相続放棄する場合でも未支給年金は受け取れる!その理由や受給条件、注意点を解説
「親が借金を残して亡くなったので相続放棄をしたい。でも、故人の財産に手をつけると相続放棄ができなくなると聞いた。未支給年金を受け取るのは問題ないのだろうか?」
このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
結論からいうと、相続放棄をする場合でも、条件を満たせば未支給年金は受け取れます。
本記事では、相続放棄をしても未支給年金を受け取れる理由や、具体的な受給条件、手続きの方法、そして思わぬトラブルを避けるための注意点まで解説します。
本記事を最後まで読めば、未支給年金と相続放棄に関する不安が解消され、安心して手続きを進める第一歩を踏み出せるでしょう。
相続放棄をしても未支給年金を受け取れるのはなぜ?
相続放棄をしても未支給年金を受け取れる理由は、未支給年金が法律上「相続財産」ではないとされているからです。
そもそも相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産などプラスの財産も借金などのマイナスの財産も、全て受け継がないと家庭裁判所に申し立てる手続きです。
このとき問題になるのが、被相続人が残した相続財産を処分してしまい、相続放棄が認められなくなってしまうケースです。
例えば、故人の預金を引き出して自分のために使ってしまうと、「相続する意思がある(単純承認)」とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
しかし、国民年金や厚生年金といった公的年金の未支給年金は、亡くなった方の財産ではなく、法律に基づいて遺族に直接支払われる「遺族自身の固有の財産」と考えられています。
そのため、未支給年金を受け取る行為は、故人の相続財産を処分したことにはならず、相続放棄の手続きに影響を与えません。
未支給年金と相続放棄に関わる判例
未支給年金が相続財産ではないという考え方は、法律の専門家の間でも確立されており、日本の司法における最高の判断機関である最高裁判所も、平成7年11月7日の判決で明確な判断を示しています。
この判例では、未支給年金の請求権は、相続とは別に、年金法が遺族の生活保障のために特別に認めた権利(固有の権利)であると結論づけられました。
この判決があるおかげで、私たちはいま、相続放棄をする場合でも安心して未支給年金を請求できるのです。
相続放棄者が未支給年金を受給できる条件
相続放棄をする場合でも未支給年金は受け取れますが、誰でも無条件に受け取れるわけではありません。
具体的には、以下2つの条件を満たす必要があります。
- 被相続人と生計を同じくしていたこと
- 受け取りの順位が最も高いこと
それぞれの条件について、以下で詳しく見ていきましょう。
被相続人の死亡時に生計を同一にしていた親族であること
未支給年金を受け取るための大前提は、年金受給者が亡くなった当時、その方と「生計を同じくしていた」親族であることです。
「生計を同じくしていた」と聞くと、同居していることだけをイメージするかもしれませんが、それだけではありません。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 亡くなった方と同じ家で、家計を一緒にして生活していた場合
- 別居していても、定期的に仕送りなどの経済的な援助をしていた、または受けていた場合
- 別居していても、頻繁に訪問して身の回りの世話をするなど、経済的な援助に準ずるような交流があった場合
例えば、一人暮らしの親の家に子が定期的に通い、光熱費の支払いを手伝ったり、身の回りの世話をしたりしていた場合も「生計同一」と認められる可能性があります。
なお、別居の場合は、その関係性を証明するために第三者の証明書などを求められることもあります。
この条件は、年金制度が遺族の生活を支えるという目的を持っているために設けられています。
そのため、たとえ血縁関係が近くても、まったく交流がなく経済的なつながりもなかった親族は、未支給年金を受け取ることができません。
法律で決められた受け取り順位で最も上位であること
「生計を同じくしていた」という条件を満たした親族が複数いる場合、誰が受け取る権利を持つのでしょうか。
これについては、法律で受け取れる人の範囲と順位が厳格に定められています。
この順位は、民法の相続順位とは異なる、年金独自のルールです。
未支給年金を受け取れる順位は以下のとおりです。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 上記以外で3親等内の親族(甥、姪、おじ、おばなど)
この順位は絶対的なもので、リストの上位にいる人が一人でもいれば、それより下位の人は未支給年金を受け取ることはできません。
例えば、亡くなった方に配偶者がいて生計を同じくしていた場合、たとえ同居していた子や兄弟姉妹がいたとしても、未支給年金を受け取る権利があるのは配偶者だけです。
同じ順位が2人以上いる場合はどちらにも権利がある
もし、同じ順位の人が2人以上いる場合はどうなるのでしょうか。
この場合、その順位にいる人全員が未支給年金を受け取る権利を持ちます。
ただし、年金事務所が年金を分割してそれぞれに支払ってくれるわけではありません。
法律では、同順位の人のうち一人が代表して請求手続きをおこなえば、全員のために全額を請求したものとみなされることになっています。
年金事務所から代表者一人に全額が支払われたあと、そのお金を権利のある人たちでどう分けるかは、当事者間で話し合って決める必要があります。
未支給年金を受け取るための手続き方法
未支給年金は、自動的に振り込まれるものではなく、権利のある人が自ら請求手続きをおこなう必要があります。
手続き自体はそれほど複雑ではありません。
以下で具体的な手順を見ていきましょう。
1.必要書類を準備する
手続きをスムーズに進めるために、あらかじめ必要な書類を揃えておきましょう。
一般的に必要となるのは以下の書類です。
- 未支給年金・未支払給付金請求書
- 亡くなった方の年金証書、または基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本(または法定相続情報一覧図の写しなど)
- 世帯全員の住民票
- 亡くなった方の住民票の除票
- 請求者名義の預貯金通帳のコピー
- (別居の場合)生計同一関係に関する申立書
これらの書類は、状況によって追加で必要になったり、一部が不要になったりすることもあります。
手続きに行く前に、年金事務所に電話などで確認しておくと確実です。
2.年金事務所か年金相談センターに提出する
書類の準備ができたら、お近くの年金事務所または年金相談センターの窓口に提出します。
多くの場合、年金受給者が亡くなったことを届け出る「年金受給権者死亡届」の提出も必要になります。
この死亡届の提出と、未支給年金の請求手続きは、同時におこなうと効率的です。
手続きについて不明な点があれば、窓口の担当者が丁寧に教えてくれますので、遠慮なく質問しましょう。
未支給年金を受け取る際の注意点
未支給年金は相続放棄をしても受け取れますが、手続きや受け取り方にはいくつかの注意点があります。
知らずに行動してしまうと、思わぬトラブルに発展したり、受け取れるはずのお金を失ったりする可能性もあります。
ここで紹介する5つのポイントを必ず押さえておきましょう。
死亡届の提出が遅れると不正受給になる可能性がある
年金を受け取っていた方が亡くなった場合、遺族は年金の支給を止めるために「年金受給権者死亡届」を提出する義務があります。
提出期限は、国民年金の場合は14日以内、厚生年金の場合は10日以内です。
この届け出を怠り、亡くなった方の口座に年金が振り込まれ続けてしまうと、それは「不正受給」とみなされます。
故意に死亡の事実を隠して年金を受け取り続けるような悪質なケースでは、受け取った年金の返還を求められるだけでなく、詐欺罪として懲役や罰金などの重い罰則が科される可能性もあります。
このような事態を避けるためにも、死亡届は速やかに提出しましょう。
未支給年金の受給権には5年間の時効がある
未支給年金を受け取る権利は、永久に保証されるわけではありません。
法律により、請求できる権利には5年間の時効が定められています。
具体的には、本来の年金支払日の翌月初日から5年を過ぎると、時効によって権利が消滅してしまいます。
例えば、8年前に亡くなった方の未支給年金に今気づいたとしても、5年以上前の分は受け取ることができません。
大切な権利を失わないためにも、未支給年金の請求手続きはなるべく早くおこなうことをおすすめします。
繰り下げ受給の確認も忘れない
亡くなった方が年金の「繰り下げ受給」をしていたかどうか確認することも重要です。
遺族は65歳から亡くなるまでの期間の年金を請求できますが、受け取れる金額は増額される前の65歳時点の年金額で計算されることを、あらかじめ理解しておきましょう。
受け取れる金額を正しく把握しておくことで、あとの生活設計も立てやすくなります。
未支給年金は相続税でなく所得税の対象となる
未支給年金は相続財産ではないため、相続税の課税対象にはなりません。
しかし、税金が一切かからないわけではありません。
受け取った遺族の一時所得として、所得税の課税対象となります。
一時所得には年間50万円の特別な控除枠があります。
そのため、受け取った未支給年金の額が、その年に受け取ったほかの一時所得(生命保険の一時金など)と合計して50万円以下であれば、確定申告は不要です。
もし合計額が50万円を超える場合は、確定申告をして所得税を納める必要があるので注意しましょう。
被相続人の口座に振り込まれると引き出せなくなる可能性がある
未支給年金は、必ず請求者自身の口座に振り込んでもらうように手続きしてください。
万が一、何かの手違いで亡くなった方の口座に未支給年金が振り込まれてしまった場合、その口座は死亡の連絡によってすでに凍結されているため、お金を引き出せなくなる可能性が高いです。
凍結された口座から無理にお金を引き出そうとすると、相続財産に手を出したとみなされ、相続放棄に影響が出るリスクもゼロではありません。
このような複雑な事態を避けるためにも、請求手続きの際には振込先口座を明確に指定することが大切です。
相続放棄をしても未支給年金以外に受け取れるお金・受け取れないお金
相続放棄を考えるとき、未支給年金以外にも「このお金は受け取っても大丈夫?」と迷う場面があるかもしれません。
判断を誤ると相続放棄が認められなくなる重大な結果につながるため、ここで「受け取れるお金」と「受け取れないお金」を明確に整理しておきましょう。
一番のポイントは、そのお金が「相続財産」か、それとも「受取人固有の財産」か、という点で一般的な考え方を整理すると以下のとおりです。
| お金の種類 | 相続財産? | 相続放棄しても受け取れる? | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 未支給の公的年金 | いいえ (遺族の固有財産) |
はい | 受給条件を満たす必要あり。 所得税(一時所得)の対象となる。 |
| 死亡保険金 | いいえ (受取人の固有財産) |
はい (自分が受取人の場合) |
受取人に指定されていれば受け取れる。 ただし、税法上は「みなし相続財産」として相続税の対象になることがある。 |
| 死亡退職金 | 会社の規定による | はい (規定で自分が受取人の場合) |
会社の退職金規定などで受取人が指定されていれば受け取れる。 死亡保険金と同様に「みなし相続財産」として扱われることがある。 |
| 企業年金・個人年金 | はい | いいえ | これらは故人の契約に基づく財産であり相続財産とみなされる。 受け取ると相続放棄ができなくなる可能性が極めて高い。 |
| 故人の預貯金 | はい | いいえ | 明確な相続財産。 葬儀費用に充てるなど一部の例外を除き、引き出して使うと相続放棄ができなくなる。 |
| 税金・医療費の還付金 | はい | いいえ | これらは故人自身に返還されるべきお金であり、相続財産に含まれる。 請求・受領すると相続放棄に影響が出る。 |
このように、公的年金と、企業年金や個人年金とでは、法律上の扱いがまったく異なります。
特に企業年金や個人年金は、相続財産とみなされるため、相続放棄をする場合は絶対に受け取らないようにしてください。
相続放棄後の未支給年金に関わる手続きについてよくある質問
ここでは、相続放棄と未支給年金に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。
相続放棄後に年金の返還が求められることはある?
年金事務所が死亡の事実を把握する前に年金を支払い過ぎてしまった(過払い)場合、後日、遺族に返還を求める通知が届くことがあります。
この通知が届いた場合は、まず家庭裁判所で相続放棄の手続きが完了していることを年金事務所に伝えましょう。
相続放棄をした相続人は、原則として故人の債務を引き継ぐ必要はありません。
ただし、過払いされた年金を故人の口座から引き出して使ってしまった場合は、返還義務が生じる可能性があるので注意が必要です。
相続放棄をしたら企業年金や個人年金も受け取れなくなる?
相続放棄をする場合は、企業年金や個人年金の未支給分は受け取れません。
これらの年金は、公的年金とは異なり、故人が企業や保険会社と結んだ契約に基づく財産です。
そのため、法律上「相続財産」とみなされます。
もしこれらを受け取ってしまうと、相続財産を処分したと判断され、借金も含めた全ての遺産を相続したとみなされてしまいます。
被相続人が亡くなる前に振り込まれた年金を使っても相続放棄はできる?
亡くなる前に故人の口座に振り込まれていた年金は、その時点で故人の預貯金の一部となっており、紛れもない「相続財産」です。
このお金を引き出して自分の生活費などに使ってしまうと、相続財産を処分したことになり、相続放棄は認められなくなります。
ただし、社会通念上、常識的な範囲の金額を葬儀費用に充てることは、例外的に認められることが多いです。
それでも、判断に迷う場合は専門家に相談することをおすすめします。
さいごに|相続放棄後は未支給年金の受け取り手続きに注意が必要!
今回は、相続放棄をする場合でも未支給年金を受け取れるかについて詳しく解説しました。
国民年金や厚生年金などの公的年金の未支給年金は、相続財産ではなく法律で定められた遺族自身の「固有の財産」のため、相続放棄をしても受け取れます。
もっとも、受け取るには「生計を同じくしていたこと」と「法律で定められた順位が最上位であること」の2つの条件を満たす必要があります。
未支給年金は、残された家族の生活を支えるために国が認めた大切な権利です。
本記事で解説したポイントを押さえ、注意点を守れば、権利を失うことなく、適切に手続きを進めることができます。
まずは必要書類を確認し、お近くの年金事務所へ相談することから始めましょう。
もし手続きが複雑で不安な場合や、ほかにも多くの財産があって判断に迷う場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することも検討しましょう。
