役立ちます。
相続で遺留分がもらえないときに弁護士へ相談・依頼すべき理由
相続で遺留分がもらえず、遺留分侵害額請求をする際は弁護士へ相談・依頼することが強く推奨されます。以下、その理由をみていきましょう。
相続人だけでは正確な遺産総額や遺留分の調査は難しい
遺留分を請求する際、正確な遺産総額を把握し、遺留分により請求できる金額を算出することが必要不可欠です。
しかし、相続人自身でこの調査を適切におこなうのは非常に困難です。
特に、被相続人が生前贈与をおこなっていた場合や、相続人たちに対して財産を隠していた場合などでは、遺産総額を把握するためには高度な知識や調査技術が求められます。
また、不動産や金融資産、その他の動産など多岐にわたる財産の評価を正確におこなうには、専門家の助けが必要です。
弁護士は、金融機関への照会、不動産評価の依頼など、必要な手続き全般を代行し、遺産総額を正確に算出するためのサポートを包括的におこなってくれます。
相続問題の実績豊富な弁護士に相談・依頼すれば、遺産総額や遺留分が正確に計算され、適切に請求することが可能です。
個別の状況ごとに適切なアドバイスや判断をしてくれる
相続や遺留分請求に関する問題は、ケースごとに異なる複雑な要素が絡み合います。
たとえば、遺産分割協議が進行中の場合や、ほかの相続人が遺産を隠している疑いがある場合など、それぞれの状況によってとるべき行動が異なります。
相続問題の実績が豊富な弁護士は、法的な知識と経験を活かし、個々の状況に対して最適なアドバイスを提供してくれます。
さらに、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合の対応や、相続人間の争いを解消するサポートもしてくれるでしょう。
弁護士に相談・依頼すれば、相続人同士の感情的な衝突を最小限に抑えつつ、合理的かつ公正な解決が図れるはずです。
遺留分侵害額請求をするための法的手続きを一任できる
遺留分侵害額請求をおこなうには、様々な法的手続きが必要となりますが、弁護士に依頼すればそれらの手続きを一任できます。
遺留分侵害額請求のための手続きとしては、遺留分侵害額請求書の作成や相手方への送付、調停、裁判手続きなど、多くの作業が挙げられます。
各種手続きを正確におこなうためには高度な法律知識や経験が必要であり、相続人がこれらの手続きを独自に進めるのは困難といえるでしょう。
そのため、相続問題や法律に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士に依頼することで、法的手続き全般を一任できるため、相続人自身の負担を大幅に軽減することが期待できるでしょう。
さいごに | 相続で遺留分をもらえない場合は速やかに弁護士へ相談を!
本記事では、相続で遺留分をもらえないケースや対処法について詳しく解説しました。
遺言のなかに「●●に全財産を譲る」といった文言があった場合でも、一定の相続人には遺留分の受け取りを主張する権利があります。
ただし、遺留分の権利は自動的に保護されるものではなく、自分自身で主張しないといけません。
しかし適切に遺留分侵害額請求をするには、複雑な財産調査や個別の状況に応じた難しい判断などが必要です。
相続人だけで対応をすすめるのは難しい場合も多いうえに、遺留分の請求に失敗してしまう可能性も考えられます。
そのため相続で遺留分をもらえない場合は、遺産相続の対応を得意とする弁護士へ速やかに相談しましょう。