立ち退きの正当事由とは?認められる判断基準と借主が確認すべきことを解説
大家さんや管理会社から「建て替えるので退去してほしい」「次の更新はしません」と告げられ、従うしかないのか迷っていませんか。
普通借家契約であれば、貸主の都合で立ち退きを求めるには「正当事由」が必要で、通知が届いただけで退去する義務はありません。
正当事由があるかどうかは、貸主と借主の事情や建物の状態、立ち退き料などを総合して判断するのが原則です。
本記事では、正当事由の判断基準、認められやすいケースと認められにくいケース、立ち退き料との関係、借主が確認すべきことと対処法を解説します。
読み終えるころには、自分のケースで立ち退きに応じるべきか、交渉や相談に進むべきかを判断できるようになります。
- 立ち退きの正当事由とは|貸主が契約を終わらせるために必要な理由
- 立ち退きの正当事由を判断する5つの要素|借地借家法28条
- 立ち退きの正当事由が認められやすいケース・認められにくいケース
- 立ち退きの正当事由と立ち退き料の関係|不足分をお金で補う
- 立ち退きを求められたら借主が確認すべき4つのこと
- 立ち退きの正当事由に納得できないときの対処法
- 立ち退きを求められたときにやってはいけない3つの対応
- 立ち退きの正当事由について相談できる窓口
- 貸主側から見た立ち退きの正当事由|求める前に準備したいこと
- 立ち退きの正当事由に関する悩みは「ベンナビ法律相談Q&A」で解決しよう
- 立ち退きの正当事由に関するよくある質問
- まとめ
立ち退きの正当事由とは|貸主が契約を終わらせるために必要な理由
立ち退きの正当事由とは、貸主が賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするときに必要な正当な理由です。
借地借家法28条が定めており、貸主の一方的な都合だけで借主が住まいを失わないように借主を守る仕組みです。
ただし、正当事由が問われるかどうかは、契約の種類や立ち退きを求められた理由によって変わります。
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場面 |
正当事由が必要か |
根拠 |
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普通借家契約の更新拒絶・解約申入れ |
必要 |
借地借家法26〜28条 |
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定期借家契約の期間満了 |
不要。ただし終了通知は必要 |
借地借家法38条 |
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家賃滞納など重大な契約違反による解除 |
不要。信頼関係の破壊が問われる |
民法541条ほか |
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貸主と借主の合意による解約 |
不要 |
当事者の合意 |
まずは自分の契約がどの場面にあたるかを確かめておきましょう。
それぞれの場面について詳しく見ていきます。
1. 普通借家契約|更新拒絶・解約申入れには正当事由が必要
普通借家契約(更新のある通常の賃貸借契約)では、貸主が更新を拒絶する場合も、解約を申し入れる場合も正当事由が必要です。
期間の定めがある契約では、貸主は期間満了の1年前から6か月前までに「更新しない」旨を通知しなければなりません(借地借家法26条)。
期間の定めがない契約では、貸主の解約申入れから6か月が過ぎると契約が終わる扱いになります(同法27条)。
どちらの場合も、正当事由が認められなければ通知や申入れの効力は生じません。
なお、契約書に「貸主はいつでも解約できる」と書かれていても、借主に不利な特約として無効になります(同法30条)。
普通借家契約なら、貸主の言い分をそのまま受け入れる前に、正当事由があるかを確かめるのが先決です。
2. 定期借家契約|期間満了で終わるため正当事由は問われない
定期借家契約とは、更新がなく、期間満了で終わることをあらかじめ決めた賃貸借契約です。
期間満了で契約が終わるため、貸主が退去を求めるのに正当事由は要りません。
ただし、定期借家契約として有効になるには、書面(電磁的記録を含む)で契約し、契約前に「更新がない」ことを契約書とは別の書面で説明している必要があります(借地借家法38条・最高裁平成24年9月13日判決)。
事前の説明がなければ、更新がないという定めは無効となり、普通借家契約として扱われます。
また、期間が1年以上の契約では、貸主は期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をする必要があります。
通知が遅れた場合、貸主が契約終了を主張できるのは通知の日から6か月が過ぎた後です。
「定期借家だから出ていってほしい」と言われた場合も、契約書と事前説明の書面がそろっているかを確認しておくと安心です。
3. 家賃滞納などの重大な契約違反|正当事由ではなく契約解除の問題
家賃の長期滞納や無断での又貸しなど、貸主との信頼関係を壊すほどの契約違反がある場合は、正当事由がなくても契約を解除されることがあります。
契約違反による解除で問われるのは正当事由ではなく、信頼関係が壊れたといえるかどうかです。
たとえば、家賃を1回遅れただけでは解除までは認められにくく、数か月分の滞納が続いている場合に解除が認められやすくなります。
一方、軽い契約違反は、正当事由を判断するときの「従前の経過」の一事情として考慮されるにとどまるのが一般的です。
なお、契約違反があっても、貸主が勝手に鍵を交換したり荷物を運び出したりすることは認められていません。
立ち退きの正当事由を判断する5つの要素|借地借家法28条
正当事由は、借地借家法28条が定める5つの要素を総合して判断されます。
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要素 |
見られる内容 |
借主に有利に働く事情の例 |
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建物の使用を必要とする事情 |
貸主・借主それぞれが建物を使う必要性 |
通院・通学・仕事の都合で転居が難しい |
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従前の経過 |
契約期間・更新の回数・家賃の支払状況 |
長年きちんと家賃を払ってきた |
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建物の利用状況 |
住居か店舗か、実際に使っているか |
生活や営業の拠点として使っている |
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建物の現況 |
老朽化・耐震性の程度 |
修繕すればまだ十分に使える |
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財産上の給付 |
立ち退き料・代わりの物件の提供 |
立ち退き料の提示がない、または低い |
中心となるのは、貸主と借主のどちらがより建物を必要としているかという1つ目の要素です。
残りの4つは、1つ目の判断を補う事情として考慮されます。
1. 建物の使用を必要とする事情|貸主と借主の必要性を比べる中心要素
正当事由の判断で特に重く見られるのは、貸主と借主のそれぞれが建物を使う必要性の比較です。
貸主側では、自分や家族が住む場所が他にない、事業のためにどうしても建物が必要、といった事情が考慮されます。
借主側で住み続ける必要性として評価されるのは、次のような事情です。
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家族の通院先や子どもの学校が近くにある
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高齢や病気のため転居の負担が大きい
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建物で店舗を営み、生計を立てている
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近くに同じ条件の物件が見つからない
借主の必要性が大きいほど、貸主の正当事由は認められにくくなります。
自分が住み続けたい理由は、通院記録や在学証明など客観的な資料と一緒に整理しておきましょう。
2. 建物の賃貸借に関する従前の経過|契約期間・更新・家賃の支払状況
従前の経過とは、契約を結んでから現在までの貸主と借主の関係の経緯のことです。
入居してからの期間、更新の回数、契約時の権利金や更新料の授受、家賃の支払状況などが考慮されます。
長年きちんと家賃を払い続けてきた借主は、貸主との信頼関係を積み重ねてきた証として、借主に有利な事情です。
反対に、家賃の遅れを繰り返していたり、貸主とのトラブルが多かったりすると、借主に不利な事情になります。
家賃の振込記録や過去の更新契約書は、交渉や裁判で経緯を示す材料になるため保管しておきましょう。
3. 建物の利用状況|住居か店舗か、実際に使っているか
建物の利用状況では、借主が建物を実際にどう使っているかが見られます。
生活の本拠として住んでいる場合や、店舗・事務所として営業の拠点にしている場合は、借主に有利な事情です。
一方、ほとんど住んでいない、倉庫代わりにしているといった場合は、借主の必要性が小さいと判断されやすくなります。
店舗や事務所の場合は、移転による売上の減少や顧客の喪失も問題になるため、立ち退き料が高くなりやすい傾向があります。
4. 建物の現況|老朽化・耐震性の程度
建物の現況では、築年数そのものよりも、倒壊の危険や耐震性の不足といった客観的な状態が重視されます。
築40年を超える建物でも、修繕すれば安全に使えるのであれば、老朽化は弱い事情にとどまります。
反対に、耐震診断で倒壊の危険が指摘され、補強に建て替えと変わらない費用がかかる場合は、貸主に有利な事情です。
なお、貸主が長年修繕を怠ったために老朽化が進んだ場合は、貸主に有利に評価されにくいとされています。
5. 財産上の給付|立ち退き料や代わりの物件の提供
財産上の給付とは、貸主が立ち退きの条件として申し出る立ち退き料や、代わりの物件の提供のことです。
ほかの4つの要素だけでは正当事由が足りない場合に、足りない部分を補う役割を持ちます。
立ち退き料は単独で立ち退きを決めるものではなく、ほかの4つの要素とあわせて評価されます。
立ち退きの正当事由が認められやすいケース・認められにくいケース
正当事由が認められるかどうかは個別の事情しだいですが、貸主が立ち退きを求める理由ごとに一定の傾向があります。
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貸主の理由 |
認められやすい事情 |
認められにくい事情 |
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貸主・家族の自己使用 |
他に住む場所がなく、切実な必要がある |
貸主に別の住まいがある |
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老朽化・建て替え |
耐震性が不足し倒壊の危険がある |
築年数が古いだけで修繕すれば使える |
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売却・土地の有効活用 |
十分な立ち退き料とあわせて求めている |
売却益や利回りを上げることが目的 |
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再開発 |
計画が具体的で実現の見込みが高い |
計画があいまいで実行時期が見えない |
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オーナーチェンジ |
購入後に予期できない事情が生じた |
借主がいると知って購入している |
裁判例を見ても、多くのケースで立ち退き料の提供とあわせて正当事由が判断されています。
正当事由が認められやすいケース
正当事由が認められやすいのは、貸主側の必要性が切実で、借主側の必要性を明らかに上回るケースです。
代表例は次の3つです。
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耐震性が不足し、地震で倒壊する危険があると診断されている
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貸主が転勤から戻るなどして、他に住む場所がない
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借主が建物をほとんど使っておらず、転居しても生活への影響が小さい
上記のケースでも、裁判所は十分な立ち退き料の支払いを条件に正当事由を認めることが多くあります。
正当事由が認められそうな場合は、拒否を続けるよりも、立ち退き料や退去時期の条件交渉に切り替えるほうが得策です。
正当事由が認められにくいケース
正当事由が認められにくいのは、貸主側の理由が収益の向上や都合の良さにとどまるケースです。
代表例は次の4つです。
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築年数が古いだけで、修繕すれば安全に使える
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建物を売却したい、建て替えて家賃収入を増やしたい
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貸主には別に自宅があり、建物に住む必要が乏しい
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借主が住んでいると知りながら物件を購入し、すぐに退去を求めている
特にオーナーチェンジの場合、新しい貸主は借主がいることを前提に購入しているため、自己使用の必要性は弱く見られやすくなります。
上記にあてはまる場合は、提示された条件に納得できなければ退去を断る余地が十分にあります。
立ち退きの正当事由と立ち退き料の関係|不足分をお金で補う
立ち退き料は、ほかの事情だけでは足りない正当事由を補う要素です。
そのため、立ち退き料が支払われれば必ず立ち退きが認められるわけではありません。
反対に、貸主側の事情が強ければ、少額の立ち退き料や立ち退き料なしで正当事由が認められた裁判例もあり、提示がないからといって必ず拒否できるわけでもありません。
裁判では、貸主が申し出た金額と格段の差がない範囲で、申出額を上回る立ち退き料の支払いと引き換えに明け渡しが命じられることもあります(最高裁昭和46年11月25日判決)。
立ち退き料に法律で決められた計算式はありませんが、一般的には次のような費用が考慮されます。
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物件の種類 |
考慮されやすい費用 |
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住宅 |
引っ越し費用、新居の敷金・礼金・仲介手数料、家賃が上がる場合の差額 |
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店舗・事務所 |
上記に加え、内装工事費、移転期間中の休業損失、顧客を失うことによる損失 |
提示額が上記の実費をまかなえるかを、見積もりを取って比べてみることが重要です。
【関連記事】立ち退き交渉の進め方は?6つのステップや立ち退き料の相場を解説
立ち退きを求められたら借主が確認すべき4つのこと
立ち退きの通知を受けたら、次の4点を確認するのが先決です。
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契約書で普通借家か定期借家かを確かめる
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通知が期間満了の1年前から6か月前に届いたかを確かめる
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立ち退きを求める理由と根拠資料を確かめる
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提示された立ち退き料と退去時期を確かめる
順番に確認していきましょう。
1. 契約書で普通借家か定期借家かを確かめる
最初に、契約書を見て、自分の契約が普通借家か定期借家かを確かめます。
確認するのは、契約書の表題、「契約の更新がない」という条項、契約前に受け取った説明の書面の3点です。
表題に「定期建物賃貸借契約」とあっても、契約書とは別の説明の書面がなければ普通借家として扱われます。
契約書が見当たらない場合は、管理会社に写しを求められます。
普通借家であれば、貸主都合の立ち退きには正当事由が必要という前提で対応を考えましょう。
2. 通知が期間満了の1年前から6か月前に届いたかを確かめる
次に、「更新しない」という通知が、期間満了の1年前から6か月前までに届いたかを確かめます。
期限内に通知がなかった場合、契約は同じ条件で自動的に更新されます(法定更新)。
期限内に通知があっても、期間満了後も住み続ける借主に貸主が遅滞なく異議を述べなければ、同じく更新されたものとみなされます(借地借家法26条2項)。
法定更新された後の契約は期間の定めがない契約になり、貸主はいつでも解約を申し入れられます。
ただし、解約申入れから6か月が過ぎないと契約は終わらず、解約申入れにも正当事由が必要です。
通知書や封筒は、届いた日付がわかる状態で保管しておきましょう。
3. 立ち退きを求める理由と根拠資料を確かめる
立ち退きを求める理由は、口頭の説明だけでなく、根拠となる資料とあわせて確認します。
理由ごとに確認したい資料は次のとおりです。
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老朽化・耐震性:耐震診断の結果、修繕の見積もり
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建て替え・再開発:建築計画や事業計画の内容と時期
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自己使用:貸主や家族が住む必要がある具体的な事情
資料が示されない場合は、正当事由の裏づけが弱い可能性を念頭に置いて交渉に臨めます。
4. 提示された立ち退き料と退去時期を確かめる
最後に、提示された立ち退き料の金額と、退去の期限を確かめます。
あわせて、次の条件も確認しておくと、後のトラブルを防げます。
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立ち退き料の内訳と支払時期(退去前か退去後か)
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敷金の返還と原状回復費用の扱い
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退去期限を延ばせる余地があるか
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引っ越し先探しへの協力があるか
引っ越し費用や新居の初期費用の見積もりを先に取り、提示額と比べておきましょう。
立ち退きの正当事由に納得できないときの対処法
正当事由に納得できない場合、借主は退去を断れ、最終的には裁判所が正当事由の有無を判断します。
話し合いがまとまらなければ、民事調停、建物明渡請求訴訟へと進むのが一般的な流れです。
判決などの法的な手続きを経ないまま、貸主が借主を強制的に退去させることはできません。
1. 理由と根拠資料を書面で求める
まず、立ち退きを求める理由と根拠資料を、書面やメールで示すよう貸主に求めます。
口頭だけのやり取りでは、後から「言った、言わない」の争いになりやすいためです。
電話や面談で話した内容は、日時・相手・話した内容をメモに残しておきます。
やり取りの記録は、弁護士に相談するときや調停・訴訟になったときの証拠として役立ちます。
2. 立ち退き料や退去時期を交渉する
退去に応じる余地がある場合は、立ち退き料の増額や退去時期の延長を交渉します。
たとえば、家賃8万円の住まいから家賃9万円の物件に移る場合、月1万円の差額が生じる計算です。
差額の2年分にあたる24万円に、引っ越し費用や新居の初期費用の見積もりを加えると、根拠のある金額として示しやすくなります。
合意できたら、金額・支払時期・退去日・敷金の扱いを合意書にまとめてもらいましょう。
3. 民事調停を利用する
当事者同士の話し合いが行き詰まったら、簡易裁判所の民事調停を利用できます。
民事調停では、裁判官と調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら解決案を探ります。
建物の貸し借りに関する調停は、原則として建物の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てます(民事調停法24条)。
調停で合意した内容は調停調書に記載され、確定判決と同じ効力を持ちます。
4. 建物明渡請求訴訟では裁判所が正当事由を判断する
貸主が建物明渡請求訴訟を起こした場合、正当事由があるかどうかは裁判所が判断します。
訴状が届いたら、期限までに答弁書を出し、住み続ける必要性や正当事由が足りない理由を主張するのが基本です。
裁判所が正当事由を認めなければ、借主はそのまま住み続けられます。
正当事由が一定の立ち退き料で補われると判断された場合は、立ち退き料の支払いと引き換えに明け渡しを命じる判決が出ることもあります。
訴状を放置すると貸主の主張どおりの判決が出るおそれがあるため、訴状が届いた時点で早めに弁護士へ相談することが重要です。
立ち退きを求められたときにやってはいけない3つの対応
立ち退きを求められたときは、次の3つの対応を避けるようにしましょう。
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家賃の支払いを止める
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立ち退き料などの条件を決める前に引っ越す
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感情的なやり取りや無断の改装をする
それぞれ理由を説明します。
1. 家賃の支払いを止める
交渉中であっても、家賃は払い続けることが大切です。
立ち退きに納得できないからといって家賃を止めると、家賃の不払いを理由に契約を解除されるおそれがあります。
契約違反による解除が認められると、正当事由の問題ではなくなり、立ち退き料も受け取れなくなります。
貸主が家賃の受け取りを拒んだ場合は、毎月の支払期日ごとに法務局に家賃を供託(法務局に預けて支払いに代えること)すれば、支払ったのと同じ扱いになります(民法494条)。
2. 立ち退き料などの条件を決める前に引っ越す
立ち退き料や退去日を合意書で決める前に、先に引っ越してしまうのは避けます。
先に部屋を明け渡すと、貸主は立ち退きを求める必要がなくなり、立ち退き料を払う動機を失います。
退去届の提出や鍵の返却も、条件が書面で決まってから行うようにしましょう。
3. 感情的なやり取りや無断の改装をする
貸主に対して威圧的な言動をとったり、無断で部屋を改装したりすると、信頼関係を損ない、正当事由の判断で借主に不利な事情になります。
無断の増改築や又貸しは、契約違反そのものとして解除の理由になることもあります。
腹が立つ場面でも、やり取りは冷静に記録を残しながら進めましょう。
立ち退きの正当事由について相談できる窓口
正当事由が認められそうか、提示された立ち退き料が妥当かは、不動産トラブルに詳しい弁護士に相談すると判断しやすくなります。
費用が心配な場合は、無料で相談できる公的な窓口も利用できます。
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相談先 |
相談できること |
向いているケース |
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弁護士 |
正当事由の見通し、立ち退き料の交渉、調停・訴訟の代理 |
交渉がこじれている、訴状が届いた |
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認定司法書士 |
訴額140万円以下の事件の相談・代理 |
争いの金額が小さい |
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法テラス |
収入などの条件を満たせば無料の法律相談、弁護士費用の立替え |
費用の負担が心配 |
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自治体の無料法律相談 |
弁護士による短時間の法律相談 |
まず全体の見通しを知りたい |
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消費生活センター・188番 |
事業者の貸主との契約トラブルの相談・助言 |
管理会社や不動産会社の対応に疑問がある |
特に、次のような状況にあてはまる場合は、早めに弁護士への相談を検討してください。
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退去の期限が迫っている
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提示された立ち退き料が引っ越しの実費に届かない
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店舗や事務所で、移転すると営業に大きな影響が出る
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調停の申立書や訴状が届いた
【関連記事】不動産トラブルは弁護士に相談できる?種類・費用・選び方を解説
貸主側から見た立ち退きの正当事由|求める前に準備したいこと
貸主が立ち退きを求める場合は、正当事由を裏づける資料と立ち退き料の算定根拠を用意し、通知期間を守ることが前提です。
最低限、次の3点を準備しておきましょう。
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耐震診断の結果や建て替え計画など、理由を示す客観的な資料
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引っ越し費用や家賃差額などをもとにした立ち退き料の算定根拠
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期間満了の1年前から6か月前までに届く更新拒絶の通知
借主が応じない場合でも、鍵の交換や荷物の運び出しによる追い出しは裁判の手続きによらない違法な自力救済(実力で権利を実現すること)にあたります。
【関連記事】立ち退き交渉の進め方は?6つのステップや立ち退き料の相場を解説
立ち退きの正当事由に関する悩みは「ベンナビ法律相談Q&A」で解決しよう
立ち退きの正当事由は、貸主と借主の事情や建物の状態、立ち退き料の金額を総合して判断されます。
そのため、自分のケースが認められる側か認められない側かを一人で見極めるのは簡単ではありません。
早い段階で弁護士に相談すれば、正当事由の見通しや立ち退き料の妥当性、調停・訴訟になった場合の対応まで、具体的な選択肢を把握できるのが利点です。
とはいえ、「弁護士に相談すべきレベルの話なのか」判断がつかない、という方も少なくありません。
ベンナビ法律相談Q&Aでは、質問を投稿すると、立ち退きなどの不動産トラブルを得意とする弁護士が無料で回答してくれるため、解決に向けた具体的な対処方法がわかります。
まずは無料の質問投稿を活用し、自分の状況で何ができるのかを確認してみましょう。
立ち退きの正当事由に関するよくある質問
さいごに、立ち退きの正当事由についてよく寄せられる質問を紹介します。
築何年なら老朽化が正当事由になる?
築何年で正当事由になる、という決まりはありません。
裁判所が重視するのは、築年数よりも耐震性の不足や倒壊の危険、修繕で使い続けられるかどうかです。
1981年5月以前の旧耐震基準で建てられ、耐震診断で倒壊の危険が指摘された建物は、老朽化が重く見られやすくなります。
立ち退き料100万円は妥当?
100万円が妥当かどうかは、家賃や引っ越しにかかる実費、正当事由の強さによって変わります。
住宅の場合、家賃の6か月分前後に引っ越し費用を加えた金額が目安として紹介されることが多くあります。
引っ越し費用や新居の初期費用の見積もりと比べ、足りない場合は根拠を示して増額を交渉しましょう。
店舗・テナントでも正当事由は必要?
はい、店舗や事務所の賃貸借でも、普通借家契約であれば正当事由が必要です。
店舗の場合は営業の継続が借主の生活の基盤となるため、借主の必要性が高く評価されやすくなります。
移転にともなう内装費や休業損失も考慮されるため、立ち退き料は住宅より高額になる傾向があります。
サブリースの解約にも正当事由は必要?
オーナーがサブリース会社との一括借り上げ契約を解約・更新拒絶する場合も、正当事由が必要になるのが原則です。
最高裁はサブリース契約にも借地借家法が適用されると判断しています(最高裁平成15年10月21日判決)。
契約の内容によって扱いが変わることもあるため、解約を検討する際は契約書を弁護士に確認してもらうと安心です。
借地の立ち退きにも正当事由は必要?
はい、建物を建てる目的で土地を借りている場合(借地)も、地主が契約の更新を拒むには正当事由が必要です。
借地上に建物があるときは、借地権者が更新を求めると、地主が正当事由のある異議を遅滞なく述べない限り契約は更新されたものとみなされます(借地借家法5条・6条)。
駐車場や資材置き場など、建物を建てる目的ではない土地の貸し借りには借地借家法が適用されないため、扱いが異なります。
まとめ
普通借家契約では、貸主の都合で立ち退きを求めるには正当事由が必要で、通知を受けただけで退去する義務はありません。
正当事由は、貸主と借主の必要性を中心に、従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立ち退き料を総合して判断されます。
通知を受けたら、契約の種類、通知の時期、理由と根拠資料、提示条件の4点を確認し、納得できなければ交渉や調停で話し合いましょう。
その間も家賃は払い続け、条件を書面で決める前に引っ越さないことが大切です。
一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することが、納得できる解決への近道です。
