精神的苦痛で離婚慰謝料は請求できる?条件・相場・証拠がない場合の対処法
モラハラや暴言などによって精神的苦痛を受けた場合、状況によっては離婚慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料の金額はケースによって異なりますが、50万円~300万円程度がひとつの目安です。
「これくらいで慰謝料を請求してもよいのだろうか」と考え、長い間我慢してきた方もいるかもしれません。
しかし、配偶者の暴言や無視などによって精神的な苦痛を受け、それが法律上の不法行為にあたる場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
そこで本記事では、精神的苦痛を理由に離婚慰謝料を請求できる条件や相場、有効な証拠についてわかりやすく解説します。
証拠が十分にない場合の対処法や、離婚後に慰謝料を請求する際の注意点も紹介するので、参考にしてください。
離婚原因によっては精神的苦痛による慰謝料請求が可能
配偶者の行為によって精神的苦痛を受けた場合、法律上の要件を満たしていれば慰謝料を請求できます。
離婚慰謝料は、民法709条・710条に定められた「不法行為に基づく損害賠償」のひとつです。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。引用元:民法|e-Gov法令検索
賠償の対象になるのは、治療費などの財産的な損害だけではありません。
精神的な苦痛についても、損害として慰謝料を請求できます。
ただし、不法行為が成立するためには、次のような要件を満たす必要があります。
| 成立要件 | 内容 |
| 故意または過失 | 相手が故意または不注意によって行為に及んだこと |
| 権利・利益の侵害 | 法律上保護される権利や利益を侵害したこと |
| 損害の発生 | 精神的苦痛などの損害が生じていること |
| 因果関係 | 相手の行為によって損害が生じたといえること |
精神的苦痛で離婚慰謝料を請求できる主な3つのケース
離婚にともなう慰謝料が認められるためには、相手の行為が不法行為にあたる必要があります。
たとえば、不貞行為、DV・モラハラ、悪意の遺棄などが代表的です。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1.不貞行為(浮気)による深刻な精神的苦痛を受けた
配偶者の不貞行為によって精神的苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
法律上の「不貞行為」とは、一般的に、配偶者以外の人と自由な意思に基づいて性的関係をもつことを指します。
そのため、ふたりきりで食事をした、頻繁に連絡を取っていたといった事情だけでは、直ちに不貞行為と認められるわけではありません。
また、慰謝料請求では、不貞行為によって夫婦関係が侵害されたかどうかも重要です。
不貞行為が始まる前からすでに婚姻関係が破綻していた場合には、慰謝料が認められないことがあります。
2.DVやモラハラなどの行為があった
身体的な暴力だけでなく、深刻な暴言や人格否定などによる精神的な被害についても、慰謝料が認められる場合があります。
殴る、蹴る、物を投げつけるといったDVは、身体や精神に重大な苦痛を与える行為です。
また、モラハラについても、人格を否定する暴言や、長期間にわたる無視、過度な行動・交友関係の制限などが繰り返されている場合、不法行為にあたる可能性があります。
3.生活費を渡さないなどの行為があった
正当な理由なく夫婦としての義務を果たさない「悪意の遺棄」があった場合も、慰謝料を請求できる可能性があります。
夫婦には、同居・協力・扶助の義務があります。
これらの義務を正当な理由なく履行しない行為は「悪意の遺棄」にあたり、民法770条1項2号の法定離婚事由にもなります。
たとえば、十分な収入があるにもかかわらず生活費を渡さない、正当な理由なく家を出て同居を拒み続けるといったケースです。
一方、単身赴任や療養、DVから避難するための別居など、正当な理由がある場合には、通常は悪意の遺棄にはあたりません。
精神的苦痛による離婚慰謝料を請求できない主な2つのケース
離婚によって精神的な苦痛を受けたとしても、必ず慰謝料を請求できるわけではありません。
慰謝料は、相手の不法行為によって受けた精神的損害を賠償してもらうものです。
そのため、相手に法的な責任が認められない場合には、原則として慰謝料は発生しません。
ここでは、慰謝料が認められにくい代表的なケースを解説します。
1.単なる性格の不一致による離婚の場合
単に「性格が合わない」「価値観が違う」という理由だけで離婚する場合、原則として慰謝料は請求できません。
性格や価値観の違いは、どちらか一方の違法な行為によって生じたものとは限らず、不法行為に基づく損害賠償を求める根拠がないためです。
ただし、離婚のきっかけが性格の不一致であっても、その後に暴言や長期間の無視、生活費の不払いなどが続いていた場合は別です。
具体的な行為がモラハラや悪意の遺棄などにあたる場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
なお、慰謝料を請求できるかどうかと、離婚できるかどうかは別の問題です。
性格の不一致であっても、夫婦双方が合意すれば協議離婚は可能です。
2.離婚原因が相手の病気や健康上の問題の場合
配偶者の病気や健康上の問題そのものを理由として、慰謝料を請求することは原則としてできません。
病気になったこと自体が、通常は故意や過失による不法行為とはいえないためです。
ただし、病気の有無とは別に、配偶者から暴力や深刻な暴言などを受けていた場合には、その行為について慰謝料が認められる可能性があります。
また、病気を抱える配偶者との離婚が裁判で認められるかどうかは、病状や婚姻生活の状況、離婚後の療養環境など、さまざまな事情から判断されます。
判断が難しいケースでは、弁護士などの専門家に相談して見通しを確認するとよいでしょう。
精神的苦痛による離婚慰謝料の相場
精神的苦痛を理由とする離婚慰謝料は、50万円~300万円程度がひとつの目安です。
原因別のおおまかな目安は、次のとおりです。
| 離婚原因 | 慰謝料の目安 |
| 不貞行為 | 100万円~300万円程度 |
| DV | 50万円~300万円程度 |
| モラハラ・言葉の暴力 | 50万円~300万円程度 |
| 悪意の遺棄 | 50万円~300万円程度 |
ただし、離婚慰謝料には一律の相場があるわけではありません。
実際の金額は、離婚原因や行為の悪質性、被害の程度、継続期間、婚姻期間など、個別の事情によって大きく変わります。
以下では、それぞれのケースにおける慰謝料相場について、詳しく見ていきましょう。
不貞行為やDVが原因の場合の相場|50万円~300万円
不貞行為やDVが原因の場合、慰謝料は50万円~300万円程度がひとつの目安です。
不貞行為については、100万円~300万円程度とされることもあります。
ただし、実際の金額は、不貞行為や暴力の期間・頻度・程度などによって異なります。
たとえば、次のような事情がある場合には、慰謝料が高くなる可能性があります。
- DVによってけがを負い、通院や入院が必要になった
- 精神疾患を発症し、継続的な治療が必要になった
- 不貞関係が長期間にわたって続いていた
- 不貞相手との間に子どもができた
- 婚姻期間が長い
一方、不貞行為が始まった時点ですでに婚姻関係が破綻していた場合には、慰謝料が認められないこともあります。
【関連記事】DVで離婚する場合の慰謝料はいくら?相場・請求方法・増額のポイントを解説
モラハラや言葉の暴力が原因の場合|50万円~300万円
モラハラや言葉の暴力が原因の場合も、慰謝料は50万円~300万円程度が目安とされています。
ただし、モラハラは身体的な暴力と比べて被害が目に見えにくいため、行為の内容や継続性をどの程度証明できるかが重要になります。
慰謝料の金額を左右する事情としては、次のようなものがあります。
| 判断要素 | 金額が高くなる可能性があるケース |
| 暴言の頻度 | 日常的に繰り返されていた |
| 内容の悪質性 | 人格否定や親族への侮辱などが含まれていた |
| 継続期間 | 長期間にわたって続いていた |
| 精神的な被害 | 精神疾患を発症し、通院している |
| 子どもへの影響 | 子どもの前でも暴言などが繰り返されていた |
モラハラを理由に慰謝料を請求する場合は、いつ、どのような言動があったのかを録音や日記、LINEなどで具体的に残しておくことが大切です。
【関連記事】モラハラの慰謝料相場は?証拠の必要性や実際に慰謝料を獲得した事例も解説
生活費を渡さないなど悪意の遺棄が原因の場合|50万円~300万円
悪意の遺棄が原因の場合も、慰謝料は50万円~300万円程度がひとつの目安です。
金額を判断する際には、生活費が支払われなかった期間や、その結果どの程度生活に支障が生じたかなどが考慮されます。
たとえば、次のような事情があれば、被害の程度を説明する材料になります。
- 貯金を切り崩して生活していた
- 家賃や光熱費を滞納した
- 借入れをして生活費に充てていた
家計簿や通帳、滞納通知などが残っている場合は、生活への影響を示す資料として保管しておきましょう。
なお、未払いの生活費については、慰謝料とは別に婚姻費用として請求できる可能性があります。
【関連記事】悪意の遺棄は慰謝料請求できる|正当な理由や金額相場、裁判例も解説
離婚後に慰謝料を請求する際に知っておくべきこと
離婚が成立したあとでも、条件を満たしていれば元配偶者に慰謝料を請求できる場合があります。
とくに確認しておきたいのが、①時効、②離婚時の取り決め、③証拠の3点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.離婚後でも時効前であれば慰謝料の請求は可能
離婚時に慰謝料について取り決めなかった場合でも、時効が完成していなければ、離婚後に請求できる可能性があります。
ただし、慰謝料請求権には時効があるため注意が必要です。
| 請求の種類 | 時効の起算点の目安 | 期間 |
| 離婚そのものによる慰謝料 | 離婚が成立した日 | 原則3年 |
| 不貞行為など個別の不法行為に対する慰謝料 | 損害および加害者を知った時 | 原則3年 |
なお、不法行為による損害賠償請求権は、不法行為の時から20年が経過した場合にも時効となります。
また、人の生命や身体を害する不法行為については、損害および加害者を知った時から5年とする特則があります。
時効の起算点は個別の事情によって判断が難しいこともあるため、離婚から時間が経っている場合や時効が迫っている可能性がある場合は、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
2.離婚時に清算条項付きの合意書を交わしていると請求できない場合がある
離婚協議書や公正証書に「清算条項」が入っている場合、原則として離婚後に追加の金銭請求をすることが難しくなります。
清算条項とは、離婚に関する金銭問題について、合意書に記載したもの以外には債権債務がないことを確認する条項です。
たとえば、次のような内容です。
| 清算条項の記載例 |
| 甲と乙は、本件離婚に関し、本合意書に定めるもののほか、当事者間に何ら債権債務が存在しないことを相互に確認する。 |
ただし、合意した時点では知り得なかった不貞行為が離婚後に発覚した場合など、事情によっては請求の余地が残るケースもあります。
清算条項がある場合は、条項の文言や慰謝料請求の対象となる事実を確認したうえで、弁護士へ相談することをおすすめします。
3.離婚後は証拠を集めにくくなるため早めに動く
離婚後は、同居中と比べて証拠を集めることが難しくなります。
別居や離婚によって相手と生活を分けると、日常的な暴言の録音や生活費の支払い状況など、新たな証拠を確保しにくくなるためです。
離婚前に確保しておきたい証拠としては、次のようなものがあります。
| 証拠 | 確保の方法 |
| 医療機関の診断書・診療記録 | 自分で保管できるよう準備しておく |
| 暴言の録音データ | バックアップを取っておく |
| LINE・メール | スクリーンショットなどで保存する |
| けがの写真 | 元データを消さずに保管する |
| 家計簿・通帳の記録 | 必要な部分をコピー・保存しておく |
ただし、証拠を集める際には方法にも注意が必要です。
相手のアカウントに無断でログインするなど、違法行為にあたる可能性のある方法は避けましょう。
基本的には、自分が受け取ったLINEやメール、自分で録音・撮影したデータ、自分自身の診療記録など、適法に取得できる資料を中心に集めることが大切です。
精神的苦痛による離婚や慰謝料請求に関するよくある質問
精神的苦痛による離婚や慰謝料請求について、よくある疑問を紹介します。
証拠がない状態でも慰謝料の請求ができますか?
証拠がなくても、慰謝料を請求すること自体は可能です。
相手が事実関係を認め、話し合いによって慰謝料の支払いに合意すれば、必ずしも裁判で通用する証拠が必要になるわけではありません。
一方、相手が行為を否定し、調停や裁判で争うことになった場合には、客観的な証拠が重要になります。
現在十分な証拠がない場合でも、今後の出来事について次のような記録を残しておくことはできます。
| 今日からできること | ポイント |
| 日記・メモをつける | 日時・場所・具体的な言動などを記録する |
| 暴言などを録音する | 日付や状況がわかる形で保存する |
| 必要に応じて医療機関を受診する | 症状や受診経過を記録として残す |
| 家計の記録を残す | 生活費の支払い状況を通帳などで確認できるようにする |
自分では証拠にならないと思っている資料でも、ほかの資料と組み合わせることで役立つ場合があります。
手元にどのような証拠があるのか、一度整理したうえで弁護士へ相談してみるとよいでしょう。
【関連記事】離婚の慰謝料請求に必要な証拠とは?集め方や注意点を徹底解説
義両親からの精神的苦痛に対して慰謝料は請求できますか?
義両親からの嫌がらせや暴言などが社会通念上許容される範囲を超え、不法行為にあたる場合には、義両親本人に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
- 人格を否定するような発言を繰り返された
- 過度な干渉や暴言などが継続していた
- 生活の基盤を脅かすような嫌がらせを受けた
一方、単に「価値観が合わない」「関係が悪い」といった事情だけでは、通常は慰謝料請求の根拠にはなりません。
義両親の言動について慰謝料を請求する場合も、録音やメール、LINEなど、具体的な行為を裏づける証拠を残しておくことが重要です。
慰謝料を一括で払ってもらえない場合はどうすればよいですか?
相手が慰謝料を一括で支払うことが難しい場合は、分割払いで合意する方法があります。
ただし、分割払いには途中で支払いが止まるリスクがあります。
そのため、支払金額や支払日などを明確にしたうえで、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておく方法があります。
また、請求額が60万円以下であれば、少額訴訟を利用できる場合もあります。
どの方法が適しているかは、相手の収入や財産、支払い能力などによって変わるため、回収まで見据えて検討することが大切です。
慰謝料と財産分与・養育費はそれぞれ別に請求できますか?
慰謝料・財産分与・養育費は、それぞれ目的や法的な性質が異なるため、別々に請求できます。
| 項目 | 性質 | 主な期限 |
| 慰謝料 | 精神的損害に対する賠償 | 離婚慰謝料は離婚成立から原則3年 |
| 財産分与 | 婚姻中に形成した財産などの清算 | 離婚成立から原則5年(2026年3月31日以前に離婚した場合は原則2年) |
| 養育費 | 子どもの監護・養育に必要な費用 | 個別の支払義務や時効を確認する必要がある |
財産分与については、2026年4月1日に施行された改正民法により、請求期間が離婚後2年から5年に延長されています。
ただし、改正前に離婚したケースについては改正前の事項が適用されるため、適用関係に注意が必要です。
また、財産分与のなかに慰謝料的な要素を含めて金額を取り決めるケースもあります。
慰謝料・財産分与・養育費をどのような形で取り決めるかによって、その後の手続きにも影響するため、離婚条件をまとめて決める場合は弁護士などに相談すると安心です。
まとめ
配偶者の不貞行為やDV・モラハラ、悪意の遺棄などによって精神的苦痛を受けた場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
離婚慰謝料には一律の金額が決められているわけではありませんが、50万円~300万円程度がひとつの目安です。
実際の金額は、行為の内容や悪質性、継続期間、婚姻期間、被害の程度などによって変わります。
また、慰謝料を請求するうえでは、相手の行為を裏づける証拠が重要です。
録音やLINE、写真、日記、診断書・診療記録など、手元にある資料はできるだけ残しておきましょう。
離婚後であっても、時効が完成しておらず、離婚時の合意内容などに問題がなければ、慰謝料を請求できる場合があります。
「自分の場合は慰謝料を請求できるのか」「今ある証拠で足りるのかわからない」という場合は、早めに離婚問題を扱う弁護士へ相談し、今後の進め方を確認してみてください。
