成年後見人の選任に必要な診断書とは?取得するまでの流れとコツを中心に解説


家族が認知症と診断された場合など、日常生活に支障が出ている状況では、成年後見人の選任を検討すべきです。
成年後見人の選任を進める過程では、「診断書」が必要になります。
もっとも、診断書をどのように取得すればよいのか、具体的な流れや注意点がわからず不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、成年後見制度における診断書の取得までのステップをわかりやすく解説します。
診断書の取得をスムーズに進めるためのポイントや注意点もあわせて紹介しているので、本記事を読めば手続きへの不安がなくなり、準備をきちんと進められるようになるでしょう。
成年後見人を選任するためには医師が作成した診断書の提出が必要!
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立てが必要です。
その際、本人の判断能力の程度を示す診断書の提出が求められます。
成年後見制度では、本人の意思や自己決定権をできる限り尊重するため、判断能力の程度に応じて次の3つの類型が設けられています。
- 後見:判断能力が著しく低下し、自分自身で財産を管理・処分することができない状態
- 保佐:判断能力が不十分であり、財産を管理・処分する際には常に支援や助言が必要な状態
- 補助:判断能力が一部低下しており、財産を管理・処分する際に支援が必要な場合がある状態
家庭裁判所は診断書などの資料をもとに、本人の判断能力の程度や財産管理における困難の度合いを確認し、3つの類型の中から本人にとって最も適切なものを選定します。
成年後見人を選任するのに必要な診断書の取得方法|もらい方のステップ
診断書を適切に取得するためには、以下のステップを踏む必要があります。
1.成年後見制度について医師と相談する
まずは、本人が診察を受けている主治医やかかりつけの医師に、成年後見制度について相談します。
この段階で、本人の健康状態や成年後見人の必要性について話し合い、診断書の作成が可能かどうかを確認しておくと、次のステップがスムーズに進みます。
2.本人の状態を確認するための診察を受ける
診断書を作成するにあたっては、先に診察を受ける必要があります。
診察では、認知症や精神障害、知的障害などがどの程度進行しているか、本人の判断能力がどの程度あるかなどを確認します。
診察は通常の健康診断と異なり、成年後見制度に必要な情報を重視した形でおこなわれます。
家族や関係者は本人の日常生活の状況について、情報提供を求められる場合もあります。
3.医師に成年後見制度用診断書を作成してもらう
診察が終わったら、医師に「成年後見制度用診断書」の作成を依頼します。
成年後見制度用診断書は、医師の立場から見た本人の状態を示す書類であり、家庭裁判所が成年後見人の必要性を判断する際の重要な証拠になるものです。
診断書には、以下のような内容が記載されます。
- 本人の病状や既往症
- 実施した検査項目
- 成年後見人の必要性に関する意見
必要な項目を漏れなく記載してもらうようにしましょう。
なお、成年後見制度用診断書の作成を依頼すると、一定の費用負担を求められます。
また、診断書の作成には長い場合に1ヵ月程度かかることもあるので、早めに依頼しておくことが重要です。
医師に成年後見制度用診断書の作成してもらうときの4つのポイント
診断書は、家庭裁判所が成年後見の類型を判断する際の重要な判断材料となるため、医師に正確な内容で作成してもらうことが大切です。
ここでは、診断書を作成してもらう際に注意すべき4つのポイントを解説します。
1.なるべくかかりつけ医に作成してもらう
成年後見制度の利用に必要な診断書は、日頃から本人の健康を管理しているかかりつけ医に依頼するのが理想です。
かかりつけ医であれば、すでに本人の病歴や健康状態を把握しているため、診察内容に基づいた正確で迅速な診断書作成が期待できるでしょう。
また、かかりつけ医に依頼した場合には既存の診療記録や所見を活用できるため、診察は一回程度で完了することがほとんどです。
なお、かかりつけ医以外の医師に依頼した場合、複数回の診察を経る必要があるため、診断書の作成まで1ヵ月ほど時間がかかる可能性があります。
手続きに要する時間を見越して、余裕を持って準備しましょう。
2.必要に応じて診断書作成の手引を渡す
診断書の作成を依頼する場合は、必要に応じて「診断書作成の手引」を渡すようにしてください。
「診断書作成の手引」には、診断書作成のポイントや記載方法が詳しく説明されているため、医師に正確な内容を記載してもらうための重要な資料になります。
「診断書作成の手引」のほか、「診断書のフォーマット」は家庭裁判所のホームページからダウンロードできます。
【参考】成年後見制度における診断書作成の手引・本人情報シート作成の手引|裁判所
3.事前に作成した本人情報シートを提出する
診断書の作成を医師に依頼する際は、事前に作成した「本人情報シート」を提出するようにしましょう。
本人情報シートとは、本人の日常及び社会生活に関する客観的な情報を医師や裁判所に共有するため、ソーシャルワーカーなどの福祉関係者が、本人の生活状況の情報をまとめたものです。
医師は、本人の日常生活における詳細な状況を十分に把握できているわけではありません。
そこで、2019年に「本人情報シート」が新設され、医師が意思能力の程度をより正確に診断するための補助資料として活用されるようになりました。
なお、「本人情報シート」を裁判所に提出できない場合でも申立ては可能ですが、診断書を作成する医師がより詳細な情報に基づいて診断をおこなうためには、本人情報シートがあることが望ましいとされています。
【参考】成年後見制度における診断書作成の手引・本人情報シート作成の手引|裁判所
4.弁護士に手続きを依頼する
診断書の作成を医師に依頼する際は、成年後見制度に詳しい弁護士に相談して、間に入ってもらうと、今後の裁判所とのやり取りがスムーズに進みます。
成年後見制度の診断書に関するよくある質問
ここでは、成年後見制度の診断書に関するよくある質問をまとめました。
似たような疑問を持っている方は、ぜひ参考にしてください。
診断書は成年後見人候補者が作成を依頼するのか?
診断書の作成依頼は、原則として申立人がおこないます。
ただし、診断書の作成を依頼できる人物について、特に決まりはありません。
本人や親族が医師に依頼することもできます。
診断書がないと後見開始の申立てはできないのか?
実務上、診断書の提出は必ずといっていいほど求められています。
申立てが適切かどうかを裁判所が確認するためです。
さいごに|成年後見制度の利用を検討しているなら弁護士に相談を!
成年後見制度を利用するためには、診断書の作成や家庭裁判所への申立てなど、多くの準備や知識が求められます。
特に診断書の作成を断られた場合や記載内容に疑問点がある場合には、専門知識を有する弁護士のサポートを受けることが重要です。
法的な知識のないまま手続きをおこない、誤ってしまった場合には大変な事態となりかねません。
成年後見人の選任に時間がかかってしまうと、結局、本人のためになりません。
弁護士に依頼すれば、必要書類の準備や裁判所への申立てを行ってもらうことができます。
成年後見人を速やかに選任して本人を保護するため、なるべく早く弁護士に相談・依頼しましょう。