名誉毀損の成立条件|犯罪や損害賠償の要件・責任追及の手続きなどを解説
インターネット上で誹謗中傷を受けた場合には、名誉毀損として加害者の法的責任を追及できる可能性があります。
名誉毀損には、刑法上の「名誉毀損罪」と民法上の「名誉毀損(不法行為)」の2種類があり、それぞれ法律で要件が定められています。
信頼できる弁護士に依頼して、加害者の法的責任を厳しく追及しましょう。
今回は名誉毀損について、成立条件や加害者の責任を追及する手続きなどを解説します。
2種類の名誉毀損|刑事・民事
名誉毀損には、刑法上の「名誉毀損罪」と民法上の「名誉毀損(不法行為)」の2種類があります。
刑法上の「名誉毀損罪」
刑法上の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為に成立する犯罪です(刑法230条1項)。
名誉毀損罪に当たる行為をすると、逮捕・起訴や刑事罰の対象となる可能性があります。
名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
民法上の「名誉毀損(不法行為)」
民法上の名誉毀損は、故意または過失によって他人の名誉権を毀損して損害を与えた場合に成立し、「不法行為」の一種に位置づけられます(民法709条)。
通常の不法行為と同様に損害賠償の対象となりますが、それに加えて名誉回復措置の請求が認められている点が大きな特徴です(民法723条)。
名誉毀損罪の構成要件
刑法上の名誉毀損罪は、以下の構成要件をすべて満たす行為について成立します。
- 問題の言動が公然と行われたこと
- 言動の中で何らかの事実が摘示されたこと
- 他人の名誉を毀損したこと
問題の言動が公然と行われたこと
「公然と」とは、不特定または多数の人に向けて言動がなされることをいいます。
実際に不特定または多数の人に伝わったことまでは必要ありませんが、少なくともその可能性がある場所で言動がなされたことが必要です。
言動の中で何らかの事実が摘示されたこと
名誉毀損罪が成立するためには、被害者に関して何らかの具体的事実が摘示されたことが必要です。
(例)
- 反社会的勢力と繋がりがある
- 不倫をしている
- 裏金を受け取ったなど
事実を摘示せずに誹謗中傷などをした場合には、名誉毀損罪ではなく侮辱罪(刑法231条)の対象となります。
他人の名誉を毀損したこと
「名誉を毀損」するとは、他人の社会的評価を下げるような言動を発することをいいます。
実際に被害者の社会的評価が下がったことまでは必要ありませんが、客観的に見て被害者の社会的評価を低下させる可能性のある言動であることが必要です。
名誉毀損罪が不成立となる「公共の利害に関する場合の特例」
上記の構成要件をすべて満たす場合でも、以下の3つの要件をすべて満たす場合には「公共の利害に関する場合の特例」(刑法230条の2)によって違法性が阻却され、名誉毀損罪は不成立となります。
- 公共性|言動が公共の利害に関する事実に係ること
- 公益性|言動の目的が専ら公益を図ることにあったこと
- 真実性|摘示された事実が真実であると証明されたこと
公共性|言動が公共の利害に関する事実に係ること
摘示された事実について「公共性」が認められるためには、一般の多数人の利害に関係するものであることが必要です。
摘示された事実そのものが公共性を備えていなくても、公共性を備えた事実について評価・判断する資料となるものであれば足ります。
(例)
起訴されていない犯罪に当たる行為をした事実:事実そのものに公共性あり
未解決事件の発生当時、現場周辺にいた事実:公共性を備えた事実について評価・判断する資料であるため、公共性あり
なお、公務員または公選の公務員の候補者に関する事実の場合、公共性の要件は不要とされています(刑法230条の2第3項)。
公益性|言動の目的が専ら公益を図ることにあったこと
言動について「公益性」が認められるためには、主たる動機が公益を図るためであったことが必要(それ以外の目的が併存していても可)と解されています。
公益性の有無については、事実を摘示する際の表現方法や事実調査の程度などが考慮されます(最高裁昭和56年4月16日判決)。
真実性|摘示された事実が真実であると証明されたこと
公共の利害に関する場合の特例の適用を受けるためには、言動の中で摘示した事実が真実であることを被告人が証明しなければなりません。
必ずしも摘示した事実すべてではなく、その主要・重要な部分について真実であるとの証明がなされれば足りると解されています(東京地裁昭和49年6月27日判決)。
誤った事実を発信してしまった場合|故意が否定される場合あり
言動の中で摘示した事実が誤っていた場合、真実性の要件を満たさないため、公共の利害に関する場合の特例によって違法性が阻却されることはありません。
しかし、摘示した事実が真実であると誤信したことにつき、確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、名誉毀損罪の故意が否定されると解されています(最高裁昭和44年6月25日判決)。
口コミやレビューの取り扱い|前提となる事実の重要な部分が真実性の対象
口コミやレビューなどの意見や論評は、それ自体は事実に当たりませんが、前提となる事実の重要な部分が真実性の証明の対象になると解されています。
すなわち意見・論評が前提とする事実が、重要な部分について真実であることを被告人が証明した場合、公共の利害に関する場合の特例が適用されて名誉毀損罪は不成立となります(最高裁平成9年9月9日判決)。
民法上の名誉毀損(不法行為)の成立要件
民法上の名誉毀損(不法行為)は、以下の要件をすべて満たす場合に成立します。
- 言動が違法であること
- 故意または過失が認められること
- 言動によって被害者が損害を受けたこと
言動が違法であること
言動が不法行為に当たるためには、当該言動に違法性があることが必要です。
違法性の判断に当たっては、その言動が被害者の社会的評価を下げる性質のものであったか否か、および刑法上の名誉毀損罪における公共の利害に関する場合の特例の要件に該当するか否かが考慮されます。
また明文はありませんが、民法上の名誉毀損についても、刑法上の名誉毀損罪と同様に言動の公然性が必要と解されています。
一方、刑法上の名誉毀損罪とは異なり、民法上の名誉毀損の成立に事実の摘示は必須ではありません。
故意または過失が認められること
不法行為責任が成立するためには、名誉毀損に当たる言動を発した者に故意または過失が存在したことが必要です。
故意:意図的に被害者に対して損害を与えたこと
過失:被害者に対して損害を与えたことにつき注意義務違反があること
たとえば摘示した事実が誤りであったために公共の利害に関する場合の特例が適用されないケースで、真実性の誤信につき確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、故意・過失が否定される可能性があります。
言動によって被害者が損害を受けたこと
名誉毀損に当たる言動によって実際に被害者が受けた損害額が、不法行為に基づく損害賠償の対象です。
損害額については、被害者側が立証責任を負います。
精神的損害(慰謝料)については、名誉毀損の事実が認められれば数十万円程度が認められる傾向にあります。
それ以外の損害(たとえば営業上の損害など)を主張する際には、被害者側がその発生を立証しなければなりません。
ネット上の名誉毀損について法的責任を追及する手続き
インターネット投稿による名誉毀損については、刑事告訴をすることで投稿者の刑事責任を追及できます。
投稿者の民事責任を追及する場合は、投稿者を特定した上で損害賠償などを請求することになります。
刑事責任を追及するには「刑事告訴」
誹謗中傷などのインターネット投稿については、名誉毀損罪または侮辱罪として刑事告訴をすることができます(刑事訴訟法230条)。
刑事告訴をすると、捜査機関に捜査を尽くす義務が発生するため、投稿者の摘発に繋がる可能性があります。
民事責任を追及する手続き
名誉毀損の投稿者の民事責任を追及するに当たっては、まず投稿者を特定する必要があります。
投稿者が特定できたら、損害賠償または名誉回復措置を請求しましょう。
投稿者を特定する|発信者情報開示請求など
実名投稿など投稿者の素性がわかっていれば問題ありませんが、匿名の場合は「発信者情報開示請求」などによって投稿者を特定します。
発信者情報開示請求に当たっては、サイト管理者(コンテンツ・プロバイダ)や投稿に用いられた端末のインターネット接続業者(アクセス・プロバイダ)を相手方として、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てるケースが多くなっています(プロバイダ責任制限法8条)。
裁判所から発信者情報開示命令が発せられれば、投稿者に関する情報の開示を受けられ、投稿者の特定に至る可能性があります。
発信者情報開示請求については発信者情報開示請求とは|投稿者特定の手続き・注意点・弁護士費用などを解説をご覧ください。
損害賠償・名誉回復措置を請求する
名誉毀損の投稿者を特定できたら、被害者は投稿者に対して、以下のいずれかまたは両方の請求ができます。
損害賠償請求
名誉毀損によって被った損害(慰謝料、営業上の損害など)の賠償を請求できます(民法709条)。
名誉回復措置請求
金銭の支払いだけでは損害が回復しない場合に、被害者の名誉を回復するのに適当な処分を請求できます(民法723条)。
名誉毀損の開示請求や損害賠償請求を弁護士に依頼するメリット
名誉毀損の被害者が発信者情報開示請求や損害賠償請求を行う際には、弁護士に依頼することをおすすめします。
これらの対応を弁護士に依頼することの主なメリットは、以下のとおりです。
- 複雑な開示請求・損害賠償請求の手続きを一任できる
- 適正額の損害賠償を請求できる
複雑な開示請求・損害賠償請求の手続きを一任できる
発信者情報開示請求をする際には、プロバイダ責任制限法上の要件・手続きに従って、非常に複雑な対応が求められます。
また損害賠償請求についても、示談交渉が妥結しない場合には法的手続きが必要となります。
弁護士に依頼すれば、専門性の高い発信者情報開示請求や損害賠償請求の対応を一任できます。
被害者本人の労力が大幅に軽減される上に、適切な方針によって対応できる点が、弁護士に依頼することの大きなメリットです。
適正額の損害賠償を請求できる
名誉毀損によって大きな損害を受けた場合には、特に弁護士への依頼をおすすめします。
名誉毀損による損害額が大きいケースの典型例は、営業上の評判を毀損されて売り上げが低下した場合などです。
このような場合には、損害が発生したことの証拠を十分に揃えられるか否かが、適正額の損害賠償を獲得できるかどうかの分かれ目となります。
弁護士に依頼すれば、さまざまな手段を用いて証拠を検討・確保し、名誉毀損による損害全額を回復できるようにサポートしてもらえます。
名誉毀損への対応を依頼する際の弁護士費用
インターネット投稿による名誉毀損につき、弁護士に対応を依頼する際には、以下の弁護士費用がかかります。
1:相談料
正式に依頼する前の段階で、弁護士の法律相談を利用した際に支払います。
2:着手金
弁護士へ正式に依頼する段階で支払います。
3:報酬金
弁護士の対応によって何らかの成果が得られた場合に支払います。
(例)発信者情報が開示された、損害賠償を得られたなど
4:日当
弁護士が出張した場合に発生します。
5:実費
案件対応の過程で弁護士が支出した実費は、依頼者が負担します。
各弁護士費用の金額目安(実費については具体例)は、以下のとおりです。
※損害賠償請求の弁護士費用については、「日本弁護士連合会弁護士報酬基準」(現在は廃止)を参考にしています。
※インターネット投稿の削除依頼・発信者情報開示請求については、同基準に記載がないため、筆者の私見による参考値を記載しています。
名誉毀損の裁判費用については名誉毀損の裁判に必要な費用は?名誉毀損による損害賠償請求の事例も紹介もご覧ください。
相談料
<共通>
30分5,500円程度
※弁護士によっては、無料相談を受け付けている場合があります。
着手金
<インターネット投稿の削除依頼に関する着手金額の目安>
任意交渉の場合 |
11万円~33万円 |
仮処分申立ての場合 |
22万円~44万円 |
<発信者情報開示請求に関する着手金額の目安>
22万円~44万円
<損害賠償請求に関する着手金額の目安>
経済的利益の額が300万円以下の場合 |
経済的利益の額の8.8% |
300万円を超え3,000万円以下の場合 |
経済的利益の額の5.5%+9万9,000円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 |
経済的利益の額の3.3%+75万円9,000円 |
3億円を超える場合 |
経済的利益の額の2.2%+405万9,000円 |
※請求額を経済的利益として計算
<名誉毀損罪・侮辱罪の刑事告訴に関する着手金額の目安>
22万円~44万円
報酬金
<インターネット投稿の削除依頼に関する報酬金額の目安>
任意交渉の場合 |
11万円~33万円 |
仮処分申立ての場合 |
22万円~44万円 |
<発信者情報開示請求に関する報酬金額の目安>
22万円~44万円
<損害賠償請求に関する報酬金額の目安>
経済的利益の額が300万円以下の場合 |
経済的利益の額の17.6% |
300万円を超え3,000万円以下の場合 |
経済的利益の額の11%+19万8,000円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 |
経済的利益の額の6.6%+151万円8,000円 |
3億円を超える場合 |
経済的利益の額の4.4%+811万8,000円 |
※獲得額を経済的利益として計算
<名誉毀損罪・侮辱罪の刑事告訴に関する報酬金額の目安>
22万円~44万円
※捜査の開始、実際の処罰などが基準
日当
半日(往復2時間超4時間以内) |
3万3,000円以上5万5,000円以下 |
一日(往復4時間超) |
5万5,000円以上11万円以下 |
実費
- 郵送費
- 印刷費
- 公的書類の取得費
- 弁護士の交通費
- 裁判手続きの申立費用
- 訴訟費用など
名誉毀損について相談する弁護士を探すには「ベンナビIT」
インターネット上で名誉毀損の投稿を発見した場合、速やかに投稿の削除を求めるとともに、投稿者に対する損害賠償請求などを検討すべきです。
その際には弁護士に依頼するのが安心ですが、依頼先の弁護士に心当たりがない方もいらっしゃるかと思います。
名誉毀損について相談する弁護士を探す際には、「ベンナビIT」を活用するのが便利です。相談内容や地域に応じて、簡単に弁護士を検索できます。
無料相談を受け付けている弁護士も多数登録されており、電話やメールで直接の問い合わせが可能です。
複数の弁護士を比較することもスムーズにできるので、信頼できる弁護士を見極める際にも大いに役立ちます。
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