なぜ自転車事故は相談先に困るの?自動車事故との違いや相談先を解説
自転車は道路交通法上の軽車両となりますが、マナーの悪い利用者も多く、イヤホンを装着していたり、スマートフォンを見ながら運転していたりする例も珍しくありません。
原則的には歩道の走行も認められませんが、現実はそうなっておらず、自転車と歩行者が衝突するケースも後を絶たないようです。
それに伴い、後遺障害が残るケースや死亡事故も発生しているため、相手が自転車とはいえ、決して軽くみることはできません。
しかし、自転車事故は当事者同士で交渉するケースが多いため、過失割合や損害賠償額の決め方がわからず、いつまで経っても決着しない可能性があります。
今回は自転車事故の相談先を詳しく解説しますので、被害に遭われた方や、相談先に困っている方は必ず参考にしてください。
なお、ベンナビ交通事故では、地域別や専門分野別に弁護士を検索できます。
自転車事故の解決に詳しい弁護士も見つかるので、ぜひ活用してください。
自転車事故の被害者が相談できる窓口
保険会社を頼れない自転車事故の場合、相談窓口はなさそうに思えますが、自転車ADRセンターや弁護士に相談すれば、自転車事故にも対応してくれます。
自転車保険に加入していれば保険会社も相談窓口になってくれるので、それぞれ対応の違いを理解しておくとよいでしょう。
弁護士
自転車事故の解決を弁護士に依頼すれば、依頼人の利益最優先で活動してくれます。
適切な過失割合や損害賠償額も算定してくれるため、慰謝料などが増額される可能性が高いケースでは、十分な費用対効果を期待できるでしょう。
また、弁護士費用は以下の内訳になっており、依頼者が受ける経済的利益を基準に計算されます。
なお、「経済的利益」とは、弁護士活動の結果、依頼者が得られた金銭的な利益の合計額を指します。
また、「日当」は弁護士が事務所以外で事件解決のための弁護活動をおこなった際に発生するもので、出張や裁判所への出廷が該当します。
相談料 | 30分5千~1万円程度(初回無料の弁護士も多いです) |
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着手金 | 交通事故の場合は10万~20万円程度が相場です |
報酬金 | 経済的利益が300万円の場合は16%など、段階的に割合が変わります |
日当と実費 | 日当は1日あたり5万~10万円、実費には交通費や通信費などが含まれます。 |
弁護士には交渉も任せられるので、交渉が難航している場合はストレスからも解放されます。
早期決着も期待できるため、損害賠償を早めに受け取れる可能性も高いでしょう。
自転車ADRセンター
自転車ADRセンターは自転車事故に特化した機関であり、問題解決のアドバイスなどを受けられます。
ただし、あくまでも調停機関であり、中立的な立場になるため、弁護士のように被害者の利益を最優先してくれるわけではありません。
相談できる曜日や時間も限られているうえ、和解後には手数料が発生することも理解しておきましょう。
自転車ADRセンターはこちら
日弁連交通事故相談センター
日弁連交通事故相談センターに相談すると、加害者と被害者の間に入って示談のあっ旋をしてくれます。
基本的には無料で利用できますが、弁護士はあくまでも中立的な立場で介入します。
全面的に被害者の味方になってくれるわけではないので、慰謝料を最大限増額することまでは期待できないでしょう。
日弁連交通事故相談センターはこちら
法テラス
法テラス(日本司法支援センター)とは、法務省によって各都道府県に設置された法律の相談窓口(法人)です。
無料相談もできますが、時間と回数が限定されており、電話の場合は直接弁護士に相談できないケースもあります。
ただし、弁護士費用の立替えと分割払いに対応してくれるので、まとまった資金が用意できない方でも利用可能です。
なお、法テラスを利用する場合は収入などの要件もあるため、ホームページでよく確認しておきましょう。
法テラス(日本司法支援センター)はこちら
自治体の法律相談窓口
各自治体も法律の無料相談窓口を設置していますが、曜日や時間帯の指定があり、基本的には要予約です。
相談相手が自転車事故に詳しい弁護士とは限らず、時間の制限もあります。
ひとまず相談して今後の方向性を助言してほしい、という方は利用してみるべきでしょう。
自転車事故の相談先に困る理由|自動車事故との違い
自動車事故であれば保険会社に連絡し、今後の対応も任せられますが、自転車事故には以下の事情があるため、対応や相談先に困るケースが多くなっています。
ではどのような事情があるのか、自動車事故との違いや、自転車事故の特殊性をみていきましょう。
自転車は無保険の場合が多い
自動車やバイクは自賠責保険に強制加入となりますが、自転車には原則的に保険加入の義務がないため、無保険の場合がほとんどです。
加害者・被害者ともに無保険という状況も多いため、事故が起きた場合、「まず保険会社に連絡して今後の処理を依頼する」というわけにはいきません。
後遺障害が残るようなケガを負ったとしても、加害者が無保険であれば、高額な治療費を自己負担しなければならない可能性があります。
なお、一部の自治体では、自転車利用者に自転車保険への加入を義務付けています。
また、加害者本人が「無保険だ」といっても、実は加入しているケースもあります。
たとえば、火災保険に「個人賠償責任特約」を付帯していれば、自転車事故にも対応してもらえます。
思い当たる保険がないか、加害者によく確認してください。
加害者と直接交渉することになる
多くの自転車は無保険状態なので、交渉も当事者同士でおこなうケースがほとんどです。
しかし、お互いに交通事故の知識がないため、どう進めてよいか、いくら損害賠償を請求できるかわからず、いつまで経っても交渉が決着しない可能性もあります。
相手によっては自分の過失を一切認めなかったり、交渉そのものに応じてくれなかったりするため、当面の治療費を自己負担するケースも少なくありません。
また、加害者だけが自転車保険に加入していたときは、保険会社が交渉相手になるので、よほどの知識がなければ対等に渡り合えないでしょう。
後遺障害を認定する機関がない
自動車には自賠責保険の制度がありますが、自転車には自賠責に相当するシステムがないため、後遺障害を認定する機関がありません。
そのため、自動車事故の被害者が迅速に救済を受けやすいのと比較して、後遺障害等級の認定はかなり難しくなるため、逸失利益の発生が明らかであっても、何の補償も受けられないことになりかねません。
逸失利益とは、もし事故に遭わずに障害を負うことがなかったら、将来働いて得られるはずだった収入のことです。
後遺障害が認められると、慰謝料とともに逸失利益を請求できます。
したがって、被害者であるにも関わらず、高額な治療費の補償を受けられないまま自分で支払う可能性も出てきます。
過失割合の決定でもめてしまう
車同士、または車とバイクなどの事故であれば、事故態様や事故類型がある程度決まっているため、基本的な過失割合は算定しやすくなっています。
しかし、自転車事故は類型の判定が難しく、加害者・被害者ともに過失割合の知識がないことから、もめてしまう可能性が高いでしょう。
また、交渉が長期化すると治療費などの支払いも先送りになるため、最終的には被害者が妥協してしまうケースもあります。
示談金がなかなか決まらない
損害賠償は加害者・被害者それぞれの過失を考慮するため、過失割合が決まらなければ、慰謝料などの請求額も確定しません。
しかし、治療費や休業損害は日々発生し、加算されていくため、被害者が自己負担し続ける状況になるでしょう。
【関連記事】【自転車事故】示談金に含まれる費用や相場・交渉の進め方を紹介
事故直後に必ず連絡する窓口
交通事故が起きたときは現場検証が必須であり、過失割合の算定やケガの受診などもしなければいけないため、警察・病院・保険会社へ連絡します。
事故直後は混乱状態に陥りやすいものですが、連絡を忘れると事故の記録が残らず不利な状況になることがあるので注意しておきましょう。
警察
交通事故が起きた場合、警察に通報しなければ交通事故証明書をもらえません。
交通事故証明書は保険金の支払い請求にも関わるため、事故後は速やかに警察に連絡しましょう。
病院
事故の直後は興奮状態になっており、ケガの痛みに気付きにくいので要注意です。
後から重症化する可能性もあるので、特に痛みや違和感がなくても連絡し、診察だけでも受けるようにしてください。
自分が契約している保険会社
自転車保険に加入していれば、必ず保険会社にも連絡しておきましょう。
示談代行を保険契約に付帯していれば、加害者側との交渉も任せられます。
ただし、どちらの保険会社も自社の利益優先なので、自分で直接交渉するときは、相手側の主張を鵜呑みにしないよう注意してください。
慰謝料などの金額も低く見積もられているケースが多く、安易に承諾すると大きな損害に繋がる可能性があります。
ベストな相談先は自転車事故に詳しい弁護士
自転車事故の問題を解決する場合、総合的にみるとベストな相談先は弁護士です。
ただし、弁護士にも専門分野があるため、自転車事故の解決実績がある弁護士を選ぶようにしてください。
弁護士には交渉や過失割合の算定など、問題解決のほとんどを依頼できるので、精神的な負担も軽減されます。
特に仕事が忙しい方やケガで入院中の方、交渉が苦手な方にはメリットが大きいでしょう。
良心的な弁護士は費用も詳しく説明してくれるため、費用倒れといって、獲得額より弁護士費用が高くなるかどうかを判断しやすいでしょう。
弁護士は弁護士基準で損害賠償を算定してくれる
交通事故の損害賠償金については、以下の算定基準のいずれかを用いて計算します。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
自賠責基準は必要最低限の補償であり、保険会社独自の基準である任意保険基準は少し高めに設定されていますが、それほど大きな差はありません。
しかし、弁護士基準で損害賠償を算定した場合、任意保険基準の2~3倍を獲得できる可能性があります。
弁護士基準は過去の判例を参考にしており、保険会社の都合ではなく、被害者が真に必要とする損害賠償が算定されるため、十分な補償を受けられるでしょう。
保険会社の提示額に納得できないときは、まず弁護士に依頼して、弁護士基準で慰謝料などを算定してもらいましょう。
自転車事故で請求できる損害賠償の種類
法律では自転車も軽車両扱いとなるため、損害賠償は自動車事故が発生したときに準じた考え方になります。
損害賠償は保険会社が算定するため、被害者側で計算することはほぼありませんが、最低額や相場を知っておけば、低い金額を提示されたときに気付きやすくなります。
実際に請求できるかどうかは加害者の対応次第となりますが、ひとまず損害賠償の種類と相場を把握しておきましょう。
なお、前述したように、金額は以下の3つの基準を用いて算定します。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、入院や通院に伴う苦痛に対して支払われます。
入院期間や通院期間、治療期間によって金額が異なります。
自賠責基準では日額4,300円が補償されますが、実際の支払い額は以下のどちらか低い方です。
- 4,300円×治療期間(初診日から完治まで通院していた期間)
- 4,300円×実際に通院した日数×2
治療期間が2か月、実際に通院した日数が25日だった場合は以下のように計算します。
- 4,300円×60日=25万8,000円
- 4,300円×25日×2=21万5,000円
この場合、低い方の215,000円が実際に支払われる金額です。
なお、ケガを負っても病院に行かず、自宅療養していた場合は補償されません。
後遺障害慰謝料
ケガの治療をおこなったものの事故前の状態まで回復せず、自賠責保険の後遺障害等級に相当する場合は、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害等級は14級~1級まであり、各等級に応じた後遺障害慰謝料が支払われます。
自賠責基準での慰謝料額は14級で32万円、もっとも重い1級で介護を要する場合は1,650万円です。
また、複数の後遺障害が残ったときは併合等級が適用されるので、上位の等級に上がる可能性もあります。
後遺障害に強い弁護士については後遺障害に強い弁護士の特徴とは?探すための4つの方法も解説をご覧ください。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、被害者が亡くなる直前に受けた苦痛や、遺族の精神的苦痛に対する支払いです。
遺族分の死亡慰謝料は被害者の子供や配偶者、両親に請求が認められており、自賠責基準の場合は以下の金額が支払われます。
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死亡慰謝料 | 400万円 |
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請求者が1人の場合 | 550万円 |
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請求者が2人の場合 | 650万円 |
請求者が3人以上の場合 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合 | 200万円を加算 |
配偶者と未成年の子供1人(計2人)が請求する場合は、以下のように計算します。
死亡慰謝料:400万円+650万円+200万円=1,250万円
なお、被害者本人に対する死亡慰謝料は、当然ながら本人は受け取れません。
誰が相続人となって引き継ぐか決めるため、相続人間での遺産分割協議が必要になります。
治療費
治療費は実際に発生した金額を請求できますが、以下のように範囲が決まっています。
- 初診・再診費用
- 検査費用
- 診察費用
- 薬代
- リハビリ費用 など
【医師の指示がある場合に限り認められるもの】
- 温泉療養費
- 整骨院・整体院の施術費
- マッサージ料 など
【理由がある場合に限り認められるもの】
- 入院時の個室料 など
ケガの状況や治療期間、治療内容によって金額は変わりますが、加害者側の保険で補償する場合、一定期間を超えると支払いを打ち切られるケースもあります。
治療費打ち切りによって入通院期間が短くなると、慰謝料も減額されてしまうため、症状固定までは治療を続けてください。
症状固定とは、治療を続けても改善の見込みがない状態を指します。
通院交通費
通院交通費には電車やバスの運賃、車のガソリン代などがあります。
骨折などの事情がある場合にのみ、タクシー料金も加害者に請求できます。
車の場合は1kmあたり15円が相場となっており、必要性が認められると駐車料金や高速料金も請求可能です。
ただし、タクシー料金は「本当に通院交通費か?」と疑われる可能性もあるので、利用する場合は事前に加害者側へ連絡した方がよいでしょう。
なお、請求時にはガソリン代やタクシー料金の領収書を提出しますが、公共交通機関の利用であれば領収書は不要です。
休業損害・休業補償
休業損害(休業損害補償)は加害者側の自賠責保険や任意保険から、休業補償は労災保険から支払われます。
休業損害は人身事故を対象としており、自動車保険から支払われるため職業は限定されませんが、休業補償は雇用されて働く人に限られます。
補償額の計算方法も以下のように異なりますが、休業補償の場合は治療費の支援として休業特別支給金も請求できます。
【休業損害(自賠責基準)】
- 日額6,100円×休業日数
ただし、2020年3月31日以前に発生した事故については、日額5,700円で計算します。
また、被害者の収入が明らかに日額6,100円を上回ると証明できる場合に限り、日額19,000円まで増額できます。
休業補償給付額 | 給付基礎日額の60%×休業日数 |
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休業特別支給金 | 給付基礎日額の20%×休業日数 |
給付基礎日額とは、事故前3か月間に実際に支払われた給与を3か月間の暦日数で割った金額です。
なお、休業損害は有給休暇中も補償されますが、休業補償では補償されないので注意してください。
また休業補償に関しての詳細は交通事故の休業補償はいくらまで?計算方法や休業損害との違いを解説をご覧ください。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故の被害がなければ得られたはずの収入のことです。
後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
どちらも年間の基礎収入が基準となり、以下のように計算します。
後遺障害逸失利益 | 1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数 |
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死亡逸失利益 | 1年あたりの基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に応じたライプニッツ係数 |
1年あたりの基礎収入は事故前に受け取っていた実際の年収となりますが、専業主婦などで収入がない人は賃金センサスを参考にします。
労働能力喪失率は、後遺障害の等級によります。
たとえば、後遺障害14級は5%の労働能力喪失、1級の場合は100%の喪失となり、それぞれ自賠責保険で定められています。
ライプニッツ係数とは、将来的な収入を一括で取得することによって発生する将来利息分を控除し、正確な価値を算定するために用いる指数です。
自転車事故の被害で困ったときは必ず弁護士に相談しよう!
交通事故の相談窓口はいくつかありますが、自転車事故に対応している機関は少ないため、「相談してみたもののアテが外れた」という状況になりかねません。
しかし、加害者と直接交渉してもまとまらないことが多く、慰謝料などの算定も難しいため、十分な損害賠償を受けられなくなる可能性もあります。
相手が自転車であっても、ケガの状態によっては後遺障害が残るケースもあるため、示談交渉で妥協することがないよう注意してください。
自転車事故の被害で困ったときは、まずは弁護士に相談して適切なアドバイスを受けましょう。