明け渡し訴訟とは?流れ・期間・費用から強制執行までを貸主向けに解説
家賃の滞納が何か月も続き、督促しても入居者が支払いにも退去にも応じない状況に悩んでいませんか。
話し合いで解決できない場合、貸主は明け渡し訴訟を起こし、判決にもとづく強制執行で部屋の明渡しを求めることができます。
ただし、訴訟を起こす前に契約を正しく終了させておかないと、判決で明渡しが認められないこともあるため、事前の確認が重要です。
この記事では、貸主側の立場を中心に、明け渡し訴訟が認められる条件、提訴から強制執行までの流れ、期間と費用の目安、やってはいけない対応まで解説します。
読み終えるころには、自分のケースでいつまでに・いくらで明渡しを実現できそうかを見積もれるようになります。
- 明け渡し訴訟とは|始める前に確認したい5つのポイント
- 明け渡し訴訟が認められるかは「契約が終了しているか」で決まる
- 明け渡し訴訟を起こす前にやっておきたい3つの準備
- 明け渡し訴訟の流れ|提訴から明渡し完了までの6ステップ
- 明け渡し訴訟の期間は「明渡し完了まで半年前後」が目安
- 明け渡し訴訟の費用|裁判所・強制執行・弁護士費用の目安
- 明け渡し訴訟でやってはいけない3つの対応
- 明け渡し訴訟は誰に依頼できる?3つの選択肢と特徴
- 明け渡し訴訟を起こされた借主はどうなる?貸主側も知っておきたいポイント
- 明け渡し訴訟に関する悩みは「ベンナビ法律相談Q&A」で解決しよう
- 明け渡し訴訟に関するよくある質問
- まとめ
明け渡し訴訟とは|始める前に確認したい5つのポイント
明け渡し訴訟(あけわたしそしょう)とは、契約が終わったのに退去しない借主に対し、裁判所の判決で建物の明渡しを命じてもらう手続きです。
「明渡訴訟」「建物明け渡し請求訴訟」と呼ばれることもあります。
始める前に、以下の5点を押さえておきましょう。
| 確認項目 | 内容 |
| 目的 | 判決を得て、借主に建物を明け渡させる |
| 前提 | 賃貸借契約が解除・期間満了などで終了していること |
| 裁判所 | 建物の所在地などを管轄する簡易裁判所または地方裁判所 |
| 期間 | 争いがなければ提訴から明渡し完了まで4~6か月程度 |
| 費用 | 裁判所の手数料、強制執行の費用、弁護士費用 |
注意したいのは、判決が出ただけでは借主を退去させられない点です。
判決後も借主が居座る場合は、あらためて強制執行を申し立て、執行官に明渡しを実現してもらう必要があります。
明け渡し訴訟が認められるかは「契約が終了しているか」で決まる
明け渡し訴訟で勝訴できるのは、賃貸借契約がすでに終了していると裁判所が認める場合です。
契約が続いている限り、借主には部屋を使う権利があるためです。
契約が終了する理由は、主に次の4つに分かれます。
| 終了の理由 | 必要な条件 |
| 家賃滞納・用法違反 | 信頼関係が壊れたといえる程度の違反と、契約解除の通知 |
| 無断転貸・無断譲渡 | 貸主の承諾がない又貸しや譲渡と、契約解除の通知 |
| 貸主都合の更新拒絶・解約申入れ | 法律で決まった期間内の通知と、正当事由 |
| 定期借家契約の期間満了 | 契約が有効な定期借家であることと、終了の通知 |
それぞれの考え方を見ていきます。
1. 家賃滞納・用法違反|信頼関係が壊れているかで判断される
家賃滞納を理由に契約を解除できるかは、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえるかどうかで判断されます。
信頼関係の有無で解除を判断する考え方は「信頼関係破壊の法理」と呼ばれ、判例で確立された判断枠組みです。
1~2か月の滞納では解除が認められにくく、3か月程度の滞納が続いていることが一つの目安とされています。
解除の前には、相当の期間を定めて支払いを求める「催告」が必要です。
たとえば、「2週間以内に滞納分を支払わなければ契約を解除する」と通知し、期限を過ぎても支払いがなければ解除の効力が生じます。
ペット禁止の物件での多頭飼育や、近隣への迷惑行為の繰り返しといった用法違反も、同じく信頼関係が壊れたかどうかで判断されます。
2. 無断転貸・無断譲渡
借主が貸主の承諾を得ずに部屋を又貸ししたり、賃借権を譲ったりした場合、貸主は民法612条にもとづいて契約を解除できます。
たとえば、無断で部屋を民泊に使っていたり、契約者ではない第三者が住み着いていたりするケースです。
ただし、親族に一時的に住まわせただけなど、貸主への背信的な行為といえない特段の事情があれば、解除が認められないこともあります。
3. 貸主都合の更新拒絶・解約申入れ|正当事由が必要になる
建物の老朽化や建て替えなど、貸主側の事情で明渡しを求める場合は、法律で決まった期間内の通知と「正当事由」の両方が必要です。
期間の定めがある契約では、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨を通知します。
期間の定めがない契約では、解約を申し入れてから6か月が経つと契約が終了する仕組みです。
正当事由の有無は、貸主・借主それぞれが建物を必要とする事情を中心に、賃貸借のこれまでの経過、建物の利用状況と現況、立ち退き料などの申出を考慮して判断されます。
貸主都合の明渡しは、訴訟の前に立ち退き交渉で合意を目指すのが一般的です。
【関連記事】立ち退き交渉の進め方は?6つのステップや立ち退き料の相場を解説
4. 定期借家契約の期間満了|終了の通知が必要になる
定期借家契約(更新のない賃貸借契約)であれば、正当事由がなくても期間満了で契約を終わらせられます。
ただし、契約期間が1年以上の場合は、期間満了の1年前から6か月前までに「期間満了で契約が終了する」と借主へ通知する必要があります。
通知が遅れた場合は、通知した日から6か月を経過するまで、契約の終了を借主に主張できない決まりです。
また、契約書とは別の書面で更新がないことを事前に説明していなければ、定期借家として扱われず、普通借家契約とみなされます。
訴訟を検討する前に、契約書と事前説明の書面が残っているかを確認しておきましょう。
明け渡し訴訟を起こす前にやっておきたい3つの準備
提訴の前に、契約解除の通知・保証人などへの請求・占有者の確認の3つを済ませておくと、手続きが滞りにくくなります。
- 内容証明郵便で支払いを催告し、契約を解除する
- 連帯保証人や家賃保証会社に請求する
- 占有者が入れ替わるおそれがあれば占有移転禁止の仮処分を検討する
順番に確認していきましょう。
1. 内容証明郵便で支払いを催告し、契約を解除する
家賃滞納を理由にする場合は、内容証明郵便で催告と解除の意思表示をまとめて送るのが基本です。
文面には、滞納額、支払期限、期限までに支払いがなければ契約を解除する旨を記載します。
内容証明郵便を使えば、いつ・どのような内容の通知を送ったかを郵便局に証明してもらえるのが利点です。
配達証明もあわせて付けておくと、借主に届いた日付まで証拠に残せます。
借主が受け取りを拒否した場合でも、通知の効力が認められるケースがあるため、返送された封筒は開封せずに保管しておきましょう。
2. 連帯保証人や家賃保証会社に請求する
訴訟と並行して、連帯保証人や家賃保証会社に滞納分を請求しておくことも大切です。
滞納分を回収できれば、訴訟や強制執行の費用を立て替える負担を抑えられます。
2020年4月1日施行の改正民法により、同日以降に結ばれた賃貸借の連帯保証のうち個人が保証人となるもの(個人根保証契約)は、保証の上限額(極度額)を定めていなければ無効です。
保証人へ請求する前に、契約書に極度額の記載があるかを確認しておきましょう。
3. 占有者が入れ替わるおそれがあれば占有移転禁止の仮処分を検討する
借主が第三者に部屋を又貸ししそうな場合は、提訴前に「占有移転禁止の仮処分」の申立てを検討しましょう。
明渡しの判決は、原則として判決の名宛人である借主に対してしか強制執行できません。
訴訟中に別の人物が住み着くと、新たな占有者を相手にあらためて訴訟を起こさなければならず、二度手間です。
仮処分を執行しておけば、その後に部屋を占有した人物に対しても、同じ判決で強制執行できるようになります。
仮処分の申立てには担保金を納める必要があるため、費用面も含めて弁護士に相談しておくとよいです。
明け渡し訴訟の流れ|提訴から明渡し完了までの6ステップ

明け渡し訴訟は、訴状の提出から断行(強制的な明渡し)まで、次の6つのステップで進みます。
- 管轄の裁判所に訴状を提出する
- 第1回口頭弁論期日に出頭する
- 和解または判決で決着する
- 判決確定後に強制執行を申し立てる
- 執行官が明渡しの催告をする
- 断行で明渡しが完了する
それぞれの段階で貸主がすることを解説します。
ステップ1:管轄の裁判所に訴状を提出する
訴状は、訴額(訴訟の目的の価額)に応じて簡易裁判所か地方裁判所に提出します。
建物の明渡しを求める訴訟では、建物の固定資産評価額の2分の1が訴額になる取扱いです。
訴額が140万円を超えれば地方裁判所、140万円以下なら簡易裁判所が原則ですが、不動産に関する訴訟は140万円以下でも地方裁判所に起こせます。
訴状とあわせて、主に以下の書類を用意します。
- 賃貸借契約書の写し
- 内容証明郵便などの解除通知と配達証明書の写し
- 建物の固定資産評価証明書
- 建物の登記事項証明書
滞納家賃の支払いもあわせて請求できるため、訴状には明渡しと未払賃料の両方を記載するのが一般的です。
ステップ2:第1回口頭弁論期日に出頭する
訴状が受理されると、提訴からおおむね1~2か月後に第1回口頭弁論期日が開かれます。
借主には、裁判所から訴状と呼出状が送られる流れです。
借主が答弁書を出さずに欠席すると、貸主の主張を認めたものとみなされ、第1回期日のうちに審理が終わることもあります。
借主が引っ越し先不明で訴状を届けられない場合は、「公示送達」という方法で送達したものとして手続きを進められます。
ステップ3:和解または判決で決着する
訴訟は、和解が成立するか判決が言い渡されることで決着します。
和解で取り決める条件の例は、以下のとおりです。
- 〇月〇日までに部屋を明け渡す
- 滞納分を月〇万円ずつ分割で支払う
- 支払いを一度でも怠れば、直ちに明け渡す
和解の内容を記載した和解調書は、判決と同じ効力を持つ書面です。
判決の場合は、判決書の送達を受けてから2週間以内に控訴がなければ確定します。
明渡しの判決には、確定前でも強制執行できる効力を与える「仮執行宣言」が付くことも多く、その場合は確定を待たずに強制執行の申立てに進めます。
ステップ4:判決確定後に強制執行を申し立てる
判決や和解調書が出ても借主が退去しない場合は、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に強制執行を申し立てます。
申立てには、強制執行できることを裁判所書記官が証明する「執行文」を判決などに付けてもらったものと、判決などが借主に送達されたことの証明書が必要です。
申立ての際には、執行官の手数料などにあてる予納金を納めます。
荷物の搬出や保管を担う執行補助業者の手配も、申立てと並行して進めておきましょう。
ステップ5:執行官が明渡しの催告をする
申立てから2週間ほどで、執行官が部屋を訪れ、明渡しの期限を定めて退去を求める「明渡しの催告」をおこないます。
期限は、原則として催告の日から1か月を経過する日です。
部屋には、期限と断行の予定日を記載した公示書が貼られます。
催告を受けて、期限までに自分から退去する借主も多いです。
催告の後に借主が部屋を第三者に引き渡しても、引き渡しを受けた第三者に対してそのまま強制執行できます。
ステップ6:断行で明渡しが完了する
期限を過ぎても借主が退去しなければ、執行官が借主の占有を解き、部屋を貸主に引き渡す「断行」がおこなわれます。
当日は、執行補助業者が室内の荷物を搬出し、鍵を交換する流れです。
搬出された荷物は一定期間保管され、借主が引き取らなければ売却などの方法で処理されます。
断行には、貸主本人か代理人が立ち会う必要がある点も覚えておきましょう。
明け渡し訴訟の期間は「明渡し完了まで半年前後」が目安

借主が争わない場合、提訴から明渡し完了までは4~6か月程度が目安です。
段階ごとの期間は、おおむね以下のとおりです。
| 段階 | 期間の目安 |
| 訴状の提出から第1回口頭弁論期日まで | 1~2か月 |
| 第1回期日から判決・和解まで | 争いがなければ即日~1か月 |
| 強制執行の申立てから明渡しの催告まで | 2週間程度 |
| 明渡しの催告から断行まで | 1か月程度 |
借主が滞納の理由や解除の有効性を争う場合は、期日が何度も開かれ、判決まで1年以上かかることもあります。
また、家賃の滞納が始まってから数えると、催告・解除の期間も含めて半年から1年ほどかかるケースが一般的です。
建て替えや再募集の予定がある場合は、余裕を持ったスケジュールを組んでおきましょう。
明け渡し訴訟の費用|裁判所・強制執行・弁護士費用の目安
明け渡し訴訟の費用は、裁判所に納める手数料、強制執行の費用、弁護士費用の3つに分かれます。
| 費用項目 | 目安 |
| 裁判所に納める手数料 | 訴額で決まる。 訴額500万円なら3万円台 |
| 強制執行の予納金 | 東京地裁の標準で6万5,000円から |
| 執行補助業者の費用 | 荷物の量により数十万円程度 |
| 弁護士費用 | 着手金・報酬金をあわせて数十万円程度 |
建物の評価額や室内の荷物の量によって、総額は大きく変わります。
それぞれの内訳を確認していきましょう。
1. 裁判所に納める手数料|2026年5月21日から額が改定された
訴えを起こすときに納める手数料は、訴額によって決まり、2026年5月21日以降の申立てでは書面と電子で額が異なります。
額の改定は、民事訴訟のIT化にともなう法改正(民事訴訟費用等に関する法律の改正)の施行によるものです。
たとえば、建物の固定資産評価額が1,000万円の場合、訴額は500万円になります。
訴額500万円の手数料は、書面で申し立てると3万2,500円、オンラインで申し立てると3万1,400円です。
明渡しとあわせて請求する滞納家賃や賃料相当の損害金は、附帯請求として訴額に含めないのが原則です。
正確な金額は、裁判所の手数料額早見表で確認してください。
【参考】手数料額早見表|裁判所
2. 強制執行の予納金と執行補助業者の費用
強制執行では、執行官に納める予納金と、荷物の搬出・保管を担う執行補助業者の費用がかかります。
東京地方裁判所の執行官室が公表している2020年3月時点の標準表では、建物明渡しの予納金を6万5,000円とし、債務者や物件が1つ増すごとに2万5,000円を加算する扱いです。
ただし、予納金には作業員の日当や荷物の運搬費、倉庫の保管費は含まれていません。
執行補助業者の費用は荷物の量で変わり、ワンルームでも数十万円程度になることがあります。
予納金の額は裁判所ごとに異なるため、申立て先の執行官室に確認しておきましょう。
3. 弁護士費用|着手金・報酬金の目安
弁護士に依頼する場合の費用は、着手金と報酬金をあわせて数十万円程度が目安です。
| 費用項目 | 目安 |
| 相談料 | 30分5,000円程度。 初回無料の事務所もある |
| 着手金 | 20万~40万円程度 |
| 報酬金 | 20万~40万円程度 |
| 実費・日当 | 郵送費、交通費、期日への出廷日当など |
なかには、内容証明郵便の送付から訴訟・強制執行までを一括料金で引き受ける事務所もあります。
料金体系は事務所ごとに異なるため、依頼前に訴訟や強制執行に進んだ場合の追加費用まで見積もりで確認しておくと安心です。
4. 費用は誰が負担する?|訴訟費用は敗訴者負担が原則
裁判所に納める手数料などの訴訟費用は、原則として敗訴した借主の負担になります。
貸主は、強制執行にかかった費用も借主に請求することが可能です。
ただし、弁護士費用は原則として各自の負担で、借主に請求することはできません。
また、家賃を滞納している借主には支払い能力がないことも多く、訴訟費用や執行費用を実際に回収できないケースが少なくありません。
費用を立て替える前提で、総額を見積もっておくのが現実的です。
明け渡し訴訟でやってはいけない3つの対応
判決を待たずに鍵を替えたり荷物を処分したりする「自力救済」は、貸主が損害賠償を求められるおそれがあります。
- 鍵の交換や荷物の搬出で追い出す
- 夜逃げした借主の荷物を勝手に処分する
- あいまいな条件のまま和解する
どの対応も、明渡しを早めるつもりが、かえって解決を遠ざける原因になります。
1. 鍵の交換や荷物の搬出で追い出す
滞納が続いていても、貸主が勝手に鍵を交換したり荷物を運び出したりすることは認められていません。
法律上の手続きを経ずに権利を実現する自力救済は、原則として禁止されているためです。
鍵の交換で借主が部屋に入れなくなれば、損害賠償を請求されたり、住居侵入罪や器物損壊罪に問われたりする可能性があります。
最高裁判所は2022年12月12日、家賃保証会社が一定の条件を満たせば部屋を明け渡したものとみなす契約条項について、消費者契約法に反するとして使用の差止めを認めました。
管理会社や保証会社が強引に追い出そうとしている場合も、そのまま任せずに止めることが大切です。
2. 夜逃げした借主の荷物を勝手に処分する
借主と連絡が取れなくなっても、残された荷物を貸主の判断で処分してはいけません。
荷物の所有権は借主にあり、処分すれば損害賠償を請求されるおそれがあるためです。
所在がわからない借主に対しては、公示送達を使って訴訟を起こし、判決を得てから強制執行で荷物を搬出します。
手間はかかりますが、正規の手続きを踏むのが、後のトラブルを防ぐ確実な方法です。
3. あいまいな条件のまま和解する
和解をするときは、退去日、支払期日、約束が守られなかったときの扱いを条項に明記しましょう。
「できるだけ早く退去する」のような表現では、期限を過ぎても強制執行に進めない可能性があります。
特に分割払いを認める場合は、「支払いを2回分以上怠ったときは直ちに明け渡す」など、不履行時の明渡しを定めておくことが欠かせません。
和解案を提示されたら、署名する前に弁護士に条項を確認してもらうと安心です。
明け渡し訴訟は誰に依頼できる?3つの選択肢と特徴
明け渡し訴訟の進め方は、自分で進める本人訴訟、認定司法書士への依頼、弁護士への依頼の3つです。
| 選択肢 | 対応できる範囲 | 注意点 |
| 自分で訴訟をする | 訴状作成から強制執行の申立てまで | 書類作成や期日への出頭をすべて自分でおこなう |
| 認定司法書士 | 訴額140万円以下の簡易裁判所の事件 | 地方裁判所の事件や控訴審は代理できない |
| 弁護士 | 交渉・訴訟・強制執行のすべて | 弁護士費用がかかる |
なお、管理会社などが報酬を得て借主との交渉を代行することは、弁護士法72条に反するおそれがあります。
自分で訴訟をする(本人訴訟)|費用は抑えられるが手間がかかる
明け渡し訴訟は、弁護士に依頼せず貸主本人が起こすこともできます。
弁護士費用がかからない点はメリットです。
一方で、解除が有効かどうかの判断、訴状や証拠の準備、期日への出頭、強制執行の申立てまで、すべて自分で対応しなければなりません。
書類に不備があれば、補正の手間が増えて明渡しが遅れることもあります。
本人訴訟で始めた場合でも、借主が争ってきた段階で弁護士に依頼を切り替えることは可能です。
認定司法書士|訴額140万円以下の簡裁事件なら代理できる
法務大臣の認定を受けた認定司法書士は、訴額140万円以下の簡易裁判所の事件であれば、代理人として訴訟を担当できます。
建物の評価額が低い物件であれば、司法書士への依頼も選択肢です。
ただし、地方裁判所に提起する事件や控訴審は代理できません。
依頼する前に、建物の固定資産評価額から訴額を計算し、代理権の範囲に収まるかを確認しておきましょう。
弁護士|通知から強制執行まで一貫して任せられる
弁護士に依頼すれば、解除通知の送付から交渉・訴訟・強制執行まで一貫して任せられます。
主なメリットは、以下の3つです。
- 借主と直接やり取りせずに済む
- 解除の有効性や和解条件を、裁判例を踏まえて判断してもらえる
- 強制執行の申立てや執行補助業者の手配まで任せられる
一方で、着手金や報酬金などの弁護士費用がかかる点は、依頼前に考えておきたい負担です。
滞納額や空室期間の損失と比べて、依頼するかを判断しましょう。
収入などが一定の基準以下であれば、法テラスの無料法律相談や弁護士費用の立替制度を使える場合もあります。
【関連記事】
不動産トラブルは弁護士に相談できる?種類・費用・選び方を解説
明け渡し訴訟を起こされた借主はどうなる?貸主側も知っておきたいポイント
貸主が訴訟を進めるうえでは、訴えられた借主がどう動くかも知っておくと、和解の見通しを立てやすくなります。
答弁書を出さずに欠席すると貸主の請求が認められやすい
借主が答弁書を出さずに期日を欠席すると、貸主の主張した事実を認めたものとみなされることがあります。
欠席による「擬制自白」が成立すると、貸主の請求どおりの判決が出やすくなるのです。
一方で、借主が答弁書で滞納の事情や解除の無効を主張してきた場合は、審理が長引きます。
貸主側は、滞納の記録や督促の経緯を時系列で整理しておくと、争われたときにも対応しやすくなります。
和解で分割払いや退去の猶予が決まることもある
訴訟の途中で、借主から滞納分の分割払いや退去時期の猶予を条件とする和解を提案されることもあります。
裁判官から和解を勧められる場面も珍しくないです。
貸主にとっても、和解で確実な退去日を決められれば、強制執行の費用や時間を省けるメリットがあります。
和解に応じるかどうかは、借主の支払い能力と、明渡しまでにかかる期間・費用を比べて判断しましょう。
明け渡し訴訟に関する悩みは「ベンナビ法律相談Q&A」で解決しよう
明け渡し訴訟は、契約解除の有効性や和解条件の決め方によって、明渡しまでの期間と費用が大きく変わります。
早い段階で弁護士に相談することで、解除通知の書き方から訴訟・強制執行の見通しまで、具体的な選択肢が見えてきます。
とはいえ、「これって弁護士に相談すべきレベルの話なのか」判断がつかない、という方も多いです。
ベンナビ法律相談Q&Aでは、質問を投稿すると、建物明渡しなどの不動産トラブルを得意とする弁護士が無料で回答してくれるため、解決に向けた具体的な対処方法がわかります。
まずは質問を投稿し、自分の状況で何ができるのかを確認してみましょう。
明け渡し訴訟に関するよくある質問
さいごに、明け渡し訴訟についてよく寄せられる質問を紹介します。
家賃滞納が何か月続いたら明け渡し訴訟を起こせる?
法律で何か月と決まっているわけではありませんが、3か月程度の滞納が一つの目安です。
1~2か月の滞納では、信頼関係が壊れたとはいえず、契約解除が認められにくい傾向があります。
明け渡し訴訟の費用は誰が払う?
裁判所の手数料などの訴訟費用は、原則として敗訴した側が負担します。
ただし、弁護士費用は各自の負担です。
借主に支払い能力がなく回収できないことも多いため、詳しくは「費用は誰が負担する?|訴訟費用は敗訴者負担が原則」を確認してください。
少額訴訟や支払督促で明渡しを求めることはできる?
できません。
少額訴訟と支払督促は、どちらも金銭の支払いを求める手続きのため、建物の明渡しは通常の訴訟で求めるのが決まりです。
滞納家賃の回収だけであれば、少額訴訟(60万円以下)や支払督促も選択肢になります。
借主が行方不明でも明け渡し訴訟はできる?
はい、できます。
借主の住所や居所がわからない場合は、公示送達という方法で訴状を送達したものとして訴訟を進めることが可能です。
判決を得たら強制執行を申し立て、残された荷物は執行手続きのなかで搬出します。
明け渡し訴訟と立ち退き交渉の違いは?
立ち退き交渉は話し合いで退去に合意してもらう方法で、明け渡し訴訟は裁判所の判決で明渡しを命じてもらう手続きです。
貸主都合の立ち退きでは、まず交渉で合意を目指し、まとまらなければ訴訟を検討するのが一般的です。
交渉の進め方は「立ち退き交渉の進め方は?6つのステップや立ち退き料の相場を解説」で解説しています。
まとめ
明け渡し訴訟で明渡しが認められるには、まず賃貸借契約が終了していることが前提です。
家賃滞納であれば3か月程度を目安に催告と解除の通知を送り、訴訟から強制執行まで、半年前後のスケジュールで進めるのが一般的です。
費用は手数料・強制執行費用・弁護士費用の3つに分かれ、借主から回収できないことも想定しておく必要があります。
鍵の交換や荷物の処分といった自力救済は、貸主の責任を問われる原因になるため避けましょう。
解除の有効性や和解条件に迷ったら、早めに弁護士へ相談することが、明渡しまでの時間と費用を抑える近道です。
