有責配偶者とは|慰謝料請求の条件や離婚条件の決め方を解説
不倫(不貞行為)や一方的かつ強度のDVなど、離婚の原因を作った配偶者のことを有責配偶者といいます。
有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。
それどころか、離婚原因が民法上の不法行為に該当する場合は、もう一方の配偶者(被害者)に対して慰謝料の支払い義務を負います。
この記事では、有責配偶者となるケースや、有責配偶者に対する慰謝料請求のポイント、有責配偶者との離婚条件の決め方などについて解説します。
配偶者に不倫された、日常的にDV被害に遭っているなどの事情があり、有責配偶者との離婚を考えている方は参考にしてください。
有責配偶者とは「離婚原因を作った配偶者」のこと
有責配偶者とは、もう一方の配偶者を傷つけ、婚姻関係を継続できない理由を作った配偶者を指します。
判例・裁判例により多少表現は異なりますが、「その破綻につきもっぱらまたは主として原因を与えた当事者」などと定義されています(最高裁判所昭和40年2月23日判決)。
ここでは、有責配偶者の種類や時効などについて解説します。
有責配偶者となるケース
通常、裁判上の離婚事由(法定離婚事由)に該当する事情を自ら作り出した配偶者が有責配偶者となりえます。
なお、民法第770条に規定されている法定離婚事由は、以下のとおりです。
まずはこれらに沿って、有責配偶者に該当するケースについてそれぞれ確認しましょう。
【裁判上の離婚事由(法定離婚事由)】
- 配偶者に不貞行為があったとき
- 配偶者による悪意遺棄があったとき
- 配偶者の生死が3年以上不明なとき
- そのほか、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
不貞行為がおこなわれた
不貞行為とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つ行為を指します。
最高裁判所によると、「不貞行為とは、配偶者を持つ人が自由な意思に基づいて、配偶者以外の人と性的関係を結ぶことをいう」としています(昭和48年11月15日判決)。
肉体関係がない場合は不貞行為にはならないため、原則として有責配偶者にもなりません。
悪意の遺棄があった
悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦の義務を履行しない行為を指します。
民法第752条には「夫婦は同居し、お互いに協力し扶助しなければならない」と規定されており、正当な理由がないのに、介護等をしなければ生きていけない配偶者をあえて捨ておいて別居状態を続けている、しかも生活費を払わないなどまったく面倒を見ないなどに該当する場合は、有責配偶者になりえます。
生死不明の状態が3年以上である
配偶者が3年以上消息不明の場合は、それ自体が離婚事由となります。
なお、一般的には、3年以上の消息不明を理由とする離婚請求は少ないといいます。
捜索願を出した際に受け取った行方不明者届受理証明書や、親族や勤務先からの行方不明である旨の陳述書などがあり、生死不明の状態が3年以上続いている場合は請求が認められる可能性があります。
故意に行方をくらませていたところ、突然帰ってきて離婚を求めてきたような場合には、有責配偶者に当たるかもしれません。
回復の見込みがない強度精神病にかかっている
一方の配偶者が重度の精神病にかかり、回復の見込みがなく、夫婦で共同生活を続けるのが難しい場合は、離婚事由として扱われます。
しかし、夫婦には相互協力義務があるため、配偶者に重度精神病があるからといって裁判所がただちに離婚を認めるわけではありません。
精神病を患った配偶者が療養を続けられるか、実家からのサポートを得られるかなど、今後、問題なく生活できるかなどの対応が必要になります(最高裁判所昭和36年4月25日判決)。
もちろんですが、この点をもって有責配偶者であるという評価を得ることも難しいでしょう。
婚姻関係の継続が難しい重大な事由がある
そのほか、婚姻関係の継続が難しい重大な事由をあえて作り出したような場合は、有責配偶者となります。
婚姻関係の継続が難しい事由には、以下のようなものがあります。
- DV(暴力、モラハラ)
- 犯罪のよる服役、薬物依存
- 異常といえる性的嗜好
- 浪費癖、金銭問題 など
配偶者の不貞行為、悪意の遺棄、生死不明、強度の精神病などの事情がない場合でも、このような婚姻関係を継続するのが難しい事実がある場合は離婚原因となりえます。
ただし、離婚請求を認めるかどうかは、夫婦関係がすでに破綻しているかどうか、これらの行為が離婚を認めてもやむを得ないものかどうかなどを総合的に判断して決定されます。
有責配偶者の扱いに時効はない
法律上、有責配偶者に関する時効の規定はありません。
そのため、過去に法定離婚事由に該当する行為をされていたら、それを理由に離婚を請求することが考えられます。
しかし、時効の規定はありませんが、数年前の不倫やDVなどを原因とする離婚請求は認められない可能性が高いです。
不倫やDVがあったとしても数年間は夫婦として過ごしている以上、夫婦関係が破綻しているとはいえないことが関係しています。
有責配偶者だといえるような事情があっても、その後数年間ほど同居生活を続けたなら、その有責性は許されたという扱いになりえるのです。
有責配偶者との離婚を検討しているなら、早めに手続きを進めるほうがよいでしょう。
せめて相手の有責性を理由として別居を開始しておけると、許したという評価を免れやすくなります。
夫婦双方に非がある場合は責任の割合によって扱いが変わる
夫婦の一方に離婚原因の責任がある場合は、その人が有責配偶者になります。
しかし、中には夫婦双方に非があるケース(双方有責)も存在します。
双方有責の場合に、どちらが有責配偶者になるのかはそれぞれの責任の割合によって変わります。
そこで、いずれか一方の責任が重い場合と、双方の責任が同程度の場合の扱いを確認しましょう。
自分や配偶者のいずれかの責任が重い場合
自分と配偶者の責任の重さに大きな差が明らかにある場合は、責任が重いほうが有責配偶者として扱われます。
この場合の離婚手続きは有責配偶者とそうでない配偶者の場合と同じになります。
責任が軽い配偶者から慰謝料請求や離婚請求などはできますが、責任が重い配偶者からは原則として離婚請求をすることはできません。
自分と配偶者の責任の重さが同程度の場合
自分と配偶者の責任の重さが同程度の場合は、それぞれの責任が相殺されます。
このため、離婚手続きは有責配偶者ではない者同士の場合と同じになります。
それぞれ離婚請求や慰謝料請求をするのは困難ですが、それでも別居が長期に及ぶなどして婚姻関係が破綻しているなどの事情がある場合は離婚請求できる可能性があります。
有責配偶者による離婚請求は原則認められない
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。
ただ、事情によっては離婚が認められるケースはあります。
ここでは、有責配偶者による離婚請求が認められる可能性があるケースを紹介します。
協議や調停などでの離婚請求はできる
有責配偶者でも、協議(話し合い)や調停で離婚を請求すること自体は可能です。
そもそも離婚は、夫婦双方が合意したら成立します。有責配偶者から離婚の話をして、相手が合意した場合は離婚することが可能です。
また、有責配偶者でも離婚調停の申し立てはできるので、話し合いがまとまらなければ調停へ移行するのもひとつの方法です。
裁判でも例外的に離婚請求が認められることがある
裁判離婚でも、有責配偶者からの離婚請求が例外的に認められるケースがあります。
実際、最高裁判所も「有責配偶者からの請求であるとの理由をもって許されないとすることはできない」とし、一定の要件を全て満たしている場合は離婚請求ができるとしています(最高裁判所昭和62年9月2日判決)。
この場合の要件とは以下の3点です。
- 別居状態が長期間続いていること
- 未成熟の子どもがいないこと
- 正義に反するというべき特段の事情がないこと
別居状態が長期間続いていること
別居が長期間続いていることが1つ目の要件です。
期間に関する具体的な定めはありませんが、最高裁判所は「夫婦のその年齢および同居期間と対比して長期間別居している」ことを要件としています。
一般的には10年以上の別居期間が必要とされていますが、別居期間が6年で認められた裁判例もあります(東京高判平成14年6月26日)。
未成熟の子どもがいないこと
未成熟の子どもがいないことが2つ目の要件です。
未成熟とは子どもの単純な年齢ではなく、一般的には経済的な独立ができるかどうかで判断されます。
たとえば、身体に障害がある大学卒業生は未成熟に該当するとした裁判例もありますし、経済的に自立すれば18歳でも未成熟に該当しないことになりえます。
正義に反するというべき特段の事情がないこと
離婚請求を認めることが正義に反するというべき特段の事情がないことが3つ目の要件です。
最高裁判所はこのような特段の事情の一例として「離婚によって配偶者が精神的、社会的、経済的にきわめて過酷な状態におかれる」ことを挙げています。
有責配偶者の収入のみで生活をしていた、配偶者や子どもが病気を抱えているなどの事情がある場合は、特段の事情に該当する可能性があります。
ただし、有責配偶者による十分な経済的支援などがあれば、離婚請求が認められる可能性はあります。
有責配偶者には慰謝料の支払い義務が発生する
離婚原因が不貞行為、悪意の遺棄、DV、一方的なセックスレスなどの不法行為である場合は、被害を受けた配偶者は有責配偶者に対して慰謝料(精神的損害の賠償)を請求することができます。
ここでは、慰謝料を請求するにはどのようにしたらいいのか、離婚慰謝料をいくらくらい請求できるのかなどについて解説します。
慰謝料請求では不法行為を立証する証拠が必要
不法行為とは、加害者が被害者の権利・利益を侵害する行為を指します。
離婚請求における不法行為には、不貞行為や悪意の遺棄、DV、一方的なセックスレスなどが該当します。
慰謝料を請求する場合、不法行為に関する具体的な証拠を集める必要があります。
それぞれの不法行為に関係する主な証拠は、以下のとおりです。
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慰謝料相場は離婚原因によって異なる
離婚慰謝料の相場は、離婚原因によって異なります。
不貞行為、悪意の遺棄、DV、一方的なセックスレスのそれぞれの慰謝料相場は、以下のとおりです。
なお、慰謝料の金額は婚姻期間、子どもの有無、別居期間、不法行為の内容や被害の程度などによって異なります。
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慰謝料の請求方法|協議・調停・訴訟
慰謝料の請求方法には、以下のような種類があります。
- 協議による請求
- 調停による請求
- 訴訟による請求
まずは当事者同士で協議(話し合い)をすることが多いですが、話し合いがまとまらなければ第三者を交えた調停を行うこともできます。
また、調停も不成立になった場合は訴訟に移行することになります。もちろん最初から訴訟を起こすこともできます。
これらの手続きはいずれも自力で対応することができますが、手続きの負担や思いがけず不利な状況に陥るリスクなどを考慮すると弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
有責配偶者でも慰謝料以外の離婚条件には大きな影響はない
離婚するにあたっては、慰謝料以外にも財産分与、親権、養育費、面会交流などを取り決める必要があります。
有責配偶者だからといって、これらの取り決めが必ずしも不利になるわけではありません。
ここでは、それぞれの離婚条件のポイントについて確認しましょう。
親権|養育実績や監護状況などをもとに決める
有責配偶者であっても親権を獲得できる可能性は十分あります。
基本的に親権は「子どもの利益」を最優先に考えて決定する必要があり、一般的にはこれまでの養育実績、離婚後の監護状況、本人の発育度合いによっては子どもの意思などが考慮されます。
離婚原因にもよりますが、有責配偶者であるかどうかによる親権への影響は小さいでしょう。
養育費|年収や子どもの年齢などをもとに決める
養育費は、一般的に裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」をもとに決めます。
養育費算定表には、親の年収と子どもの人数・年齢に応じた養育費の額が記載されています。
有責配偶者だから養育費を多く請求できる、逆に無責配偶者だから養育費を払わなくていいということはありません。
責任の有無に関係なく、必要な養育費を負担します。
養育費の相談に関しては養育費の相談窓口を悩み別に7つ紹介|相談前に準備しておくことをご覧ください。
面会交流|子どもの意思やお互いの生活環境などをもとに決める
面会交流とは、離婚により親権や監護権を獲得できなかった父母が、子どもと直接会ったり、連絡を取ったりすることをいいます。
両親の離婚原因は子どもには関係がないため、有責配偶者にも子どもとの面会交流権は認められています。
ただし、離婚原因がDVなどであり、子どもへの悪影響が予想される場合は、認められないことがあります。
財産分与|2分の1ずつ分ける
財産分与とは、婚姻中に夫婦で築き上げた財産を分けることをいいます。
有責配偶者から財産分与の請求をすることが認められており、その際、有責配偶者の分与割合を減らす、財産を一切分けないといったことはできません。
財産分与の目的は夫婦の共有財産を清算することなので、基本的には2分の1ずつ分ける決まりとなっています。
財産分与の相談に関しては離婚の財産分与を無料相談できる3つの窓口と弁護士選びのポイントをご覧ください。
婚姻費用|収入の多いほうが少ないほうに支払う
婚姻費用とは、生活費、医療費、教育費など、夫婦が生活を送るために必要な費用のことです。
同居・別居は関係ないため、離婚が成立する前の別居段階であって婚姻費用の負担義務はあります。
ただし、夫婦のうち収入の少ない側、子どもを監護養育している側、つまり婚姻費用をもらう側の配偶者が証拠上明らかに有責だった場合には、夫婦間の扶養義務がなくなり、夫婦間の分の婚姻費用の支払い義務がなくなり、子どもへの養育費相当額にまで婚姻費用が減額される可能性があります。
最後に|有責配偶者の離婚に関する悩みは弁護士に相談!
自分や相手が有責配偶者にあたるのか、有責配偶者でも離婚請求ができるのかなどについて悩んだら、まずは離婚トラブルが得意な弁護士へ相談してみましょう。
弁護士なら夫婦の状況や離婚原因などに応じた適切なアドバイス、適正な慰謝料金額の算定、離婚後の取り決めのサポートなどをしてくれます。
離婚トラブルや慰謝料請求が得意な弁護士を探したいなら「ベンナビ離婚」を利用することをおすすめします。