遺留分侵害額請求の時効は?時効の中断方法や時効経過を防ぐ方法を解説!
遺言書が見つかり、自身に遺された財産がほとんどないとわかれば、その内容に納得できない方も多いのではないでしょうか。
遺産相続には、遺言者と相続人の関係性に応じて最低限保障されている割合があり、足りない分は多く遺贈等された人に対して請求できます。これを遺留分侵害額請求といいます。
しかし、遺留分の請求権には時効があるため、どうすればいいか悩んでいる間に請求できなくなる可能性もあるのです。
この記事を読めば、以下の点について知ることができます。
- 遺留分に気づいたが時効はいつまでなのか
- 時効経過を防ぐにはどのような方法があるのか
- 時効経過にならないためにできる対策は何か
今回は「遺留分侵害額請求の時効」について、遺留分回収の基礎知識から時効経過を止める方法まで詳しく解説します。
遺留分侵害額請求の基礎知識
「遺留分侵害額(減殺)請求」とは、遺言書によって相続人同士の遺産額に極端な差が生じた場合、取り分の少ない人が多い人に対して、遺産の返還を求めることを指します。
相続のトラブルは、複数の相続人がいるなかで「財産の全て(もしくは大半)を○○へ贈与する」といった、相続の内容が偏った遺言書が見つかった場合に起こりやすいものです。
遺留分侵害額請求は、そのような事態を解決へ導くためのひとつの手だてとして設けている手続きといえます。
もし、遺言者からの遺贈額が遺留分の割合より少ない「遺留分の侵害」が発生すれば、その侵害を受けた相続人は、不足額について遺留分侵害額請求を申し立てることが可能となります。
遺留分の請求権については「遺留分減殺請求」と「遺留分侵害額請求」の2つの呼び名を見かけることがあります。
これらは2019年におこなわれた相続法改正によって、名称と内容の一部に変更が生じたもので、2019年7月1日以降の相続には「遺留分侵害額請求」が適用されています。
制度における変更点として、今まで遺産の返還請求は「現物」とされていましたが、法改正によって「金銭請求」に一本化されることになりました。
【参考】
民法(相続法)改正 遺言書保管法の制定~高齢化の進展等に対する対応~|法務省
民法第1042条|e-Gov法令検索
遺留分侵害額請求には時効がある
遺留分侵害額請求には時効があり、民法第1048条では以下のように定めてあります。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
したがって、請求権が行使できる期間は以下2つのケースにわけて考えなければいけません。
- 遺留分の侵害を知った日から1年間
- 遺言者が死亡した日から10年間
それぞれについて詳しく解説します。
遺留分の侵害を「知った日」から1年間
1つ目の時効は、遺言書によって自身の遺留分が侵害されていることを知った日から1年間です。
この時効では「遺留分の侵害を把握した日」を起算日にするのがポイントです。
たとえば、遺言者が亡くなった数年後に遺言書が発見された場合でも、その時点から1年間は遺留分侵害額の請求が可能です。
ただし、侵害判明から1年以内に請求権を行使しなければ、その権利は消失します。
遺言者が「死亡した日」から10年間
2つ目の時効は、遺言者が死亡した日から10年間です。
遺言者が亡くなることは、同時に相続開始になることを意味します。
遺族は、この相続開始となった日から10年以内に、相続問題を解決しなければいけません。
なお、この年数は「除斥(じょせき)期間」といい、たとえ相続人が遺言者の死亡を把握していなくても勝手に過ぎていくものです。
もちろん、経過満了にともない遺留分侵害の請求権も消失します。
このように、遺留分の時効は、起算点や権利消失までの期間に対する考え方が複雑です。
自身に与えられた権利を守り確実に遺留分を取り戻すためにも、悩む前に弁護士へ相談するのがよいでしょう。
遺留分侵害額請求の時効は中断できる?
遺留分侵害額請求は、期限までに遺留分を請求しなければ請求権が消失してしまいます。
とはいえ、なかには相続人同士の話し合いが思うように進まず、このままだと時効経過になりかねないという方もいるのではないでしょうか。
ここからは、日を追うごとに迫ってくる時効を中断させ、自身がもつ遺留分侵害額の請求権を失わないようにする方法について説明していきます。
時効を中断するには遺留分侵害額請求をおこなう
遺留分侵害額請求の時効を止めるには、遺言者から贈与・遺贈を受けた相手に対して「遺留分の侵害額請求をおこなう」内容を記載した通知書を送付すれば中断できます。
このとき、相手方に通知書が届いたことを証明するため「配達証明付内容証明郵便」を利用するのがおすすめです。
通知書の作成に決まった様式はありませんが、下記事項を記載することで請求を確定できます。
- 亡くなった人の情報
- 相続開始日
- 遺留分侵害額請求権を行使する旨
- 相手方の氏名
- 自身の氏名
内容証明郵便を利用すれば、送付した通知書が遺留分侵害額請求であったことを証明できるようになります。
万が一、相手方が「通知書なんて届いていない」「遺留分侵害額請求について記載されていない」といった理由で対抗してきても、争いになることを防げるので安心です。
遺留分を請求したあとの時効にも注意
遺留分侵害額請求は、相手方に通知書を送ることで権利消失を免れますが、それで一安心というわけではありません。
請求権を行使すると今度は民法第166条に基づいた「金銭債権の時効」が新たに発生し、期限以内に相手方と金銭面の交渉を進めなければいけなくなるのです。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
2019年7月1日以降の相続において、遺産の返還は金銭請求に一本化されたため、このような「金銭債権の時効」が関与してくると考えられます。
なお、債権の時効は5年以内であり、期限までに相手方との交渉をまとめなければ権利消滅になるので注意しておきましょう。
金銭支払請求権の時効を止める方法
万が一、5年以内に遺留分についての金銭交渉がまとまらない場合、相手方に対して遺留分侵害額の支払いを求める訴訟を提起することで、金銭債権の時効を止めることができます。
これは、民法第147条で定められた「時効の完成猶予」が生じるためです。
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
ここまでくると、遺留分をめぐる相続問題がどんどん長期化していく可能性があります。
親族の関係性が悪化することも考えられるため、迅速に対処できるよう弁護士への相談を視野に入れておくのがよいでしょう。
とくに訴訟となると、弁護士のサポートが欠かせません。
訴訟の準備をはじめ、法律に基づいた根拠をもって意見を述べる必要があるなど、不慣れな人が急に対応するのは難しいといえます。
そもそも訴訟にまで発展させないためにも、早めに弁護士などに相談し、解決を目指すことをおすすめします。
遺留分侵害額請求の時効経過を防ぐ対策とは?
遺留分侵害額請求の時効を防ぐためには、争点になりやすい部分に対策を打っているかどうかがポイントになります。
以下は、遺産トラブルで争点になりやすく、事前に対策しておくべき事項です。
- 不動産の評価額
- 使用不明金や生前贈与
- 遺言書の無効
これらに対して何も対策していなければ、話し合いが難航し、ただ時効を経過させてしまうことになりかねません。
まずはスムーズに遺産相続がおこなえるよう対策をとっておくことが、時効経過を防ぐための対策にもなるのです。
それぞれのケースについて、詳細と事前におこなうべき対策を説明します。
不動産の評価額
遺産のなかに不動産があると、遺留分侵害の話し合いが難航する可能性があります。
なぜなら、不動産の評価額は変動するため、どの時点での価格を基礎財産に入れるかによって、相続人の遺留分に差が生じるからです。
不動産相続について遺族が協議する場合、あらかじめ専門機関に算定依頼したうえで話し合いに臨むことをおすすめします。
【参考】路線価図・評価倍率表|国税庁
使途不明金や生前贈与
万が一、遺族のなかで遺言者から多額の生前贈与を受けた者がいる場合、その額を「特別受益」にするかどうかという点で争われ、協議が長引く可能性があります。
ここでいう「特別受益」とは、相続人が生前の遺言者から財産利益を得ることで、生計の資本金となる場合に認められます。
たとえば、相続人の住宅購入資金や婚姻資金、事業資金のほか、学費や借入金の肩代わりも該当する可能性があり、生前贈与と認められれば当事者の遺留分を左右することにつながりかねません。
そのほか、遺言者の財産の使い込みや使用不明金も問題になりやすく、相続問題の解決を難しくします。
話し合いの長期化による時効経過を防ぐには、これまで遺言者とやり取りした財産を、使用目的まで全て明確に洗い出しておきましょう。
正々堂々と話し合いに臨む姿勢が大切です。
遺言書の無効
遺言書が「相続人である○○へ全財産を相続する」など、極端な内容の遺言になっていた場合、その遺言書自体の有効性が争われるケースがあります。
たとえば、遺言者が生前認知症を患っていた場合は注意が必要で、遺言書が作成された時期を考え「当時は本人が正常な状態ではなかった」として相続人の一部が争う姿勢を見せる可能性もあります。
このようなケースでは、遺言書が「たしかに遺言者の意志を反映したもの」とする証拠を準備することで解決できます。
同時期に遺言者が書いた日記や手紙など、遺品から何らかの手掛かりになりそうなものを探してみましょう。
ひとつでも多くの資料を用意することで、協議のスムーズ化と時効防止が図れます。
遺留分侵害額請求権を行使できる期間は、思っている以上に短いものです。
相続人同士が揉めているうちに過ぎてしまう可能性もあり、早めの対処が必要といえます。
遺留分について不安がある場合は、簡単な内容であっても一度弁護士へ相談するのがおすすめです。
遺留分侵害額請求は時効になる前に弁護士へ相談を
遺留分侵害額請求には時効があるものの、請求権を行使してしまえば時効を止めることができます。
しかし、その意思表示をする以前から相続人同士が揉めていたり、遺留分の算定に時間がかかったりすると、思うようにことが進まず時効がきてしまう可能性も否めません。
もし、相続に関することや遺留分のことで悩んでいるなら、相続に詳しい弁護士への相談を検討しましょう。
弁護士に相談すれば、今抱えている悩みについてアドバイスがもらえたり、今後の見通しを教えてもらえたりする可能性があります。
弁護士に問題解決を依頼すれば、遺留分侵害額請求権の時効経過を防ぐための対策や、遺族間のトラブルを早期解決するためのサポートをおこなってもらえるでしょう。
万が一、遺産をめぐる話し合いがそのまま調停や訴訟に発展した場合でも、あなたの権利を守る手助けになってくれます。
「遺言書による遺産分配に納得がいかない」「自身に遺留分はあるのか」「間もなく時効になりそうだから助けてほしい」など、困ることがあれば簡単な内容でも弁護士へ相談してみてください。
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