YouTube動画は肖像権侵害になる?5つの基準や訴えられるリスクを解説
近年、YouTubeの需要が拡大していることから、YouTubeデビューを考えている方もいるかもしれません。
しかし、実際に撮影許可をしていないのに勝手にYouTubeに顔を出してしまったら違法となるのか、訴えられる可能性はあるのかなど疑問が出てくるでしょう。
YouTube動画は拡散されやすく、多くのユーザーの目に触れる可能性が高いことから、始めるにあたって肖像権に関する知識は欠かせません。
本記事では、YouTube動画での公開は肖像権侵害になるかについて解説します。
また、肖像権に関する5つの基準や訴えられるリスクについても触れるのでぜひ参考にしてください。
YouTube動画への映り込みは肖像権侵害になる可能性がある
結論からいうと、YouTube動画へ人物が映り込んだ場合は肖像権侵害に該当する可能性があるため、映り込んだ人物が肖像権侵害を主張した場合、動画が削除されたり、投稿者への慰謝料請求といった問題が生じます。
ここからは、YouTuberが押さえておきたい肖像権に関する注意点について解説します。
そもそも肖像権とは?YouTuberが注意すべきポイント
肖像権とは、自己の意思に反して私生活上で容姿を無断で撮影されたり公開されたりしない権利です。
肖像権を直接規定する法律はないものの、憲法第13条の幸福追求権を根拠として認められています。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
そのため、特定の者の顔や容姿をその者の許可なく撮影したり公表したりすると、肖像権を侵害する不法行為とされ、慰謝料請求をはじめとする損害賠償請求の対象になります。
肖像権侵害は社会通念上受忍すべき限度を超えるか否かで判断され、誰かの写真を勝手に撮影して商業目的で使用できません。
そのため、YouTuberとして人物が映り込む撮影をする場合は十分に注意しましょう。
YouTube動画が肖像権侵害になる5つの基準
ここでは、YouTube動画が肖像権侵害になる具体的な5つの基準について解説します。
YouTube動画に他者が映っている場合、肖像権侵害になるかどうかを判断する基準として捉えておきましょう。
映っている人を特定できるかどうか
YouTube動画における肖像権の最も重要な基準は、映っている人を特定できるか否かです。
肖像権侵害は「人物の顔が特定できること」を成立要件としているため、動画内で個人が明確に特定できる場合は、その人物の肖像権が問われる可能性があります。
そのため、顔・服装・姿勢・身体の特徴・声・名前の記載など、特徴的な外見がはっきりと映されている場合は肖像権侵害のリスクが高まるのです。
しかし、動画に映り込んでいる人物の顔が判別できない場合は、直ちに肖像権の侵害になるわけではありません。
具体的には、屋外での撮影時に通行人の顔が映り込んだとしても誰かわからない、あるいは小さく映り込んでいる場合は肖像権侵害と判断される可能性は低いと考えられます。
映っている人がメインの動画かどうか
映っている人物が動画内容のメインになっているか否かも重要な基準です。
もし動画内に対象人物が映っていて顔が判別できる状態でも、動画内容のメインになっていなければ肖像権の侵害には該当しない場合があります
そのため、屋外での撮影時は通行人の顔にはっきりと焦点が当たっていても、動画の趣旨とまったく関係ない場合はただの通行人にすぎないと判断され肖像権侵害の可能性は低くなります。
肖像権侵害が認められるためには、対象人物が写真や動画のメインとなっており、かつ社会生活上受忍すべき限度を超えると評価できることが必要です。
公共の場所で撮影した動画かどうか
撮影場所の公共性もまた、肖像権侵害の判断において重要な要素となります。
たとえば、公園や昼間の駅前など公共の場所で撮影した動画内に映った場合、それによって周囲に存在を知られたとしても大きな悪影響はないと考えられるため、肖像権侵害の可能性は低くなります。
しかし、プライベートな環境や個人的な空間など、対象人物がその場所にいたと周囲に知られたくない状況下で撮影した場合は、侵害性が上がるため肖像権侵害が成立する可能性があります。
なお、肖像権はプライバシーの一種と理解されており、通常は他人に知られたくないことは公開されないように守られています。
動画が公開されているか
ほかにも、動画が公開されているかも基準のひとつになります。
他者が映った動画を撮影したとしても、その動画を公開しなければ原則として肖像権侵害にはあたりません。
しかし、YouTube動画はYouTube上だけでなく、TwitterやInstagramなどSNSで拡散される可能性が高いため、動画が公開されている場合は肖像権侵害と判断される可能性も否定できません。
対象者に許可を取っているか
撮影及び公開に対して重要なことは本人の同意です。
そのため、YouTubeに公開した動画に映っている人物から事前に撮影や公開の同意を得ているか否かが肖像権侵害の判断の重要な要素となります。
仮に対象者の同意がなく動画が撮影されたり公開されたりした場合は、肖像権侵害と判断される可能性は否めません。
YouTube動画を公開する際は撮影許可と公開許可の2つが必要です。
そのため、対象者が撮影は許可したがYouTubeで公開することは知らなかった場合、あとから肖像権侵害を主張される可能性があります。
その動画がどのような趣旨及び目的で使用されるのかを確認したうえで許可を取りましょう。
YouTubeで肖像権侵害にあたる可能性がある動画の一例
肖像権侵害の判断基準を基に、YouTube動画の肖像権侵害にあたる可能性がある動画の具体例を解説します。
YouTubeへの映り込みを理由として肖像権侵害になりやすいケースは次のとおりです。
- 対象人物の容姿が鮮明に映っている
- 映り込んだ人物が動画のメインになっている
- 動画が公開されたことで、対象人物の社会生活に悪影響が生じている
- 撮影場所が公共の場所ではなく室内である
- 撮影及び公開に対する同意がないまま動画が公開された
- 動画が商業的に使用されていない
- 個人の私生活が不当に公開されている
- 動画の公開が個人の名誉を傷つけた
- 顔を出さないでと伝えて撮影したのにもかかわらず顔が公開された
これらを十分に確認したうえで、動画を公開しましょう。
YouTubeで肖像権侵害になりにくい動画の例
一方で、YouTube動画内に他者が映っていても肖像権侵害になりにくい場合があります。
肖像権侵害とはなりづらい例は、次のとおりです。
- 多くの方がいる公共の場で撮影した動画の画面の端に偶然映り込んでいる
- 映像を見ても容姿が判明せず人物が特定できない
- 撮影者が対象者本人から撮影や公開許可を得ている
- 撮影されていることが予測できる場所で撮影されている
このような場合は、肖像権侵害となる可能性は低いです。
YouTubeで肖像権侵害をしてしまうとどうなる?
YouTubeで公開した動画が他者の肖像権侵害にあたった場合、どのようなリスクが考えられるでしょうか。
ここでは、肖像権侵害をしてしまった際に考えられる3つの事態について解説します。
動画の削除を請求される
YouTubeではプライバシーに関するポリシーやガイドラインが定めており、肖像権侵害にあたる動画は削除を請求されます。
対象者から投稿者にプロフィールや動画のコメントにて直接削除依頼がきた場合、速やかな対応が求められます。
また、対象者はYouTubeに対してプライバシー侵害の申立て手続きを行うことができるため、申立てが認められると動画は削除される可能性があります。
YouTubeは誰でも動画の違反報告ができるため、動画公開前に違反していないか確認する必要があります。
慰謝料を請求される
YouTuberが肖像権を侵害したことで対象者の社会生活に悪影響が及んでいる場合、慰謝料を請求される可能性があります。
対象者は発信者情報の開示請求をして動画投稿者を特定し、投稿者に対して慰謝料の請求を行うことがあります。
慰謝料請求の可否や金額は撮影の目的・模様・場所などから、侵害の程度が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかという視点から総合的に判断されます。
YouTuberとして活動する中で肖像権侵害による慰謝料を請求された場合、自身で対応せずに弁護士へ速やかに相談しましょう。
弁護士に相談することで動画が肖像権侵害にあたるのか、相手の希望どおりの慰謝料額を支払うべきなのかなどを判断してもらい、対応の見通しを立てることができます。
YouTubeのアカウントがBANされる可能性がある
YouTubeが定めるポリシーに反する行為を繰り返す、もしくはYouTubeチャンネルの動画に対する通報が多い場合はチャンネルやアカウントが停止となる(いわゆる「BANされる」)可能性があります。
アカウントが停止になると既存登録者がなくなるだけでなく、今までどおりの収益を得ることが難しく、再度チャンネルを作成しても元の水準まで戻すことは極めて困難です。
YouTubeの肖像権侵害で慰謝料請求が認められた事例
実際にあったYouTubeにおける肖像権侵害が認められた事例として、撮影や公開の同意に関する肖像権及びプライバシー権侵害にあたるものが挙げられます(令和5年3月30日知財高裁判決)。
この事件では被告がYouTubeに開設したチャンネルで、原告が警察官に逮捕された状況を撮影し公開しました。
しかし、この動画は原告の社会評価を低下させ肖像権及びプライバシー権を侵害するものであることから、原告は精神的苦痛を被ったと主張して損害賠償を請求しました。
裁判所は原告の本訴に対し、被告が公開した動画が原告の名誉毀損にあたり、肖像権及びプライバシー権を侵害するものであるとの判断から、原告に対する慰謝料は40万円が相当であると認定しました。
この事例は、撮影や公開の許可なく動画を公開したことが重要なポイントになっています。
判決の重要な要因としては、被写体の許可、撮影場所の公共性、被写体の顔が特定できるかなどが挙げられます。
YouTubeで肖像権侵害をしてしまったときの対処法
YouTube上に公開した動画が他者の肖像権侵害にあたり権利者から指摘された場合、どのような対処法が望ましいのでしょうか。
ここからは、YouTubeで肖像権侵害をしてしまった際の適切な対処法について解説します。
肖像権侵害にあたる場合は速やかに動画を非公開にする
肖像権侵害を指摘された動画は、速やかに非公開にしてください。
指摘を受けたにもかかわらず公開し続けていると、権利者が損害賠償請求や名誉毀損などの法的処置に出る可能性が高くなります。
また、指摘を無視しているとYouTubeチャンネルが炎上する、あるいはファンが離れていくなどのリスクも想定されます。
そのため、肖像権侵害をしていないなどの明確な根拠がない限りは、ただちに動画の公開を停止しましょう。
弁護士に対応を相談する
動画を非公開にしても権利者に法的処置を取られる可能性がある場合、弁護士に対応を相談してください。
動画を非公開にすることで権利者が納得し、それ以上の追及はしない可能性も考えられますが、仮に該当する動画を非公開にしても肖像権侵害の事実は消えず、権利者からの法的処置のリスクがなくなるわけではありません。
特に権利者に対する肖像権侵害の程度が高く、実害が出ている場合は動画を非公開にしてもなお、損害賠償を請求される可能性は高いと考えられます。
そのため、少しでも不安に思う部分がある場合は早期に弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談することで、どのような請求をされる可能性があるか把握でき、早い段階で適切な対応ができます。
なお、弁護士には動画の内容を確認してもらう必要があるため、相談するまでは削除せずに公開停止の状態にしておきましょう。
【被害者向け】肖像権侵害に当たる動画がYouTubeで公開されたときの対処法
仮に自分や家族の姿が無断でYouTubeに公開されて肖像権侵害の被害に遭ってしまった場合、どのような対処ができるのでしょうか。
ここからは、被害者向けの具体的な対処法について解説します。
まずは投稿者に対して削除を求める
まずは、動画投稿者に対して権利侵害を伝え、削除請求をしてください。
動画投稿者へ直接削除依頼をすることは、最も速やかで円滑な解決方法です。
投稿者のプロフィールや動画の概要欄にコンタクトが取れる連絡先が記載されている場合は、そこから削除を依頼しましょう。
仮に連絡先の記載がない場合は、動画にコメントしてください。
投稿者に連絡する際は攻撃的にならず、あくまでも冷静に対応しましょう。
また、YouTubeにログインしたあとは動画再生画面の下部からも削除請求ができるため、報告の項目から違反内容に最も近いものを選択してください。
もし自身のアカウントから違反報告をしても、投稿者は誰からの報告があったのかは開示されないため安心してください。
YouTube運営に削除依頼と、スパム報告をおこなう
投稿者との交渉がうまく進まない場合、YouTube運営に削除依頼とスパム報告をおこないましょう。
YouTube運営は肖像権侵害に関するポリシーを定め、それに応じた相談窓口を設置しているため、違反動画の報告機能を通じて肖像権侵害の申し立てができます。
YouTubeにログイン後、相談窓口のページを開いて画面のとおりに選択すると問い合わせは完了です。
運営側に削除依頼をする場合は、被害者自身の個人情報を提供して被害に遭っていることを証明する必要があります。
弁護士に対応を相談する
被害者自身が動くのではなく、弁護士に対応を相談することも手段のひとつです。
YouTubeや動画に関する権侵害問題に詳しい弁護士であれば、その動画が肖像権侵害にあたるのか、今後どのような対応を取るべきなのかなど、状況に応じた適切なアドバイスを受けることができます。
肖像権侵害の可否等については、肖像権に詳しい経験豊富な弁護士でなければ適切に進めることは困難です。
すみやかに弁護士へ相談し早急に解決することが、被害者自身や家族のプライバシーを守ることに繋がります。
さいごに
本記事では、YouTube動画は肖像権侵害になるかについて解説しました。
近年、YouTubeビジネスの人気の高まりにより投稿者は増加傾向にあります。
特に、外で撮影する場合は動画内容とは関係のない人物や通行人などが映るため、肖像権が侵害される場面は少なくありません。
肖像権はテレビや雑誌で活躍する著名人にしか認められていないと認識している方も一定数いますが、一般人にも認められている権利です。
YouTubeチャンネルを運営するうえで、撮影する側が肖像権について正確な知識を持っておくことは非常に重要となります。
肖像権は法的な問題で専門的な判断が求められるため、肖像権問題が生じる可能性がある動画は公開前に弁護士へ相談することをおすすめします。
一人で判断することは難しいですが、弁護士に相談することにより、その動画が肖像権侵害にあたるか、今後どういった対応をすべきか等の助言を受けることができます。
まずは、初回相談無料の法律事務所へ相談してみてください。