遺産分割の相続割合はどう決める?ケース別の計算方法や注意点を解説
遺産分割の割合は、遺言書の有無や遺産分割協議、法定相続分などにより決められます。専門家でなければ、遺産分割に関する全ての割合を把握している人は少ないでしょう。
しかし、いざ遺産分割をすることになれば、割合の決め方を知らないと損をしてしまう可能性が大いにあります。
本記事では、遺産分割の割合の決め方を網羅的にわかりやすく解説します。遺産分割の割合を計算する上でのポイントも解説していますので、民法のルールを正しく理解しスムーズに話し合いを進められるようにしておきましょう。
遺産分割の割合の決め方は遺言書の有無により変わる
遺産分割の割合は遺言書の有無により決め方が異なるため、はじめに遺言書の有無を確認する必要があります。
遺産分割の割合を決める方法は、主に「相続人同士の話し合いで決める方法」と「遺言書で指定された割合に沿う方法」の2つです。
遺産分割の決め方を誤れば、決定した内容が無効となる場合もあるので注意しましょう。
①遺言書がある場合は遺言書によって遺産分割の割合が決まる
遺言書が残されている場合、故人の意思を尊重し遺産分割割合は遺言書の内容に沿って決められます。
遺産は被相続人と血縁関係がある相続人が受け継ぐ場合が多いです。しかし、遺言書に相続人以外の受遺者が指定されているケースは、相続人以外の人物が遺産を受け取る権利を得ます。
遺言書が残されていた場合でも、下記の条件を満たしていれば相続人同士での話し合いで遺産分割の割合が決められますので抑えておきましょう。
- 遺言書で遺産分割協議が禁止されていない。
- 全ての相続人または受遺者の同意がある。
- 遺言執行者の同意がある。
②遺言書がない場合は遺産分割協議によって割合を決める
遺言書が残されていない場合では、遺産分割協議により遺産分割の割合が決められます。遺産分割協議とは、全ての相続人の話し合いにより相続する割合を決める方法です。
遺産分割協議を成立させるためには、相続人の全員の同意が必要になります。
遺産分割協議がまとまらない場合は「法定相続分」に従う
遺産分割協議がまとまらない場合は、法定相続分に従い遺産が分配されます。
遺産分割協議が難航した際に利用する遺産分割調停・審判なども法定相続分を基準に割合が決定されます。
遺産分割の割合を決めるのに重要な法定相続分とは?
法定相続分とは、法律で定められる各相続人が取得できる遺産の割合を指します。配偶者の有無や配偶者と相続人の組み合わせにより割合が変わりますので計算方法を抑えておきましょう。
各相続人の組み合わせごとの割合を解説します。法定相続分の知識を深め、ご自身の遺産分割の順位を把握しておきましょう。
配偶者のみ・子どものみ・親のみ・兄弟姉妹のみの場合
相続人が配偶者のみの場合、遺産は全て配偶者が相続します。相続人が子どものみ・親のみ・兄弟姉妹のみのケースも全ての遺産の相続が可能です。
相続人が複数いれば、該当者で分け合います。たとえば、子どもが2人での相続であれば、遺産を1/2ずつ分け合います。
配偶者と子どもの場合
相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者が1/2、子どもも1/2の割合で相続します。
子どもが複数人いれば配偶者の1/2は変わらず、残りの1/2を子どもで均等に分け合います。相続人が配偶者と3人の子どもの際は、子どもが1/2を3人で均等に分けるので、全体の1/6ずつ相続します。
配偶者と親の場合
相続人が配偶者と親の場合、配偶者が2/3、親が1/3の割合で相続します。親が2人いるケースは、相続した1/3を均等に分け合います。
配偶者と被相続人の両親が相続人となれば、配偶者が2/3、両親が1/6ずつ相続します。
配偶者と兄弟姉妹の場合
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4の割合で相続します。
兄弟姉妹が複数いるケースは、与えられた1/4を均等に分け合います。兄弟が4人いれば、全体の1/16ずつ相続する形となります
遺産分割の割合を計算する上で注意したい3つのポイント
遺産分割の割合を計算する際には「代襲相続」「養子・養親」「認知された子ども」の3つのポイントに注意する必要があります。
遺産分割の割合は、トラブルに発展する場合も多いため細かい箇所まで注意が必要です。解説をする内容を踏まえながら遺産分割に向けての準備をおこなっていきましょう。
1.代襲相続(だいしゅうそうぞく)
代襲相続は、本来ならば相続人となる子どもまたは兄弟姉妹が亡くなっている場合に、亡くなった方の子ども(被相続人の孫や甥・姪)が代わりに相続人になる際に発生します。
代襲相続の際の遺産分割の割合は、本来の相続人が受け取るはずの遺産を代わりの相続人で均等に分配します。
相続人が配偶者と長男A、長女Bで長女Bがすでに亡くなっていて子どもC、子どもD(被相続人の孫または甥・姪)がいる場合、長女Bに代わり、子どもC・Dが相続人となります。
分割割合は、配偶者が1/2、長男Aが1/4、長女Bの1/4、を子どもC、Dが分けて1/8ずつ相続します。
2.養子、養親
養子には、普通養子と特別養子の2種類があります。普通養子は実親・養親の両方の相続人になれるのに対して、特別養子は養親のみの相続人になれます。
養子は養親の子として法律上で認められるため、実子と同じ法定相続分を適用できます。
仮に養子に子どもがいる場合、子どもができた時期により代襲相続するかどうかが変わります。養子縁組より前に生まれた子どもの場合、代襲相続されません。養子縁組より後に生まれた子どもであれば血族関係が認められ代襲相続します。
3.認知された子ども
認知された子どもとは、非嫡出子(婚姻関係のない夫婦にできた子ども)で、法律で被相続人の父親との父子関係が認められた子どもです。
認知された子どもは相続権があり、嫡出子と同じ法定相続分の適用が可能です。
非嫡出子が生まれた後、手続きをしなければ、被相続人の父親との父子関係が認められないので、相続権はありません。
非嫡出子が認知された子どもになるためには、被相続人の父親が自身の子どもであると認知し、法律で父子関係が認められる必要があります。
遺産分割の特殊な場合の相続割合とは?
相続する遺産の中に借金がある場合や相続放棄または相続人の死亡により、相続人が増減するなど特殊な場合に直面する可能性があります。
特殊な場合を把握せず遺産相続を進めてしまうと後々に損をしてしまう恐れがありますので、遺産分割における特殊な場合の相続割合を解説します。
亡くなった人に借金がある
遺産相続はプラスの遺産だけでなく、借金などのマイナスの遺産も相続します。借金を相続する場合は、法定相続分の割合が適用されます。
たとえば、被相続人に100万円の借金があり、配偶者1人と子ども2人が相続する場合は、配偶者が50万円、子どもが25万円ずつ相続します。
また、マイナスの遺産相続の割合に関しては、遺産分割協議では決められません。仮に、配偶者が全てのマイナスの遺産を相続すると決めていても、債権者は子どもに返済を要求することが可能です。
相続放棄した人がいる
相続放棄した人がいる場合、残りの相続人で法定相続分に従って分配します。相続放棄すると、初めから相続人ではなかった扱いになるので代襲相続には該当しません。
たとえば、相続人として配偶者と子どもが2人いたとします。子ども2人のうち片方が相続放棄した場合は、配偶者1/2、残された子ども1人が1/2の割合で相続します。相続放棄した人に子どもがいても、代襲相続とはならいないため相続人には当てはまりません。
子どもが2人とも相続放棄した場合は、相続順位第二順位である父母もしくは祖父母が相続人となり、法定相続分により割合が決定されます。
相続人が先に亡くなっている
相続人が先に亡くなっている場合、残された相続人で法定相続分に従い相続します。相続放棄とは異なり、代襲相続が適用されます。
亡くなった相続人に子どもがいない場合は、残された相続人で余った遺産を法定相続分通りに分配します。
一方で亡くなった相続人に子どもがいる場合は、本来亡くならなければ被相続人の子どもが相続する予定だった遺産を、孫が均等に相続します。
遺産分割の割合でよく聞く遺留分とは?
遺産分割の割合を決める際に「遺留分」という言葉をよく耳にするのではないでしょうか。
「遺留分とは何か」や「遺留分割合の決め方」「実際に遺留分を侵害された際の対処法」などを解説しますので、遺留分の知識を深め、ご自身の状況が遺留分の侵害に該当しているかをチェックしましょう。
遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人のみ該当
遺留分とは、ある特定の法定相続人の遺産相続に関して最低限保証されている制度です。
兄弟姉妹以外の法定相続人に適用されます。遺言書に愛人など家族以外の人物に遺産を相続させると書いてあった場合でも、配偶者・直系卑属・直系尊属に該当する相続人は、一定の割合の遺産を相続できます。
遺留分が適用される相続人が複数いる場合は、法定相続分によって分配されます。
遺留分割合の決め方
遺留分割合は法定相続分とは異なり、被相続人との続柄によって決まります。
相続人が配偶者のみの場合、財産の1/2が遺留分になります。1000万円の財産がある場合、500万円が配偶者の遺留分です。
相続人が配偶者と子どもの場合、1/2が遺留分となります。遺留分で相続した財産は法定相続分に従い配偶者と子どもに1/2ずつ分配されます。
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人で1000万円の財産がある場合、遺留分で500万円相続します。遺留分で得た500万円をさらに法定相続分に従って配偶者と子どもに分配するので、配偶者は250万円、子ども2人は125万円ずつ相続できます。
遺留分の侵害
遺留分の侵害の具体例と対処法を解説します。遺留分を侵害されても対処する方法があります。
遺留分が侵害されている場合と対処法を理解し、ご自身が遺留分を侵害されても適切に対応できるようにしましょう。
遺留分侵害の具体例
主に、遺留分の侵害は遺言書により発生します。具体例を3つご紹介します。
1:相続人が配偶者と長男A、長女Bの3人で、遺言書には、長男Aに全ての財産を与えると記載されているとします。原則、遺言書の内容が優先されるので、長男Aが全ての財産を相続できます。しかし、配偶者と長女Bは遺留分として最低限保障されている財産すら受け取れなくなってしまいます。 |
上記の場合、配偶者と長女Bは長男Aに遺留分の侵害を受けています。
2:被相続人は遺言書により法定相続人以外の人に財産を贈与でき、贈与された人は受遺者となります。仮に、遺言書により遺産を受遺者が全て相続するように指定されている場合、法定相続人は遺産を相続できなくなってしまいます。 |
上記の場合、法定相続人は受遺者に遺留分の侵害を受けています。
3:被相続人が生前に、法定相続人または法定相続人以外の人に財産を贈与していた場合、他の相続人は遺産として相続できる財産が無くなってしまいます。生前におこなわれた贈与は生前贈与と呼ばれ、遺留分侵害の対象となります。 |
遺留分侵害された際の対処法
遺留分を侵害された際、遺留分侵害額請求をすれば遺留分侵害した人物に対して遺留分を請求できます。
遺留分侵害額請求は、相続人同士の話し合いから始めます。話し合いで合意できなければ、内容証明郵便を送り、本格的に遺留分の請求をおこないます。内容証明郵便での請求が無視されたり、話し合いが難航すれば、家庭裁判所に申し立てをおこない、調停、訴訟へと発展していきます。
遺留分侵害額請求には「時効」と「除斥期間」の請求できる期限があります。時効は相続の発生と遺留分の侵害を認知してから1年です。
1年が経過すると、遺留分侵害額請求はできません。除斥期間は相続発生から10年が期限になります。10年が過ぎると、相続の発生や遺留分の侵害を認知していなくても遺留分が請求する権利が消滅します。
ですから、まずは遺留分侵害請求を内容証明郵便でおこなっておくことをおすすめします。
まとめ|遺産分割が難しい時には弁護士に相談も
遺産分割の割合は法定相続分によって定められています。主に配偶者の有無により、割合の計算方法が異なります。
配偶者がいない場合は、単純な分割の割合となっていますが、配偶者と別の相続人がいる場合、細かい計算が必要になります。
遺産相続の割合を専門家ではない一般の人が計算するのはかなり面倒です。ご自身で遺産分割の割合を計算するのが面倒であれば、弁護士に依頼するのも選択肢の1つです。
遺産分割の割合が曖昧で相続人同士のトラブルに発展する前に弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
また弁護士へ相談する場合は遺産分割について弁護士に無料相談する方法|弁護士に依頼するメリットも解説をご覧ください。