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退職金の未払いは請求できる?|具体的な手順や注意点を解説

弁護士監修記事
労働問題
2023年04月27日
2024年04月22日
退職金の未払いは請求できる?|具体的な手順や注意点を解説
この記事を監修した弁護士
下地 謙史弁護士 (日暮里中央法律会計事務所)
慶応義塾大学法学部より、慶應義塾大学法科大学院へ飛び級入学。司法試験に合格後、都内の法律事務所勤務を経て日暮里中央法律会計事務所を開業。(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)
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退職金は支払われることを前提で退職を決める方もいるでしょう。

しかし、予想していた退職金が払われない場合、定年まで務め上げた人や早期退職優遇制度を利用した人にとってはその後の人生設計に大きな影響が出てしまいます。

また、自己都合退社の場合にはそもそも退職金がもらえるのか不安になることでしょう。

本記事では、万が一、退職金の未払いトラブルに巻き込まれた場合にどのように会社に請求するか、具体的な手順や注意点について解説します。

退職金未払いの問題を抱える場合には、冷静に対処することで解決の糸口が見つかるかもしれません。

退職金が支払われるか不安な方、退職金未払いの問題を抱えている方は、必読の内容です。

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退職金制度の仕組みと支払い義務があるケース

退職金制度とは、労働者が会社との雇用関係を終了した際に支払われる金銭のことです。退職金は、長期にわたって働いた労働者への賃金としての目的や、退職後の生活費を補助する目的で支払われます。

また、意外と知られていないことですが、退職金制度がない場合、会社に退職金を支払う法的義務はありません。

退職金制度がある場合には、一定の条件を満たした労働者に対して支払われます。一般的に、退職金の支払額は、勤続年数や役職、給与額などに基づいて計算されます。

勤続年数が長いほど、退職金額が増えることが多くなります。 また、退職金の支給額は退職理由によっても異なる場合があります。

たとえば、リストラや退職勧奨などの会社都合の退職の場合は、退職金額が増額されることがあります。 しかし、自己都合退職の場合は満額支給が難しいことがあります。

以下では、退職金の支払い義務が生じるケースについて詳しく説明します。

会社に退職金を支払う義務自体はない

退職金制度は会社が労働者に対して設けるものであり、法律で会社に退職金を支払う義務が課せられているわけではありません。

ただし、労働者と会社間で合意がある場合や、就業規則などで退職金制度が明示されている場合は、会社に退職金を支払う義務が生じます。

就業規則に記載・退職金支払いが続いている場合は義務が生じる

就業規則や労働協定等で退職金制度が定められている場合、会社はその規定に従って退職金を支払わなければなりません。

また、退職金制度が明示されていなくても、会社が長年にわたって退職金を支払っている実態がある場合、慣行として退職金の支払義務が生じることがあります。

退職金制度があっても自己都合退職では満額支給が難しい

退職金制度がある会社でも、自己都合退職の場合には、労働者が退職金を満額受け取るのは難しい場合があります。

自己都合で退職されると、会社としては新しい人材を確保し教育をおこなう必要があるなど、マイナスな影響があるのが減額の理由とされています。

ほかの理由としては、自己都合退職の場合には、支給条件を満たさないケースが多いためです。

たとえば、勤続年数や業績によって退職金額が変動する場合や、自己都合退職の場合には一定の割合で減額されるなど、会社ごとに規則があります。

自己都合で退職をする際には、自社の退職金制度や就業規則をよく確認することが重要です。

未払い退職金・退職手当の時効

未払いの退職金や退職手当には、消滅時効があります。消滅時効を理解し、時効期間内に請求をおこなうことが、退職金未払い問題の解決に不可欠です。

退職金請求権の消滅時効期間は5年

未払い退職金の請求には、労働基準法第115条により5年という時効があります。

(時効) 第百十五条 
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
第百四十三条  ①〜② 略

③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。
引用元:労働基準法第115条及び143条| e-Gov 法令検索 

これにより、退職金請求権の消滅時効期間は5年と定められています。時効が成立すると、労働者は会社に対し退職金の請求ができなくなります。

未払いの退職金・退職手当は5年以内に請求を行う

労働者が退職金の請求をおこなうことができる期間は、退職金の未払いが発生した日から5年間です。つまり、労働者はこの期間内に退職金を請求しなければなりません。

期間を過ぎてしまうと、労働者は退職金を請求する権利が消滅してしまい、会社に退職金の支払いを求めることができなくなります。

そのため、退職する際には退職金が支払われる期限について、よく確認しておく必要があります。

労働審判や訴訟をすると時効を中断させられる

退職金の未払いに関する時効は、通常5年間です。しかし、退職金請求の労働審判や訴訟を起こすことで、時効を中断させることが可能です。

労働審判や訴訟の内容によっては、争いが長期化することもあり、その間に時効を迎えてしまわないための措置です。

これにより、退職金の未払いが発生した日から5年以上が過ぎた場合でも、時効による請求権の消滅する期間を延長できます。

残業代の消滅時効期間は3年

残業代の未払いに関しては、退職金とは異なり、消滅時効期間は3年です。つまり、労働者は残業代の未払いが発生した日から3年以内に請求を行わなければなりません。

この期間を過ぎると、請求権が消滅し、会社に対して残業代の支払いを求めることができなくなります。残業代の未払いがある場合は、より速やかな対応が必要です。

とくに、退職してからこれまでの残業代を請求しようと考えている方は、3年以上前の残業代の請求権が消滅していないか注意が必要になります。

退職金に関するよくあるトラブルの事例

退職金に関するトラブルは、さまざまな形で発生します。

しかし、退職前に、退職金の支払いに関する法律や会社の規則を調べ、問題がある場合は早めに行動を起こすことで回避し、早期決着が出来る場合もあります。

以下では、退職金に関するよくあるトラブルの事例をいくつか紹介します。

懲戒解雇をされてしまい退職金が支払われないケース

懲戒解雇の場合、会社は退職金の支払いを拒否することがあります。会社側が注意や指導を繰り返しても改善しなかった結果、懲戒解雇をした労働者に対して支払いを拒む例があります。

ただし、懲戒解雇が不当と判断された場合、労働者は退職金を請求することができます。

このようなケースでは、会社側と懲戒解雇をされた労働者側で意見が食い違うため、当事者間による和解が難しくなります。

そのため、懲戒解雇が不当であり、退職金が支払われない場合には、労働トラブルが得意な弁護士に相談をおすすめします。

早期退職優遇制度で割増退職金をもらうことができないケース

早期退職制度は、会社が労働者に対して、一定の条件下で早期に退職することを奨励する制度です。

割増退職金は、会社が人員削減や組織の再編などの目的で、労働者に自主的に退職を勧める際に用いられます。早期退職制度では、通常の退職金に加えて、割増の退職金が支払われることがあります。

早期退職制度を利用することで、本来の退職金よりも多い金額を受け取れるというのが主なメリットです。定年退職前に経済的な余裕が期待できます。

しかし、早期退職優遇制度で退職を希望したにもかかわらず、優遇を受けられないケースもあります。

その多くは、会社の規定する条件を満たしていないと会社が判断する場合がほとんどです。早期退職制度の内容や適用条件は複雑なことが多く、理解することが難しいことがあります。

そのため、早期退職を考えている場合には会社に意思表示をする前に、社内の窓口や弁護士に相談してみましょう。

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未払いの退職金を請求するための方法と順序

未払いの退職金を請求する際には、適切な方法と手順を踏むことが重要です。以下に、未払いの退職金を請求するための具体的な方法と順序を示します。

支給条件を満たす証拠を固める

退職金や退職手当を請求するためには、以下のような支払い条件を満たしていることを証明する必要があります。

  1. 使用者との間で労働契約を締結したこと
  2. 退職金を支払う旨の労働契約・合意があること
  3. 退職金の支給基準が定められていること
  4. 労働者が退職したこと
  5. 退職金の支給基準を満たしていること

これらを証明するものとして、労働契約書や雇用契約書、就業規則などがあげられます。

退職してから集めるには手間や時間がかかるため、万が一の未払いに備えて退職前に集めておくとよいでしょう。

内容証明郵便を通じて退職金の請求を行う

証拠が揃ったら、内容証明郵便を利用して退職金の請求を行います。内容証明を利用することで、会社に対して退職金の請求を行ったことが証明されます。

確実に請求した事実や、内容を具体的に残すことで、後々の交渉や訴訟に有利に働くことがあります。

労働局の紛争調整機関かADRを活用して解決を図る

もしも、退職金の請求が無視されてり、交渉が難航した場合には裁判で請求することができます。

しかし、裁判は解決までに時間がかかる可能性があり、また裁判を起こすにはさまざまなハードルがあります。

そこで、まずは労働局の紛争調整機関や、労働関係の民間の調停機関、通称「ADR」を利用して解決を試みることをおすすめします。

労働局の紛争調整機関は、労働者と会社間の紛争を解決するために設置された機関で、労働紛争調整委員会という専門の委員会が担当します。

そこでは、双方の合意に基づく解決を目指すあっせん手続が行われます。あっせん手続は双方の合意に基づく解決を提案するもので、強制力はありません。

ADRとは、国民生活センター紛争解決委員会が実施する、重要な消費者紛争の解決手段であり、「和解の仲介」と「仲裁」という2つの手続によって解決されます。

法律や契約取引の専門家が、会社とのトラブルをサポートしてくれます。

和解の仲介とは
紛争解決委員会が行う和解の仲介は、仲介委員が当事者間の交渉を仲介し、和解を成立させることによって紛争解決を図るものです。
引用元:和解の仲介とは|国民生活センター

仲裁とは
国民生活センター紛争解決委員会(以下「紛争解決委員会」といいます。)が行う仲裁は、仲裁委員が判断(仲裁判断)を行い、当事者がその仲裁判断に従うことで紛争解決を図るものです。
引用元:仲裁とは|国民生活センター

有利な条件を求めたい場合には退職金請求を弁護士に一任する

労働局の紛争調整機関やADRは、公正な立場で双方の和解をもって解決することを目的としています。そのため、労働者にとって有利な結果にならない場合もあります。

より有利な条件で退職金を受け取りたい場合は、弁護士に退職金請求を一任することも一つの方法です。

弁護士は専門的な知識を持っているため、依頼人の利益を優先した適切な交渉や手続を行ってくれます。

そのほかに、自身が直接会社と争わずに済むため精神的な負担が軽くなるなどのメリットもあります。

未払いの退職金は労働基準監督署に相談可能

労働基準監督署は、厚生労働省の出先機関として、全国に設置されています。

労働基準監督署は、労働基準関係法令の遵守を会社に求めるため、調査、指導、是正勧告を行い、場合によっては逮捕して送検する権限を有しています。

未払いの退職金は、労働者の権利を侵害する問題であるため、労働基準監督署に相談できる案件です。

違法性が認められれば会社に働きかけをしてくれる

ここで重要なことは、労働基準監督署が動けるのは会社側の違法性が認められた場合です。

就業規則の退職金規定等に支給条件が明示されており、明らかに賃金としての性質を有する退職金と認められた場合には、会社に対して指導や勧告を行い未払いの退職金を支払うように働きかけてくれます。

しかし、先述したとおり退職金は法律上の支払義務がありません。そのため、労働契約書や就業規則に退職金についての記載がない場合には、対応が難しくなります。

労働基準監督署のメール相談は労働基準監督署にメール相談は効果的?|相談方法について解説をご覧ください。

支払いまでに時間がかかる場合があるため注意

労働基準監督署に相談した場合でも、支払いがすぐに実現するとは限りません。未払いの事実確認や、会社の違法性を確認するための調査に時間がかかるためです。

さらに、退職金の未払いは労働者個人の労働問題にあたることもあり、時間をかけて調査をした結果、労働基準監督署では解決できない場合もあります。

未解決のまま時効を迎えることのないように注意しながら、適切な手続を進めることが大切です。

退職金トラブルは労働トラブルが得意な弁護士へ

退職金に関するトラブルは多岐にわたり、その解決方法もさまざまです。

退職金に関するトラブルが解決しない場合や、より専門的な知識が必要な場合には、労働トラブルを専門に扱う弁護士に相談することを検討しましょう。

弁護士は、適切なアドバイスや交渉を行い、未払いの退職金を回収するための支援を提供してくれます。退職金の未払いに対する請求には時効が存在します。

退職金未払い問題を早期解決するためにも、適切な手段と相談先を選びましょう。

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編集部
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