遺留分侵害額請求に相手が応じない!困ったときの対処法とは?
遺言書に不平等な相続が記載されている場合、自身の遺留分について侵害額(減殺)請求をおこなうことがあります。
これは、兄弟姉妹以外の相続人に与えられた当然の権利ですが、たとえ遺留分侵害額(減殺)請求をおこなっても相手方が応じないケースは少なくありません。
この場合、応じない相手に対してどのように対処するのが効果的なのでしょうか。
今回は、遺留分侵害額(遺留分減殺)請求に相手方が応じないケースに焦点を当て、相手方が拒否する理由や自身が注意すべき時効、請求に応じない相手への対処法について、詳しく解説します。
遺留分をめぐるトラブルに悩んでいる方や、問題を早期解決させたい方は、ぜひ参考にしてください。
遺留分侵害額請求に応じないのは不可能
遺族に最低限保障されている相続権利のことを「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。
冒頭でも説明したとおり、「遺留分侵害額請求」とは遺留分の侵害を受けた人が行使できる手続きのことです(民法第1046条)。
遺留分侵害額請求ができるのは兄弟姉妹以外の相続人です。
この請求手続きは、遺言書で不平等な遺産分割を強いられた相続人に対する「救済措置」のようなものであり、請求された側は原則として拒否できません。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
ちなみに、遺留分の請求に関しては「遺留分減殺請求」と「遺留分侵害額請求」の2つの呼び名を聞くことがあります。
これらの手続きは、2019年の相続法改正によって名称と内容の一部が変更されたものであり、2019年7月1日以降に生じた相続には「遺留分侵害額請求」が適用されています。
遺留分侵害額請求に相手が応じない理由とは?
遺留分侵害額請求は法律で認められている手続きですが、これをおこなっても相手方が応じないのはなぜでしょうか。
ここからは、相手方が遺留分侵害額請求に応じない理由について、考えられることを見ていきます。
遺言書が絶対だと思っている
相手方が請求に応じない理由として「遺言書の内容が絶対だと思っている」ことが考えられます。
確かに、遺言書が正しく作成されている場合、遺産分割や相続人の廃除といったさまざまなケースで効力が働きます。
しかし、遺言書の効力よりも優先されるのが「遺留分」であり、たとえ遺言書であっても遺留分の侵害が見受けられた場合は、遺言書の内容よりも遺留分侵害額請求が認められるのです。
そのため「遺言書に記載されているから」という理由で遺留分侵害額請求に応じないのは、法的に認められません。
拒否し続けて時効経過を待っている
相手方が請求に応じない理由として「時効経過による請求権の消滅」を待っている場合もあります。
遺留分侵害額請求には時効があり、遺留分を侵害された人が期限までに請求権を行使しなければ、権利が消滅します。
しかし、この時効はあくまでも遺留分侵害額請求をしていない場合に適用されるものです。
自身が相手方に対してきちんとした流れで請求書を送付するなど、対処し終えているなら請求権の時効は中断されています。
たとえ相手方が時効を待っていても、その行為には意味がありません。
ただし、相手方に請求したあとは「金銭債権の時効」が関与してくるため、別の対処法を考える必要があります。詳しくは記事の後半で説明します。
遺留分侵害額請求の時効
遺留分侵害額請求には時効があり、請求権を行使する前後で注意すべき期間が変わってきます。遺留分にまつまわる時効について、侵害額請求する前後それぞれの期間や算定日を見ていきましょう。
請求前は「1年間」と「10年間」
遺留分侵害額請求をおこなう前の時効には、それぞれの起算日から「1年間」と「10年間」という2パターンの期限が設けてあります。
この時効は民法第1048条で定められており、期間内に遺留分の侵害額を相手方へ請求しなければ、その権利は消失します。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
請求権の有効期間がスタートする、時効までの起算日をチェックしておきましょう。
遺留分の侵害を把握した日から1年間
請求前におけるひとつめの時効は、遺言書によって自身の遺留分が侵害されていると知った日から1年間です。
したがって、遺言者が亡くなった数年後に遺言書が見つかった場合でも、その時点から1年間は遺留分侵害額請求が可能になります。
遺言者が亡くなった日から10年間
遺言者の死亡は、相続が開始することを意味します。遺留分侵害額請求は、相続開始日からの10年間「除斥(じょせき)期間」が設けられており、期間満了までの間は請求権が有効です。
この除斥期間は遺言者が亡くなるとスタートし、勝手に経過するものです。
知らない間に10年経ち、時効経過になるケースがあることを覚えておきましょう。
相続人が遺言者の死亡を知らなかったとしても、10年以内にその事実を知り、自身の遺留分が侵害されていることを把握すれば、遺留分侵害額請求を行使できます。
請求後は「5年間」
すでに相手方へ遺留分侵害額請求をおこなっている場合、2つの時効は中断しますが、新たに民法第166条に基づいた「金銭債権の時効」が発生するため注意が必要です。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
この時効は、2019年の相続法改正で遺産返還が金銭請求に一本化されたことに付随した時効であり、5年以内に相手方と金銭交渉を進めなければいけません。
遺留分の時効について詳しくは遺留分の時効はいつまで?時効が迫っているときの対処法を解説をご覧ください。
遺留分侵害額請求に相手が応じないときの手続き
相手方へ遺留分侵害額の請求をおこなっても、一向に話し合う状況にならない場合はどうしたらよいのでしょうか。
ここからは、相手方が請求に応じない場合の対処法について説明します。
遺留分侵害額請求の方法を見直す
相手方が請求に応じない場合、自身がおこなった遺留分侵害額請求の方法を見直す必要があるかもしれません。
侵害額請求には決まったルールがなく、電話やメール、口頭で伝えるだけで効力が生じるものの、簡単な意思表示のみでは相手方の納得が得られにくい側面があります。
相手方に遺留分侵害額請求の意思を明確に伝えるためには、請求通知書を「内容証明郵便」で送るのがおすすめです。
その際、作成する通知書には以下の事項を記載しておきましょう。
- 遺留分侵害額の請求権を行使する旨
- 遺言者の情報
- 相続開始日
- 相手方の氏名
- 自身の氏名
内容証明郵便を利用すれば、いつ、誰に、どのような書類を送付したのかを証明できるようになります。
たとえ相手方が「そんな書類届いていない」と言い張っても、請求書を送付したことの証拠を示せるため、相手方が応じざるを得ない状況を作ることが可能です。
もし、相手方が遺産について話し合う姿勢を見せてくれたら、まずは双方合意を目指した協議をおこないましょう。
相手方から多少の譲歩を求められるケースもありますが、早期解決に向けて前向きに話し合うことが大切です。
当事者同士の話し合いでは解決が難航しそうなときは弁護士などにサポートを依頼しましょう。
第三者としての客観的な視点や、法律的な観点から意見を聞けるため、お互いに納得しやすくなります。
相手が応じないなら調停を申し立てる
相手方へ適切な内容の請求書を送っても話し合いに至らず、たとえ話し合っても折り合いがつかなかった場合は、調停での解決を試みることになります。
調停とは、最寄りの家庭裁判所において、調停委員を交えておこなう話し合いです。
調停委員は法的な観点からの説明や、話がまとまるように協議をサポートしてくれます。
調停員からの言葉に強制力はないものの、遺留分の侵害額や相手方に課せられる支払い額について、詳細まで話を詰めてくれるでしょう。
調停の必要書類
遺留分侵害額の請求調停を申し立てるには、以下の書類が必要です。
- 申立書・その写し
- 遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子および代襲者で死亡者がいる場合、その人物の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する各種証明書(不動産登記事項証明書や預貯金通帳の写しなど)
- 相続人が父母でどちらか一方が死亡している場合、死亡記載のある戸籍謄本
場合によっては、ほかの証拠書類が求められる可能性もあります。
万が一、申し立て前に入手困難なものがあれば、後日追加する旨を裁判所へ伝えておきましょう。
【参考】遺留分侵害額の請求調停|裁判所
調停にかかる費用
遺留分侵害額の請求調停を申し立てる際、以下の費用が求められます。
- 1,200円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(裁判所により金額が異なる)
調停開催にかかる費用は、そこまで高額ではありません。
もし、弁護士を立てる場合は別途弁護士費用を考える必要がありますが、トラブルの早期解決と自身が優位になるよう働きかけてくれるため、依頼するメリットは十分感じられるはずです。
【参考】遺留分侵害額の請求調停|裁判所
調停で解決しないなら訴訟を起こす
遺留分侵害額の請求調停を経ても問題解決に至らない場合、最終手段として訴訟を起こし、裁判で遺留分侵害額請求の認否を争います。
ここまでくると、解決までの長期化は免れません。
訴訟を起こす裁判所は請求金額によって異なるため、以下を参考にしてください。
- 140万円以上・・・地方裁判所
- 140万円未満・・・簡易裁判所
また、争う金額が大きくなるほど、かかる印紙代や弁護士費用も高額になります。
訴訟となると費用面だけでなく精神的負担まで大きくなることが予想されます。
そのようにならないためにも、訴訟以前のタイミングで解決できるよう、進めていくことをおすすめします。
早い段階で弁護士に依頼すれば費用もおさえられますし、問題の長期化も防げます。
相手がなかなか遺留分の請求に応じてくれない場合は、早い段階での弁護士への依頼も検討してください。
相手が遺留分侵害額請求に応じないなら弁護士へ相談を!
遺産の返還請求に相手方が応じないケースは少なくありません。
また、遺産分割は相続人が多いほど複雑になり、トラブルに発展しやすいものです。
自身に遺留分の侵害が生じれば、すぐさま相手方へ請求して取り戻したいはずです。
請求前後の時効が迫っているなら緊急性を要します。
しかし、相続問題は専門知識が必要なため、個人の判断で動くと不利になる可能性があるのも事実です。
今、遺留分をめぐるトラブルで悩んでいるのであれば、すぐに相続問題を得意とする弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ相談すれば、遺留分の請求が可能か、今後の見通しを教えてもらえるでしょう。
また、早い段階で弁護士に依頼すればあなたが有利になるようサポートしてくれ、納得のいく遺留分回収を見込める可能性も高まります。
「相手が遺留分侵害額(遺留分減殺)請求に応じてくれない」と悩む前に、弁護士へ相談して解決させましょう。
弁護士へ相談する場合は相続を弁護士に無料電話相談する方法|弁護士の選び方や費用の相場も解説をご覧ください。